第6話 同居決定
俺は恐る恐る先生の家へとお邪魔した。
今思えば、瑠香の家意外で女の人の家に上がったことないから、少し緊張するな……
そんなことを思いながら玄関へ足を踏み入れると、真っ直ぐと伸びた廊下が目の前に広がり、左右に一つずつ扉のようなものがある。
「あ、あんまりジロジロ見ないで頂戴」
「え、えぇ……」
穂波先生は恥ずかしそうに身体をもじもじとさせてどこか落ち着きがない。
まあ他の人に自分の部屋を見られるときって、どこか変じゃないかなとかそわそわしちゃうもんね!
でも、これから一緒に暮らす(仮)予定なのにそんな調子で大丈夫なのだろうか。
色々と心配になってきてしまうが、ひとまずここは靴を脱いで上がらせてもらう。
一歩先を穂波先生が歩いて俺を引率する。そして、左右二つのドアの前で立ち止まる。
「左のドアがトイレで、右側が洗面所とお風呂よ」
そして、ガチャっと右側の洗面所の方のドアを開けると、奥にある洗濯機の前にあるかごに大量なまでの服の山が……
「あっ……」
バタンと大きな音を立てて、先生がたははと苦笑いを浮かべている。
今「あっ」って言ったし……
穂波先生からは何も見てないよな? というような無言の圧力があった。
俺も無言の苦笑いを浮かべ返した、本当だよ?? ナニモミテナイヨ?
「さ、こっちへ行きましょうか」
そうして先ほどから見えていた廊下の奥の扉を穂波先生が開いて、俺を部屋に招き入れた。
しかし、そこは無法地帯と化していた。
部屋は足場がないくらいに散らかっており、紺色の机の上にはカップラーメンや弁当の空きガラが散乱している。
右側の壁に沿っておいてあるピンク色のベッドの上には、漫画や雑誌が散らかしっぱなしで、中には下着まで転がっている……
「せ、先生……もしかして……」
「あれぇ? おっかしいなぁー、昨日までこんなはずじゃなかったのにー」
てへっと舌を出して誤魔化す穂波先生。
いや、どう考えても一日で汚せる量じゃねえ……
そう突っ込みたくなってしまうほど、一日では散らかしきれないほどに、散らかり放題だった。
「先生ってもしかして……家事出来ないですか?」
「ん、何のことかなぁー? 先生何言ってるワカリマセンー」
途中からカタコトになってるし……ってか、動揺して冷や汗めっちゃ掻いてるし。
俺はもう一度、今度は語気を強めて問いただす。
「先生、家事、出来ないんすよね?」
「あはは……はい……」
諦めたようにガーンと項垂れる穂波先生。もう、俺が知っている凛々しくてクールで刺々しい口調で恐れられている学校での先生の面影は、微塵たりともなくなっていた。
今目の前にいるのは、ただの家事のできないポンコツ先生であると、この時確信した。
「ごめんね、私昔っから家事が全くできなくて・・・…無理言って先月家を出たのはいいものの、ご覧のありさまでして……」
「だからさっき俺に、『家事は出来るの?』 とかいきなり突拍子もないこと聞いてきたんですね」
「はい、そうです……」
先生はもう反論する気もない。あっさりと認めてしまう。
なるほど、大体の見当はついた。
たしかに、これだけ一カ月家事を放棄していれば、この有様になってもおかしくはない。
「そのぉ……お小遣いも出すし、アルバイトもしなくていいから、代わりにこの家の家事全般をやっていただけないでしょうか? そしたら、卒業まではいさせていただいてよろしいので……」
完全に立場が逆転していた。ってか、もう途中から敬語がめちゃくめちゃになってるし……
まあでも、確かにこれだけポンコツなら、一人で生活するのは厳しかろう。
それに、タダでここで生活させてもらえ、なおかつ家事全般だけやればアルバイト代替わりのお小遣いまでもらえる。正直捨てがたい話だし、今の俺にとっては願ったりかなったりの条件だった。
少し考えるように顎に手をやるが、もう俺の中では答えは出ているようなものだった。俺は少しオーバーなリアクションで呆れたようにため息をついて、先生を細い目で見つめる。
「わかりました。その代わり、ちゃんと手伝ってもらう所は手伝ってもらいますからね?」
「はい、わかりました」
生徒が先生を従えている光景がそこにはあった。
普通は立場的に逆なんだけどなぁ……。
そんなことを思いながらも、こうして俺はポンコツお姉さんこと担任の美人教師で氷の稲穂こと菅沢穂波先生と一緒に暮らすことが決定した。
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