第10話 遭遇

 車を走らせて5分ほど進むと、見慣れた街並みが見えてきた。

 俺が以前住んでいた町からほど近い所にあるショッピングモールだ。

 そう言えば、こんなところあったなぁと思い出す。


 その中の一角にあるのが、大型ホームセンターのユーナンだ。

 誰もが知っているあのCMのフレーズ「ユーやっちゃったらこうなった」がおそらく頭に流れてこない人はいないであろう。


 立体駐車場に車を止めて、俺と穂波さんは二人でユーナンの店内へと入る。

 流石ユーナン。ユーやっちゃってるくらい何でもそろっている。


 物干し竿、食器、調理器具など必要なものを一通りそろえて、レジに向かう。

 というか、なんかちゃっかり余計なお菓子とかお菓子とか、これまたお菓子とか入ってるんですけど・・・・・・


 俺が穂波さんの方に冷たい視線を向けると、ぷぃっと視線を逸らされた。


「べ、別に私のお金で買うんだからいいでしょ!」


 ぷくっと頬を膨らませながら子供のように反抗する穂波さん。まあ、俺は居候させてもらっている身だし何も言えない。が、少しだけ愚痴程度には零しておこう。


「別に構わないですけど、無駄遣いはしないで下さいね」

「わ、わかってるわよ! ほら、行った行った!」


 穂波さんははぐらかすように、俺の背中を押してレジへと向かう。

 この1日で、穂波さんの本性が大体分かった気がする。

 基本的に家事や洗濯も出来ない上に、駄々をこねる。

 つまりは子供みたいな感じだ。


 全く、大の大人が子供になるだけでこれだけ面倒くさいなんて……

 よく子供心を忘れてはいけないと言われるが、子供心のまま大人に育ってしまうのも困りものだなと思いました。



 買い物を済ませて、今度は隣にあるショッピングモール内の100円ショップで残りの生活品を揃えて、今はショッピングモール内にあるフードコートで昼食をとっていた。


 俺と穂波さんは、テーブル越しに向かい合う形で座り、穂波さんの希望でモスゥを購入してハンバーガーを食べていた。

 モスゥのハンバーガーは学生にとってはマックよりも高級感がある。


 金額もそうだが、どこか一人で優雅に勉強や読書をしながらゆっくりと嗜むというようなイメージがある。マックはリーズナブルでガヤガヤ友達と放課後に喋ったりたまり場にしたり、どちらかというとフレンドリーな感じがする。


 まあ、俺の偏見かもしれないけど。

 というか、フードコートで食べてるからモスゥ感ゼロなんだけどね。


 穂波さんは、嬉しそうな表情で口を大きく開けてハンバーガーにかぶりついている。


「んん~おいひい」


 頬に手を当てて歓喜の声を上げている。幸せそうで何よりだ。


 ここのフードコートは、休日はこのように家族連れでにぎわい。平日は学生のたまり場としてよく利用される。モスゥの他にも、ミスドやケンタ、うどん屋などがありラインナップは充実している。

 まあ、わざわざGWの混雑した地元のフードコートに食べにくるような高校生はいないだろうと余裕をかましていたのだが、そういう時に限ってハプニングというものは起きるものだ。


 お互いにモスを食べ終えて、残っているドリンクをチューチューストローで吸って飲んでいる時に事件は起きた。ふいに後ろから誰かに声を掛けられたのだ。


「あれ、恭太?」


 名前を呼ばれて振り返ると、そこにいたのは昨日まで居候させてもらっていた友達で、クラスメイトの大和市場やまといちばだった。

 大和は俺を見つけると、手を上げながら駆け足でこちらへ近づいてくる。



 や、ヤバイ!

 だって今向かい側には穂波先生がいる・・・・・・って、あれ? 穂波さんがいない。

 キョロキョロと辺りを見渡しても、穂波さんの姿が見受けられない。どうやら、危機を察知して何処かへ隠れたみたいだ。ナイス!


「よっ……って、どうした恭太? そんな挙動不審で?」

「いやっ、なんでもない・・・・・・あははっ」


 俺は苦笑しつつ、なんでもないと胸の前で手を振る。俺が慌てている様子を見て、市場は首を傾げたが、特に気にすることなく話を続ける。


「そういえばどうよ? 宿は見つかったか?」

「えっ!? あっ、いやっ、それは……」


 市場になんて説明しようかおどおどしていると、市場が何かを悟ったように口を開いた。


「そうだよな。宿が見つかってれば、こんなところに一人でいないわな」

「へ?」

「昼夜彷徨って、最終的にここにたどり着いたんだろ?」


 どうやら市場は、俺が結局宿を見つけられず、今も宿を探して彷徨っていると勘違いしてくれたらしい。


「あ、あぁ! そうなんだよ!」

「あれ? でも、持ってたデカイバッグがないなぁ」

「あ、あれは今バイト先に置いてもらってる。あれ持って歩きまわるの疲れるから」

「なるほどな」


 俺の適当な言い訳を市場は信じてくれているようで、気づかれないようにふっと胸を撫でおろす。


「まあ、なんとか宿見つけられるように頑張れ! 何かあれば手伝うからさ」

「おう、サンキュー」


 そう言い残して、市場はフードコートから出て行き、待っていたご両親の元へと戻っていった。


 俺は両親に軽く会釈すると、大和ご家族は会釈してから何処かへと消えていった。

 ふぅー危なかったぁ・・・・・・


 冷や汗を拭いながらため息を吐くと、フードコートの柱のところからひょこっと穂波さんが出てきた。

 髪をかき上げて、ふぅっとため息を吐いて安堵したような表情でこちらへ戻ってくる。


「危なかったわ・・・・・・まさか大和くんがこんなところにいるなんて」

「まあ、高校近いですから誰かに遭遇してもおかしくないですよね」

「もう少し周りに気を付けて行動するべきだったわ。私としたことが……不覚だわ」

「これから二人で外出するときは、最大限の配慮をしないとだめですね」


 俺がそう言うと、穂波さんはしばし思案するように顎に手を当てる仕草をした。

 そして、突如何か閃いたかのように、バっと席を立ちあがり。


「ちょっとここで待ってて!」


 っと、俺に言い残して一目散に何処かへ消えて行ってしまう。


 嵐のような穂波さんの行動力に度肝を抜かれて、フードコートで取り残された。だが、穂波さんは数分もしないうちに、あっという間に戻ってきた。

 しかも、なんか知らないけどニット帽とサングラスにマスクまでして……完全に不審者の様相を呈して戻ってきた。


 逆に悪目立ちしていて、周りの人から注目の的となっている。



「穂波さん……それは?」


 俺があきれ顔で尋ねると、穂波さんは胸を張って答える。


「もちろん! 変装用よ。車から持ってきたわ」

「なんで変装用のグッズを常備しているんですか!?」

「違うわよ!? これは、あれよあれ! そう、日焼け対策用に持っているだけなんだからね!?」


 いかにも怪しい言い訳にしか聞こえないが、これ以上問い詰めてもろくな答えが返って来そうになかったので、俺はため息を吐いてから話題を切り替えるように立ち上がる。


「もうなんでもいいです。さっさと買い物済まして帰りましょ」

「えぇそうね、そうしましょ」


 トレーを返却口に返して、出来るだけ穂波さんを置いていくような形でトコトコ速足でフードコートを去っていく。

 だって、周りからの視線が痛いんだもの。

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