第23話 家出!?
「同棲対決!?」
注文した和風ハンバーグを食べていると、瑠香が提案してきたのは、予想外の勝負内容だった。
「恭太と同棲するにあたって、どちらが恭太を癒して満足してあげられるか。同棲してたとしても、結局はお互いが満足できないと意味がないでしょ?」
「ん? んん??」
俺はあまりピンと来ていないのだが……穂波さんは理解できているのだろうか?
視線を向けると、穂波さんはポカンと口を開けてアホ面をかましていた。ダメだ、俺より理解できてない。
「悪い瑠香、もう少し分かりやすく説明してくれ」
俺が瑠香にそう言うと、瑠香は注文したパスタを飲み込んでから説明を始めた。
「つまり、私と先生、お互いの家に恭太が1日ずつ泊まり込んで、どちらが恭太のことを癒せることが出来るかってこと。恭太が毎日気を遣ってストレスをためてカリカリしてたら、同棲する意味ないでしょ?」
「なるほど……つまりは、瑠香と先生、どちらの方が素でリラックスして暮らせるかっていうのを試すってことだな」
「まあ、大まかに言えばそういうこと」
なるほどな。確かに、誰かと一緒に暮らすというのは、それなりにお互いの距離感や役割分担などが大切になってくる。その中で、俺にどれだけ負担を掛けないで済むかというのを競い、俺に判断してもらおうということらしい。なるほど、全くもって分からん。
ってか、この勝負……
「実家暮らしの瑠香の方が有利じゃないか?」
家事全般をやらなくて済む瑠香の家の方が明らかにアドバンテージが高い。
「確かにそのアドバンテージはある。だけど、今度の土日、私の両親が旅行に出かける。その時に恭太には私の家に来て生活してもらう。これで条件は同じはず」
「なるほど、どちらも二人っきりで一晩生活してみて、どちらがいいかと争うということか」
「そういうこと」
瑠香がパスタを口に含みながらそう頷く。
「な、なるほど。つまりは恭太君に負担を掛けさせなければいいということね」
ようやくポンコツさんも理解したのか、手を顎に当てて何やら考えこんでいる。
というか、あなたは毎日迷惑かけっぱなしですけどね?
「判定はもちろん恭太にしてもらう。どちらが一緒に暮らしやすかったかだけではなく、どちらが癒せたかも含めて」
「な、なるほど……」
この勝負、当たり前だが暮らしやすさは圧倒的に瑠香に分がある。なぜなら、俺が瑠香と一緒にいる時、ストレスを感じることは皆無なのだから。穂波さんとでは付き合いの長さが違う。
つまり、この勝負で穂波さんが勝負するなら、癒しの部分がネックとなってくる。俺をもてなしたりすることを瑠香は癒しととらえているのだろうが、正直穂波さんはこちらも分が悪い。だって、家事全くできないポンコツですから。
あれっ? この勝負、もう決着ついてない?
「さあ、どうする先生? いやっ、菅沢穂波」
俺の頭の中で考えていることなど知る由もなく、瑠香が鋭い視線で穂波さんを睨みつける。
穂波さんはしばし考えこんでいたが、ふぅっと息を吐くと、鋭い眼光を瑠香へと向けて言い放つ。
「わかったわ、その勝負受けて立つわ」
こうして、幼馴染の瑠香と、ポンコツ穂波先生による、俺の居住地を掛けた大一番が、幕を開けようとしていた。
ってか、俺の意思は?!
瑠香と別れて、俺は穂波さんの家へとリーフに乗って戻った。
ひとまず勝負までの間は、ある程度のハンデとして、俺はそのまま穂波さんの家に居候ということにひとまず話は収まった。それにまあ、瑠香は口が堅い方だし、こんな勝負を挑んだこともあり、他の奴らに今回の件に関して口外するということはないだろう。
にしても、ハンデ貰うとか、流石ポンコツ先生、生徒にも舐められてるぜ!
「いやぁ~それにしても、なんか俺のせいで大変なことになっちゃいましたね……」
俺がそう独り言のように呟いたが、穂波さんの返事はなかった。
「穂波さん、先に風呂入りますか?」
そう穂波さんに尋ねても反応が無かったので、不思議に思って振り返ると、穂波さんは何やら真剣な表情で考え込んでいた。
「穂波さん?」
俺が首を傾げながら声を掛けると、穂波さんは何かぶつぶつと言いながら、閃いたような顔で目を輝かせて、ポンっと手を打った。
「そうよ! その手があるじゃない!」
「何かあったんですか?」
穂波さんは、俺の質問を無視して、思い出したように何やらクローゼットの中から荷物を取り出して、大きめの鞄へ詰めていく。
「ほ、穂波さん?」
「ごめん、恭太。しばらく私家に帰らないわ」
「へ!?」
突然すぎる展開に脳がついて行けない。
「帰らないって、何処に行くんですか!?」
「ちょっとね! あっ、土曜日には帰ってくるから、それまで適当にこの家使っていいから!」
「えっ、あっ、ちょっと!」
穂波さんは俺の制止など無視して、詰め込んだ荷物を持って、家から出て何処かへと行ってしまった。
なにこれ……家出!?
嵐のような出来事に、頭の理解が追いつかず、しばらく佇んだまま玄関の方を眺めていたが、ふと我に返ると、静寂な部屋に一人取り残された俺が虚しく感じた。
「なんなんすかこれ……」
今日も俺は、穂波さんに振り回されっぱなしだ。
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