第10話 街へ

 私は、ゆっくりと冒険者達に近づいて行く。


 だんだんその様子が見えてくる。冒険者達は戦いが終わったのに、手に手に剣や弓などを構えたまま、じっとこちらの方を見てくる。


(あれ、警戒されている?)


 私は少し離れたところで立ち止まると、声をかける。ゴブリン達は私の後ろに並ぶ。


「こんにちは! 旅のものなのですが、近づいてもいいですか?」


「俺はチーム『黎明の嘶き』のガーリットだ。助けてくれたようだな。ありがとう。失礼だが、そちらさんは人間かっ?」


 冒険者のリーダーらしき人物が答えてくれる。

 私はスキルのお陰で話が通じることに安堵しながら、ゴブリン達を警戒しているのかと思い、答える。


「人間です! 今、この子達をしまいますね」


 スマホを取り出し、私はゴブリン達を収納する。


 何故かびっくりしている様子の冒険者達。

 彼らは顔を見合せた後、武器を下ろしていく。


 私はそれを見て、普通に話が出来るところまで近づいて行く。その途中、今度は向こうから話しかけてくる。


「なんと、召喚士の方でしたか。改めて助けていただいたこと、お礼を。それだけのお力、さぞや高名な術士の方とお見受けします。お名前をお伺いしても?」


(あ、ヤバい、名前、思い出せないままだった。クウって言うわけにも……。なんて答えよう……)


「名前は……クウと呼んでください」


 私は思いつかず、ゴブリン達に名乗った名前を名前をそのまま名乗る。

 これが、この世界で私がクウとして生きていくことになった瞬間だった。


「クウ殿ですか。先ほど旅をされているとおっしゃっていましたが、良ければ助けていただいたお礼をさせてください。お急ぎでなければですが」


 私は名乗った名前を疑われる素振りがなくて安心する。


(なんだか途中から私に対する対応が丁重になっているけど、召喚士とやらは地位が高いのかな。確かに、はたから見たら召喚の真似事みたいなことをしているのだろうけど。このまま黙っていて大丈夫だろうか)


 私はそんなことを考えながら答える。


「ありがとうございます。どうやら迷ってしまっていたみたいでして、同行させて頂けたら嬉しいです。皆さんはどちらへ?」


「俺たちはドォアテアルの街へ帰る途中です」


 その時、馬車から一人の男が出てくると、私たちの方へと向かってくる。ガーリットが振り向くと、手で示しながらこちらに話しかけてくる。


「あ、紹介します。リック商会のベニートさんです」


「いやいや、素晴らしい召喚獣達ですね。お陰様で助かりましたよ」


 恰幅のよい中年の男性がニコニコと笑いながら話しかけてくる。


「いえいえ、当然のことをしたまでです。それに大部分は逃げてしまいましたしね」


 私が答えると、大袈裟な身ぶりでベニートは答えた。


「なんと、まあ謙遜の美徳もお持ちとは! クウ殿は人徳も兼ね備えているのですね。申し遅れました、わたくしめはリック商会で副会長補佐をしておりますベニートと申します。今後ともよしなにお願いしますね」


「これはご丁寧に。クウと申します。旅をしているのですが迷ってしまいまして」


「いやいや、それは大変でしたな。是非、ドォアテアルにある我々の商会にお越しください。歓待させて頂きます!」


「ガーリット殿ともそのお話しをさせていただいてたんですよ。是非、同行させて下さい」


「おお! それでは早速! ガーリットさん、盗賊の首級はどうします?」


 ベニートが一歩下がって控えていたガーリットに声をかける。

 ガーリットはこちらを気にしながら答える。


「賞金は、かかってはいないだろう。どうにも素人臭かったしな」


「ふむ、それでは放置でいいですな」


 どうやら殺した盗賊の処遇の話らしい。 

 私は黙ってそれを見守る。


「ではでは、クウ殿、お手荷物がなければ早速行きましょう。さあ、馬車へどうぞどうぞ」


 私はベニートに連れられ一緒に馬車に乗り込む。

 そして馬車はドォアテアルの街へと向かって出発した。

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