第27話 現実はそう上手くいかない
ぞっと背筋が寒気だった。
何だろう、風邪でも引いたか?
身体が冷えないように、俺はしっかりと肩まで湯船に浸かった。
どういう風の吹き回しかは分からないが、瑠香が片づけをやると率先して名乗り出てくれたので、俺は先に風呂を頂戴していた。
そして、ふと風呂場が静寂な空気に包まれたところで、そもそもの目的である癒し対決について思案する。
ここまで、いたって普通に瑠香と休日を過ごしているだけだ。何も変わり映えのない、平坦な日常。それが瑠香の作戦だとしたら、吉と出るか凶と出るか、それは明日の穂波さん次第となる。確かに、瑠香といつも通り普段通りしていれば、ストレスもないし意識することもほとんどない。だが、思い出すのは、穂波さんに瑠香が喰ってかかった時に言い放った一言……
「恭太は私の婚約者! 恭太に手を出した女は、絶対に許さないんだから!!!」
……にしても、瑠香の奴。俺のことを婚約者とか言ってたけど、どこまで本気なのだろうか?
あの時は、穂波さんという絶対的敵対心があったから一時の感情で言っちゃった嘘かもしれないし。それに、今まで瑠香と過ごしてきて、そういう婚約的な要素を感じたことはない。今日だって、今のところいつも通り過ぎて困るくらい何も進展すらないのだから。
いや、待てよ?
もし逆に、この日常的な関わり合い自体が、瑠香にとって俺の外堀を埋める作戦だと考えたら……穂波さんの家に居候していることに対して激怒したことにも納得がいく。
今回のように瑠香が態度を激変させたのは、穂波さんと、中学の時友香ちゃんに殴り込みに行った一件だけだ。
あの時は、ただ単に友香ちゃんに対して瑠香が一方的な恨み、もしくはおお互いに何か犬猿の仲だったから激怒したと思っていたが、もし瑠香がその時から俺を婚約者だと認識していて、俺が他の女の子にフラフラとふらついているのが気にくわないとしたら……
色々と行動に利害が一致する点が多い。それに、俺も納得がいく部分があるし、腑に落ちてしまう。
となると……本当に瑠香は俺のことを好きで……
うわぁ……そうなると、俺凄い瑠香に対してデリケートのない失礼なことばっかりしてきた気がする。
下着見たりとか、一緒に着替えたりとか、同じ部屋で寝たりとか……
思わず顔を覆ってしまう、穴があるなら今すぐに入りたいレベル。
「と、とにかく……今は落ち着け!」
そう言い聞かせるようにして、俺は深呼吸をする。
瑠香は何も変わらずに俺に接してくれているんだ。ここで俺が変に意識してぎこちない行動をとってしまったら台無しだ。瑠香がそれを望むのであれば、俺は普段と変わらず、意識せずにいつも通り行動すればいいだけの事。
そう引き締めて、湯船から上がろうとした、その時だった。
ガチャっと風呂の扉が無造作に開かれた。
「恭太!!」
瑠香が、タオルで前だけを隠した状態で風呂へと入ってきた。
「うわっ……な、何してんだよ瑠香!」
「何って、一緒にお風呂に入ろうと思って! 昔も入ってたじゃん!」
「ば、馬鹿! 今と昔じゃ状況が違うだろ」
ハンドタオルを一枚胸元から下に垂らしているだけで、真っ白な肌にスラっとした脚が伸び、上に目を移すとシュっとしたくびれに、これぞMOUNT FUJI とでも言わんばかりの瑠香の乳房が、これでもかと溢れんばかりに……というかもう溢れてる! 谷間と山頂以外ほぼ剥き出し状態! そんな無防備な裸体を晒した状態で、俺に好意を持ってくれている幼馴染が目の前に現れた。
その姿に、俺は視線が離せなくなってしまう。
そんな俺の様子を見て、瑠香はニコっと微笑み、艶めかしい視線を送ってくる。
「ふふっ、どうしたの恭太? そんなに幼馴染の身体、まじまじと見つめちゃって? 顔真っ赤だよ?」
「べっ、別に見つめてなんか……」
嘘です。めっちゃ見てました。
妖艶な裸体を見せつけながら、キョトンと首を傾げてくる瑠香。
俺はひとまず目を逸らして、必死にこの状況をどうしようか考えた。
う~ん……でも見ちゃう! 男の子だもん!
◇
恭太は、顔を一度逸らしたが、やはり私の身体が気になるのか、チラチラと盗み見てくる。
ふっふっふ……完全に私の策略に引っ掛かったようね恭太。
これであとは、恭太を興奮させて、そのまま触ってもらえれば……
私は最後の仕上げにかかる。
「私の身体見ると、興奮する?」
「そ、そんなわけ……」
「なら、ちゃんと見て? ほら?」
チラっとタオルをずらして、私の自慢の胸をぷるんと揺らして見せる。
すると、恭太は顔を真っ赤にして、私の身体を食い入るように見つめてくる。もう……可愛いんだから。
恭太は、しまったとばかりに視線を外すが、私はタオルパサァっと外して、そのまま恭太の顔を押さえ、強制的に私の身体へ視線を向け直させる。
観念したのか、恭太が私の裸体をまじまじと直視してくるのが分かる。
私の勝利。シュミレート通り、間違いなく恭太はこの後欲望を押さえられなくなって、襲ってくるはず!!
それを信じて、私は恥じらうようにしながら言い放った。
「恭太が触りたいなら……触ってもいいんだよ?」
私がそう言うと、恭太がゴクリと生唾を飲み込んだのが分かった。
そして、私の乳房に向かって手がゆっくりと伸びてくる。
私はゆっくりと息を吐いて、身を引き締める思いで恭太が私の身体に触れるのを待った。
さぁ、感動のフィナーレまでもう少し!
瑠香ちゃん大勝利!!
「……っごめん!」
その時だった。バシャ! っと湯船から一気に飛び出した恭太は、手で自分のデリケートゾーンを隠しながら、私の横をすり抜けるようにして、風呂場から出て行ってしまう。
「ちょ、恭太!?」
あまりに素早い出来事だったため、私は唖然とした表情で恭太を見つめることしか出来ない。
バタン! っと風呂の扉が閉められ、恭太のシュルエットだけが見えた。
その姿を見て、私は我に返り、少しむっとしてボソっと呟いた。
「……恭太の意気地なし」
◇
風呂から上がった俺は、パパっとバスタオルで身体を拭いて、下着だけを身に着けて、瑠香の部屋へと逃げ込んだ。
バタンと扉を閉めて、瑠香が追ってこないことを確認すると、ほっと胸を撫でおろす。
危なかったぁ……何もかもがどうでも良くなって、瑠香の身体に襲い掛かるところだった。
「くそっ……落ち着け俺。深呼吸だ」
自分に言い聞かせるようにして、深呼吸をするが、胸のドキドキは収まるどころか、その鼓動をさらにはやめている。
風呂であんなこと考えている時に入ってくるのは反則だろ……
これで就寝まで、瑠香を意識せずにはいられなくなってしまった。
これも瑠香の策略なのか!? そんな考えが、頭の中でぐるぐると回る。
一体俺は、この後どうなってしまうのだろうか?
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