第52話 天駆けイルカ

 すぐさま、天駆けイルカをリザルト画面から飛び出す。


 展開される魔法陣。


「でかいわっ」


 それは小型乗用車ぐらいなら軽く入ってしまいそうなぐらいの大きさの魔法陣。

 そこから現れたのは、四対、八枚の羽を生やしたピンク色のイルカだった。

 思っていたイルカのサイズの、数倍はある。


 その一見ファンシーなピンクのイルカが、ふわふわと宙に浮いていたかと思うと、その口をこちらに向け、パカッと開ける。

 並ぶ黄ばんだ牙が禍々しい。巨大なそれは、一本一本から、何か邪悪と言ってもいいぐらいの雰囲気を漂わせている。


 口を閉じ、口吻を差し出してくる天駆けイルカ。

 そっとそれを撫でながら告げる。


「名前は、キミマロにしよう。乗せてくれるかな、キミマロ?」


 こくこく頷くキミマロ。どうやら名前も受け入れてくれたようだ。私はディガー達を全員ユニット編成でスマホに送還すると、身を伏せてくれたキミマロの背中によじ登る。

 背ビレを掴むと告げる。


「よし。キミマロ、出発してくれっ!」


 頭を下げながら、割れた窓ガラスに向けるキミマロ。

 次の瞬間、歯が痛くなるような何かがキミマロから断続的に放射される。

 割れた窓ガラスのあった壁が、吹っ飛ぶ。

 そのままその穴を飛び出していくキミマロと私。


(あ、そうだよね。そうなるよね……。誰も見てないといいんだけど……。というか固有振動数は? 複数の周波数を同時に?)


 上空で一度大きく旋回するキミマロ。


「うわあぁぁぁ……」振りまわされ思わずもれる私の悲鳴。


 方角をどうやってか決めたようで、一直線に飛び進んでいく。

 あっという間に王都が背後に過ぎ去っていく。


 激しく叩きつける向かい風。しかし、上下運動の少ない滑らかな飛行に、何とか声を出す余裕が少しだけ出てきた私は、叫ぶようにキミマロに話しかける。


「キミマロっ! リスティア達の位置はっ?」


「きゅるるるー」とキミマロ。


(うん、わからない。通訳にディガー達を呼び出すのは、今はさすがに無理だよな)


 と、私は一応空いている、自分が座っている後ろのスペースを見ながら考える。


(まあ、キミマロの超音波がレーダーの様に機能してくれているのを期待するしかないか)


 そんな心配をよそに、しばらくまっすぐに飛びつづけていたキミマロが急に方角を変える。旋回したタイミングで地上が見える。

 眼下には、海岸線が広がっていた。どうやら海岸線沿いに追跡しているらしい。


 そして、急速に降下し始めるキミマロ。

 内臓がフワッと浮くような気持ち悪さ。


 海面が目の前まで迫る。

 そこでふっと下降が終わる。慣性でキミマロの体に押し付けられる。


 落ち着いて辺りを見回す。

 リスティア達の姿はない。

 海から崖っぷちを眺めるような位置取りで浮かんでいるキミマロ。


「キミマロ、ここは?」


「きゅるきゅるるる」とキミマロは鳴くと、口吻を崖に向ける。

 そこには無数の洞窟らしき穴が空いていた。


「ああ。あの穴のどれかって事か」


 私はスマホのユニット編成から血吸いコウモリ達を召喚する。


「みんな、頼む。リスティアを探してくれ」


 血吸いコウモリ達はばらばらに穴の探索を始めた。



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