第4話 棚から牡丹餅!??
アルバイトを終えて、俺は重い足取りで駅前のロータリーへと到着した。
正直来たくなかった。だが、ここで逃げたとしても徹底的に追い詰められて、さらにひどい仕打ちが待っているのは目に見えていたので、その恐怖心からか気が付いたらここまで足を運んでいた。
駅前のお店は既に閉まっており、辺りは閑散としている。ロータリーには、駅から改札を抜けてバスに乗り込む人などがちらほらいるだけだ。
先生らしき人物が見つからないので、何処にいるんだろうと辺りをキョロキョロと見渡していると、ロータリーで止まっている一台の車がクラクションを鳴らした。
音の鳴ったほうへ顔を向けると、一台の黄色いリーフが止まっており、中で鬼の穂波こと菅沢穂波先生がこちらを睨みつけていた。
俺はそのリーフの横まで歩いて近づくと、助手席のフロントガラスが開かれた。
車の中から、鬼の穂波先生がこちらを見つめていた。
俺はその瞬間、地べたに座り込み、額を地面につけて開口一番に叫んだ。
「あの……すいませんでした!!! 許されないことをしたとは分かっていますが、今回だけは見逃してくれませんでしょうか!!! 」
渾身の土下座からの謝罪だった。
先手必勝。
まずは反省しているという誠意を見せることが大事だと思い、ここに来るまでの間に頭の中で何度もシチュエーションを想定して練習しておいたのだ。
ロータリーを歩いていた人が、なんだ、なんだ、とこちらを見てざわついている。
「ちょ……やめなさい! いいから早く乗りなさい!」
さすがの穂波先生も辺りの目を気にしてか、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながらそう言ってきた。普段クールな姿と比べてアワアワと慌てていてちょっと可愛いかも……なんて思ってしまうほどには……
だが、そんな表情も一瞬の出来事で、すぐにいつもの氷の穂波ともいえる、凍てつけるような視線へと戻ってしまう。
「乗りなさい」
「はい……」
二言目には先ほどの慌てっぷりはなく、むしろ冷徹な態度で言われてしまった。
先制攻撃が失敗に終わり、俺は諦めたように立ち上がり、しゅんっと落ち込みながら車へと近づいた。
フロントガラスが閉められるのと同時に、俺は言われるがままに助手席のドアを開けて車の中に乗りこもうとする。
すると、先生は俺の荷物の量を見て首を傾げた。
「随分と荷物が多いのね」
「えぇ……服とか一式全部入っているので」
「そう……やっぱり」
「やっぱり?」
「後部座席に荷物置いてからこっちに座りなさい」
「はい、わかりました……」
言われるがままに、一度後部座席のドアを開けて荷物を押し込んでから、今度は助手席のドアを開けて、先生の黄色いリーフに乗り込んだ。
バタンとドアを閉めると、車の中は閑散とした雰囲気に包まれた。
その沈黙がさらに俺の緊張を高まらせ、思わず生唾を飲み込んでしまう。
「富士見くん」
「は、はい……」
何とか返事を返して、俺は先生の方を振り向いた。
白のブラウスに紺のレディーススーツに身を包んだ先生は、ピシっとした着こなしに、隠しきれていないその胸元が、横から見ると一層強調されているように見えた。って、何呑気なことを考えているんだ俺は!
先生の顔に向き直ると、鬼の穂波先生はふぅっと軽いため息をついてから真剣な表情でこちらを見て口を開いた。
「あなた、今どこに住んでいるの?」
「え?」
唐突に尋ねられ、ポカンと口を開けてしまう。だが、すぐに我に返って慌てて答えを返す。
「あっ、えっと……実は今家がないんです」
「家が無い?」
「はい……」
もう本当のことを言おう、そう決心したらスラスラと言葉が出てきた。
「母が再婚して、家を売っちゃったんです。そのまま再婚相手と遠くの街に行っちゃって、俺はそのまま野放し、お金もないんでアパートを探すわけにもいかず、アルバイトしながら友達の家を転々としてました」
「なるほど、だからこれが届かなかったのね」
納得したように穂波先生は胸ポケットから一枚の茶封筒を取り出した。
「それは?」
「あなたの母親宛に送った重要書類よ。全く、親御さんの住所が変わったなら連絡くらいしてほしいものだわ」
「す、すいません……」
ホントにいい加減な母親ですいません。
申し訳なさそうに項垂れていると、先生は切り替えたように尋ねてくる。
「それで、あなたはこれからどこへ行くつもりだったの?」
「あの……実は……」
俺は言葉につっかえながらも続きを口にする。
「明日からGWで、どこもみんな家族で出かけたりするみたいで、泊まらせてくれる家がなくて……」
「つまり、このままだと野宿だったってことね」
「はい……」
観念したように頷くと、鬼の穂波先生は突拍子もないことを聞いてくる。
「ところで富士見くん、あなた、家事は出来るの?」
「へ?」
突如脈絡のない質問に、俺は口をポカンと開けて首を傾げた。
「だから、掃除・洗濯・料理は出来るのかしらって聞いてるの!」
穂波先生は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしながら、怒気を強めてもう一度同じようなことを聞いてきた。
いつものクールさは全くなく、どこか取り乱しているようで、そんなギャップにちょっとドキっとしてしまいそうだ。
「ええまあ、母親が仕事でいないことが多かったので、基本的に自分がやってたので一通りは出来ますが……」
「そう」
穂波先生は前を向いて、何度か納得するように頷いた。
そして、クルっともう一度俺の方を向くと、とんでもないことを口にした。
「富士見くん。今日から私の家で暮らしなさい!」
「……はい?」
今、なんつった? 私の家で暮らしなさい? どういうこと???
私の家ってことはつまり穂波先生の家ってことだよね……えっ……
「えぇぇぇぇぇ!?!?!」
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