第47話 疑似×××!?
夕食を食べ終えて、不機嫌そうな足取りでドカドカと階段を上がっていく穂波さんの後を俺は追っていく。
「ちょっと穂波さん! さっきの正気ですか!?」
しかし、俺が尋ねても穂波さんは何も答えようとしない。
「穂波さん!」
俺が穂波さんの肩を掴もうとしたその時、くるっと穂波さんが踵を返して、俺の方を向いた。
「しぃー! 静かに!」
唇に人差し指を当てて、お口チャックポーズを作る穂波さん。
俺はそれに従って口を閉じる。
廊下には静寂な空気が戻ってくる。
穂波さんは手で軽く手招きして、俺の耳元へ口を近づけて小さな声で言ってきた。
「部屋で作戦会議よ」
どうやら、穂波さんも正気であんなことを言ったわけではなく、何か画策しているようだ。
「わかりました」
「あぁん……耳ダメ……」
俺が穂波さんの耳元で小声で答えると、悩ましい声を出して身悶える穂波さん。
ちょっと、エロいと思ってしまいました。
「と、とにかく部屋に行くわよ」
穂波さんは恥ずかしそうに頬を少し染めながらも、俺の手を引いて、先ほど荷物を置いた2階奥の部屋へと向かっていった。
俺と穂波さんは、荷物を置いた6畳間の畳部屋の地べたに、向き合う形で座った。
そして、先陣を切るように穂波さんが口を開いた。
「ごめんなさい!」
いきなり頭を下げて謝ってくる穂波さん。何故謝られているのか分からずに困惑していると、穂波さんが続きを話し出す。
「家の意味不明なしきたりで、こんなことになって、恭太を巻き込む形になって本当にごめんなさい」
穂波さんは申し訳ないといったように、誠心誠意を込めた土下座をしてきていた。
俺はようやく状況を理解すると、慌てて穂波さんを執り成す。
「いや、こっちこそ……せっかく穂波さんが俺を彼氏って嘯いてその場を凌ごうとしてくれてたのに、自分が馬鹿正直に本当のことを言ってしまってすいません」
今度は俺が深々と頭を下げる。
すると、穂波さんが顔を上げ、慌てた様子で手を振る。
「いいのよ! 元はと言えば、そのことを事前に恭太に伝えなかった私が悪いの」
「いやいや俺が……」
「いやっ私が……」
お互いに自分が悪いと譲らないので、このままだと膠着状態が続く気がした。俺は一つ咳ばらいをして話を本題へ戻すことにした。
「まあ、今回はお互いさまと言うことにしましょう。それで、作戦会議って具体的には何をするんですか?」
俺が尋ねると、穂波さんは顎に手を置いて考える。
「そうね……さっきは実家にいる間にとか言っちゃったど、明日以降は他の親戚もこの家に集まってくるから、作戦を決行するとしたら、正直今日くらいしかないのよね……」
「えっ!? ヤバイじゃないですかそれ」
「えぇ、かなりヤバイわ」
「いやっ、そんなキリっとした目で言われましても……」
つまり、今日中に菅沢家三大鉄則をクリアしなくてはならないわけで……ということは、穂波さんとその……キ、キスとか……それ以上のことをしなくてはならないわけで……
「ちょっと、今変なこと想像してたでしょ?」
「なっ、そんなことは!」
いや、嘘です。めっちゃエロいこと想像してました。
穂波さんは呆れ交じりのため息を吐く。
「別に、恭太と本当にキスしたりセックスしたりしようとはしてないわよ」
「あっ……そうなんですね。よかった」
流石の穂波さんもそこはわきまえているようで、ほっと胸を撫でおろす。
その直後、穂波さんはぱっと閃いたような表情を浮かべる。
「どうやらこれしかないみたいね……」
「何か妙案が思いついたんですか!?」
穂波さんは不敵な笑みを浮かべながら、ビジっと俺を指さして宣言する。
「ズバリ、恭太とのsexを家族に見せつける作戦よ!」
「いやそのまんま!! ってか、根本的な部分何も解決してない!」
それじゃあ、間違いなく俺と穂波さんが一線交えることになってるよね!?
俺は念のために、念を押しておく。
「俺は穂波さんとそのぉ……し、しませんからね!?」
すると、穂波さんはぽっと顔を赤らめた。
「ば、バカァ! 私だって、するわけないじゃない! 本当はしてもいいけど……」
「……」
何か、絶対に聞いてはいけない独り言が聞こえた気がするが、聞かなかったことにしておこう。いや、だってね? 穂波さんが俺とセッ、セックスしたいなんて、思うわけ……
「……」
身をよじって、上目づかいで誘惑してくる穂波さん。
ヤバイ、このままだと、本当にやらかしかねない雰囲気が漂ってしまっているので、俺は一つ咳ばらいをして話を逸らす。
「そ、それで、具体的にはどんな作戦なんですか?」
ここは、一刻も早く本当にヤル案を除外するべく、先ほど思いついたと言っていた案を聞き出すことが先決だ。
穂波さんは体勢を整えて、少し間をおいてから口を開く。
「そのことについてなんだけど……少々下準備が必要だわ。恭太、手伝ってくれるかしら?」
「その前に、おおまかに何をするかだけでも教えていただけますか?」
そう尋ねると、穂波さんは神妙な面持ちで言い放つ。
「それは、疑似セックスよ!」
「疑似セッ……へっ? えっ?」
何を言っていらっしゃるの? このエロゲーポンコツマスターは?
それじゃあまるで、エロゲーの世界じゃないですか?
俺がじっとりとした視線を送る中、気にする様子もなく穂波さんは話を続けた。
「恐らく、私の両親は、夜中に私たちが事を行っているかどうか覗きに来るわ。その時だけセックスをしているように見せかければいいの」
「あぁ……そういうこと……」
びっくりした。俺はてっきり、本当に前戯的な行為をしなくてはならないのかと……。
あぁもう、紛らわしい!
「ということで、早速シチュエーションを考えるわよ!」
「えっ!? そこらへんは場の雰囲気で適当にやれば……」
「何言ってんの!? 本番もしたことがない私たちに出来ると思ってるわけ!? 経験したことがないものは、常に学び、練習し、実践することが大事なのよ!」
「いやいや、実践は今回の場合ダメでしょ!」
確かに、童貞と処女が疑似セックスに見せかける行為を人様に披露するなんて、難易度が高すぎる。
だが、この時間のない状況下で、穂波さんのご両親を納得させるための対案は、これ以上出せそうにない。それならば、入念に仕込みをしておくことが、この場合最も重要なのではないかと思えてきてしまう。
「と、とにかくセリフ言い回しとか、こういう場は私に任せなさい!」
そう言って、胸を張る穂波さん。まあ、穂波さんだけじゃ心配なんで、ここは俺も手伝いますかね。
「仕方ないです。今回はそれが一番の最善策だと考えて、一緒に頑張りましょう」
こうして、俺と穂波さんはご両親に同棲を認めてもらうための、一世一代の大作戦が始まろうとしていた。
「ところで、セリフ回しとか、俺達に出来るんですかね?」
「そこは大丈夫よ! 今まで私が駆使してやり込んできたエロゲーの力があれば!」
「やっぱりあんたの私物だったか!」
この後、しまった!っと言わんばかりに、流石のポンコツっぷりを発揮するのは、相変わらずでした。
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