第23話 静寂

 翌日、学校へと向かうと、いつものように穂波さんは教室に現れた。どうやら、仕事は休むことはないようでひとまず一安心だ。これは後で、色々と事情を聞く必要があるなと思っていると、HRが終わった直後、瑠香が声を掛けてきた。


「おはよう、恭太。貞操は大丈夫だった?」

「んだよその聞き方は……問題ねぇよ。ってか、なんか先生、急に家出てっちゃったし」

「はぁ? なんで?」

「こっちが聞きたいよ」


 ホント、あのポンコツは何を考えてるのやら……


「全く……せっかく休日までスパンを開けて、恭太から色々好きな物とか聞き出すチャンスを与えてあげたというのに、あの人バカなの?」


 はい、バカというかポンコツです。

 穂波先生が去っていった教室の前のドアの方を見つめながら、瑠香は憐れむような表情を浮かべていた。



 ◇



 昼休み、俺は昼食を済ませてから保健室へと足を運んでいた。

 昨晩、突如として家を出て行った理由について、穂波さんから聞きださなくてはならなかった。 

 コンコンとノックをするが、保健室から声は聞こえない。


「失礼します……」


 反応がないのでドアを開けようとしたのだが、ドアは開かず施錠されていた。

 ドアの壁を見ると、手作りのルーレット表の矢印が、『外出中』となっている。どうやら保奈美先生は、どこかへ出かけているようだ。

 

 ということは、穂波先生は普通に職員室にいるのか。そう思って、職員室へと出向いたのだが……


「菅沢先生? 菅沢先生なら、栄先生と一緒にお昼ご飯を食べに何処かへ行きましたよ」

「そうですか……わかりました」


 保奈美先生とお昼ご飯を食べに出かけてしまったようだ。ってか、業務放って学外に昼食とかありなの!?


 そんなこんなで、結局昼休みは空振り。穂波先生に会うことは出来ず、放課後また出向くことに……


 放課後、帰りのHRが終わり、穂波先生が教室から出て行ったのを見て、俺はすぐさま席から立ち上がり、教室を出て穂波先生を後追いする。

 

 だが、廊下を出た瞬間、目に入ってきたのは猛ダッシュで教室から去っていく穂波先生の姿……


 えっ、あれ○ニックより速いんじゃないの!? ちょっと待って!

 ってか、廊下は走ってはいけません!!


 俺は頑張って競歩で追いかけ、職員室まで向かったのだが……


 なんと俺が職員室へと到着すると、既に穂波先生の姿はなく、他の先生に尋ねると、『手放せない用事が出来てしまった』という理由ですぐに直帰してしまったとの事だった。


 結局、穂波先生と一言も話す機会を得られなかった俺は、一人寂しく穂波さんのいない家で、一人寂しく夕飯を食べ終えて、今は皿洗いなど後片付けをしているところであった。


 部屋の中には、食器を洗う水の音と、食器が重なって鳴る金属音以外は聞こえない。


「……」


 俺はふと部屋のベッドを見つめてしまう。

 いつもなら、ベッドの上でボリボリお菓子を食べながらゴロゴロとしている彼女がいないだけで、部屋は閑散としていた。そして、その閑散とした部屋にどこか物寂しさを感じてしまっている自分がいた。穂波さんのお世話をしなくてラッキーなはずなのに、俺の心は、どこかポカンと穴が開いたような気分になっていた。


 皿洗いを終えて、俺の足は穂波さんがいつもいるベッドへと向かう。そして、力なく俺はそのベッドへと倒れ込んだ。ぼふっと俺の身体を吸収して、空気を吐き出したベッドから、心なしか穂波さんのいい匂いが微かに漂ってきた気がする。


「はぁ……」


 気が付けば、俺はため息を吐いて穂波さんのベッドの中でくるまっていた。

 穂波さん早く帰ってこないかなぁ……そんなことを頭の中で考えている自分がいた。穂波さんのお世話をしなくてもいい自由な生活を送れて幸せなはずなのにどうして……?



 瑠香の提案した癒し対決まで後2日。果たして、俺は一体どうなってしまうのだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る