第11話 紙一重
買い物を済ませてから次に向かったのは、俺が昨日まで働いていたアルバイト先である国道沿いのファミリーレストラン。
お店に入ると、昨日の事情を知っていた店長が、心配したように駆け寄ってきてくれた。
俺は店長に事情を説明する。学校側に見つかってしまった以上、これ以上迷惑を掛けるわけにはいかないということ、今隣にいる先生にアルバイトを辞めるように推奨されたという二つの理由から、今日付けでアルバイトを辞めさせて欲しいという意を伝えた。
店長には「いやいや、こっちこそ守ってあげられなくて済まない」と謝られ、「これから大変だろうけど、何かあったときはいつでも相談に乗るからね」と優しく微笑みかけてくれた。
突然辞めさせてもらいます。という俺の身勝手な事情にも関わらず、店長は嫌な顔一つせずにずっと俺を最後まで心配してくれた。
その店長と俺のやりとりを見て、後ろで穂波さんが鼻をすすっていたのは何かの勘違いだろう。おそらく、目にゴミでも入っちゃって思わず出てきちゃったんだよね? それか、お店のハウスダストにやられて、突然鼻水が出てきちゃったんだよね、そうだよね? 真相は本人以外、知る由もない。
俺はその後も、何度も何度も店長に頭を下げながらお店を後にした。
帰り道の途中、ふと穂波さんが微笑みながら呟いた。
「今回のアルバイトの件は、店長さんの人の良さに免じて、学校側には黙っておいてあげるわ」
「本当ですか!?」
「えぇ……運に感謝するのね」
俺は思わず握りこぶしを作ってガッツポーズを作る。
やったー免除だぁぁぁ! これで、停学処分もなし! 内申にも傷が付かずに済む!
俺が助手席で一人喜んでいると、穂波さんが運転しながらぼそっと呟いた。
「それにしても、本当にいい店長さんだったね……」
「はい、いつも気を配ってくれていましたから」
店長とアルバイトという立場の違いから、俺は店長には頼まなかったのだが、もし店長に、GWの間だけでも家に泊らせてくれないかと頼んでいたら、泊まらせてくれたのかもしれない。そうしたら、今こうして穂波さんの家に居候させてもらうこともなくて……
もしかしたら、違う結果になっていたのかもしれない。
そう考えると、ほんと人生というものは紙一重である。
だが、俺は今の状況に後悔はない。
だって、アルバイトをしないで、高校卒業まで担任の先生の家で居候させてもらえることになったんだもん。(同居人はポンコツだけど)
特にお金の心配をしなくていいというのは、精神的にも非常に楽である。最低限の家事をしていれば、お小遣いも入ってくるし。(同居人はポンコツだけど)
もしかしたら、テスト範囲だって教えてくれるかもしれない。(同居人はポンコツだけど)
まあ? 一応穂波さん見た目は美人だし、こんな綺麗な大人の女性と一緒に暮らせるなら、そりゃちょっと心躍らなくもないし? ほら、アルバイトの件見逃してくれたし、優しい所もあるし? とも思っておいてやろう。(ポンコツだけど!)
「ま、まあ……俺としてはもっとしっかりしてくれてたら、ありっちゃありだったんですけどねぇ……」
「なぁに独り言ぶつぶつ言ってるのよ」
はっと我に返る。どうやら口に出てしまっていたらしい。
「いや、なんでも……」
俺は一つ咳ばらいをして誤魔化した。
穂波さんは俺の方を見ることなく、真剣な表情で前を見て愛車のリーフを運転している。
穂波さん、ポンコツの割には車の運転は上手だよな……
アクセルもなめらかで、ブレーキも程よい感じでガクってならないし。
「今、凄い失礼なこと考えてたでしょ?」
「なっ、なぜわかった!?」
「それくらい見なくても分かるわよ」
呆れたような表情を穂波さんは浮かべるが、視線は前を見たままだ。
「これでも私、伊達に教師やってないわよ」
「いや……教師と運転関係ない気が……」
「どちらも責任を伴うのよ」
「うまいこと言ったぜ! みたいな顔してますけど、全然整ってないし、何にもなってませんからね?」
「う、うるさいわね。別にいいでしょ。私が勝手に考えたことなんだから」
そう言って、恥ずかしそうに頬を染める穂波さん。
やっぱり根の部分はポンコツらしい。
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