第3話 学校生活終了

 市場の部屋に置いてあった荷物をまとめて、市場の母親に何度も頭を下げて感謝の意を示して、家を後にした。そして俺は、アルバイト先のファミリーレストランへと向かった。


 俺が通う県立下野谷高校けんりつしたのやこうこうでは、校則でアルバイトは禁止となっている。


 なので、俺は電車に乗って、前まで住んでいた地元の街にある国道沿いのファミリーレストランでアルバイトをこっそりしていた。

 ここなら、先生にもバレずにアルバイトが出来るだろうと考えたからだ。


 なぜリスクを負ってまでアルバイトをしているのか?

 答えは簡単だ『金』を得るためだ。

『金』といってもメダルではないぞ?

 ちゃんと現ナマ、現金、お金のことだ。


 家を探す以前に、家の家賃が払えるお金が無ければ元も子もないからな。


 そう考えて始めたアルバイト、店長にも事情を考慮してもらったこともあり、俺は希望通りホールではなく、厨房のアルバイトとして採用された。


 そのため、普段はあまりお客さんのいるホールへ出ることはないのだが、今日に限って運悪く、ホールのアルバイトの人員が足りず、俺が厨房を兼任してホール作業に駆り出されていた。


 夜は比較的お客さんが少ない傾向にあるが、こういう時に限って店内は混雑するものである。ホントなんでお客さんって空気読めないの? わざとなの?



 そんな愚痴を零しつつ、ひっきりなしに料理を運び、オーダーを取り、食器を片付け、皿を食洗器に入れて洗う。

 その作業を繰り返しているうちに、あっという間に時間は過ぎていき、時刻は夜の9時を回っていた。


 先ほどまで満席近かった店内も、一気にお客さんが退いて、今は閑散とした雰囲気が漂っていた。


 テーブルに残っている食器を厨房へ下げる作業をしていると、とあるテーブルのお客さんから声を掛けられた。


「すいません」

「はい、少々お待ちください」


 そう決まり文句ともいえる文言を言ってから、オーダーを取るためにその人の元へ向かった時だった。そのテーブルに座っている人物を見て、俺は身体が固まった。


「こんなところで何をしているのかな? 富士見くん」

「……」


 なんで……なんでこんなところに先生がいるんだ!?


 まるで喫茶店で優雅にコーヒーを啜っているかのような佇まいで、俺のクラスの担任で社会科教師で通称『氷の穂波』や『鬼の穂波』と恐れられている菅沢穂波先生は、一人テーブルに座ってこちらを睨みつけていた。


 終わった……俺はこの時確信した。


 下野谷高校では、無断でアルバイトしていることがバレると、最低でも2週間の停学処分とかなり重い刑罰が下るのだ。さらには、内申にも傷がつき、大学推薦を狙っている者にとっては、指定校推薦など夢のまた夢となってしまうのだ。


「えっと……これには深い訳がありまして……」


 何とか言い訳して誤魔化そうとするが、見つかってしまったからには俺に逃げ場はなかった。


「アルバイトは何時まで?」


 唐突に、穂波先生はコーヒーのカップを受け皿に置いてそう尋ねてきた。


「えぇと……10時までです」

「そう」


 穂波先生はちらっと腕もとにしてある高そうな腕時計に目をやった。


「バイトが終わったら、駅前のロータリーまで来なさい」


 そう言い残すと、穂波先生は伝票をもって席を立ちあがり、スタスタと俺の横を通り過ぎてレジへと歩いて行ってしまった。


 やべぇ、どうしよう……。

 俺の身体からは一気に血の気が引き、頭は完全に混乱していた。


 アルバイトをしていることが先生にバレてしまった。しかもよりにもよって、担任の菅沢穂波だ、絶対に許してくれるはずがない。そんな鬼の穂波に見つかってしまった俺は、間違いなく停学処分ないし退学処分決定的、THE END である。


 ガックリと肩を落とすしかなかった。

 バイトが終わったら、10時に駅前のロータリーに来いとまで言われてしまったし……



 この後、どんな仕打ちを受けるのか、恐れ多くて考えることもままならいまま、時間だけが刻一刻と過ぎていった。

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