第64話 美味しい所
容器を抱えたまま、私は背中から水中へ。
運よく、リスティアの入った容器が直接水面に叩きつけられるのは防げた。
かわりに、前回とは比べ物にならない衝撃が襲う。
思わず手を離してしまう。
──あっ!
一瞬ヒヤッとするが、容器の中につまった溶液は水より軽い様子。ぷかぷかと水面へ昇る容器を追いかけ、私も水をかく。
「ぷはっ」水面に顔を出すと、ちょうどそこには、炎熱のスコップを乗りこなすディガーが近づいてくるのが見える。
私は容器につかまりながら手を降る。
ディガーも気がついた様子で手を振り返してくる。
とりあえずほっとした私は、ようやく容器の中のリスティアの様子を確認した。
──眠っている? 表情、穏やかだ。容器のケースが半透明で中が確認しにくいなー。ガラスやプラスチックじゃないな、これ。樹液由来の何かか。あの錬金術師は、植物を扱う相手だったし。
私はそこまで考えて少し気分が悪くなる。
メタモルフォーゼ中は全く気にならなかった、手の中で咀嚼される感触。半分人外のような見た目でも、元は人間だった存在を殺したという認識。
それが今さらになって胸にくる。
そこへ波を立てて、颯爽と登場するディガー。今はその呑気な顔が凄くありがたい。
私たちの様子をまじまじと見て何かジェスチャーするディガー。
「えっと、長い? 違う? 伸ばす、か。で、結ぶ……。ああ、ロープね。運んでくれるの?」
私は言われるがままに、スマホを取り出す。さすがに神の手が入っているせいか、海水に浸かっても問題なく使える神スマホ。私にしては珍しく神に感謝しながら、リザルト画面からロープを取り出す。
──このアイテムがガチャで出てたの、遠い昔に感じる……
ロープの端を容器にくくると、ディガーに反対側の端を投げる。
「あ、失敗した……」
炎熱のスコップを小刻みに動かして水に沈まないようにしていたディガーは、ぶわっと炎熱の出力を上げて、見当違いの方向に私が投げたロープを華麗にキャッチする。そのまま岸に向けて容器を曳航し始める。
私は慌てて容器に捕まると、しばしの水面の旅を楽しむことにした。
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