第12話 先生≦女性??

 帰宅してからは大忙しだった。

 まずは物干し竿をベランダにセットして、内側はカーテンレールの部分に掛けられるピンチハンガーをセットして、大量の洗濯物を洗濯して、その間に午前中片付かなかった床の掃除を再び行い。ゴミをまとめて洗濯を干して……


 ようやくお客さんが来ても問題がないくらい見栄えのよい部屋へと片付けた。


「ふぅ……これでなんとか住めそうだぜ」

「疲れたぁ……」


 穂波さんは机に顔を突っ伏せて疲弊しきっていた。

 家に帰って来てから、穂波さんも愚痴を零しながらではあるがここまで一生懸命手伝ってくれたしね。


「お疲れ様です。今から夜ご飯作りますけど、何がいいですか?」

「何でもいいー」


 こういう時、何でもいいと言われると一番困るんだよなぁ。穂波さんの好みに合った料理が作れるかどうかわからないし……

 って、完全に子供のご機嫌を取ろうとする母親みたいになってる。


「じゃあ、面倒くさいので、穂波さんは白米だけで今日は我慢してください」

「えぇぇぇぇ!?!? こんなに頑張ったのに! 恭太の意地悪!」

「それじゃあ、何がいいですか?」


 もう一度俺が呆れ顔で尋ねると、腕を組んでしばし考える。組んでいる胸が胸を持ち上げるような感じになって、そのたぷんとした胸の大きさがより強調されて……

 なんか見てはいけないものを見ているような気がして背徳感が半端ない。


 すると、穂波さんはっと閃いたように顔を明るくして、組んでいた腕を解いて右手を勢いよく挙げて宣言した。



「オムライス!」


 その宣言したとき、手を上げた身体の反動で、胸が一気に跳ねて、重力によってぷるるんと跳ねた。


「お、オムライスですね。わかりました」

「ん、どうしたの? 私、何か変なこと言った?」

「い、いえ。何も……それじゃあ作りますね」


 俺は逃げるようにしてキッチンへと向かっていった。


 昨日先生の生乳を見ておいて、何服越しの胸で興奮してるんだと思うかもしれないが、健全な男子高校生は無理な話です。大きいおっぱいがふよん、むにゅりとしてたら目が行ってしまうしドキっとしてしまうのが自然の定理なのだ。


 購入してきた米を研ぎ、炊飯器で炊く、その間にニンジン、玉ねぎ、ウィンナーを切り刻んだものを炒めておく。


 ご飯が炊けたら、ボウルに入れてかき混ぜておく。今度は温めたフライパンにかき混ぜた卵を敷いて、ご飯を盛り込む。お皿を用意してくるっとフライパンをひっくり返すと、とろーり卵のふわふわオムライスの完成だ。


「うわぁー凄い! 恭太上手!」


 穂波さんは俺の隣で感心したように調理の様子を眺めている。

 ってか距離が近い! ふわっていい匂いが漂ってきそうだし、腕に胸当たりそうだし!


「ま、まあそれほどでも……」

「やっぱり恭太を住まわせて正解だった。掃除・洗濯なんでも出来ちゃうし、料理も頼んだら何でも出てきそうだし」

「俺はどこかの猫型ロボットじゃありませんよ」


 既にいいように使われているような気がしてならない。

 住まわせてもらってはいるものの、これではフェアじゃない。


「これから毎日学校に通って、帰って来てから家事全般やるんですから、これ相応の対価を頂きたい」


 もちろん現金で。


「そ、そうね、対価ねぇ……」


 さぁ、穂波さん今月はいくらお小遣いをくれるのかな?


「そ、そう……なら、仕方ないわね」


 何故か知らないが、穂波さんはぶつぶつと何か言いながら自分の身体を抱くようにして、頬を赤らめてモジモジとしている。

 どうしたのだろうと首を傾げていると、穂波さんは意を決したように上目づかいで見つめてきた。


「私のむ……胸なら、さ、触ってもいいわよ?」

「……はい?」


 何言ってんだこの人?


 しばらくキョトンとして見ていると、何もしてこない俺を訝しんだのか、少し身体を縮こまらせながら見つめてきた。


「な、何してんのよ。早く触りなさいよ」


 腕を後ろに組んで、胸を張るようにして見せつけるようにしているので、その豊かな胸の形がはっきりとわかって……じゃなくて!


「いや、対価ってそう言う意味じゃなくて……」

「私の身体じゃ満足できないっていうの!? 確かに恭太にとっては年上かもしれないけれど、まだまだピチピチよ!?」

「だから、そうじゃなくて! 俺が欲しい対価というのはお金のことであって」

「お金!? まさか、私の身体を闇市で売り払ってお金にする気!?」

「なんでそうなるんですか!!? 別に穂波さんが身体で対価を払えってことじゃないってことです!」

「つまりはなに? 私の身体じゃ対価を払える価値がないってことよね?」

「違いますって!」


 どうしてこの人はそういう考えに行きつくんだ全く!

 思考までポンコツか!


「俺はただ、家事をする代わりにお小遣いをお金、つまり現金で下さいってことですから!」

「へ!? そういうことだったの!?」

「そう言うことに決まってるじゃないですか!」


 ホントこの先生はどこまでポンコツなんだ!?

 だが、穂波さんはまだ何かご不満のようで、むぅっと不機嫌そうにして俺を睨んでいる。


「な、なんですか?」

「私の身体よりお金の方が大切に扱われているような気がしてなんか腹立つ」

「はぁ!?」


 何言ってんだこいつ?

 もうここまで来たら、この人でもさん付けでもなく、もうこいつ扱い。


「私の胸は数千円やそっとのお金よりも価値がないってわけ!?」


 穂波先生は、怒気を強めて俺に詰め寄ってくる。

 ち、近い、可愛い、いい匂い。

 穂波さんはパーソナリティースペースをもう少し理解してほしい。

 俺は気持ち身体を逸らしながら言い訳がましく答える。


「ち、違いますって! 先生のそのおっ、胸というか身体は、お金以上の価値がありますから!」

「……本当に?」

「はい!」


 正直に答える。


「私の身体見て、ドキドキする?」

「……はい」


 これも正直に答える。


「私の身体で、興奮する?」

「まあ……はい……」


 まあ、健全な男子高校生なら。


「私の身体で欲情する?」

「それは別問題」

「なんでぇぇぇ!?」



 ショックを受けたような表情をする穂波さん。いや、俺間違ってないよね?


「いやいや、当たり前でしょ? 確かに穂波さんの身体は大半の男子高校生からしたら魅力的でエロいなぁって思いますけど、欲情しちゃダメでしょ欲情は……」

「どうして!? 男の子なら、獣のように襲い掛かって私の服を引き裂いておっぱいにむしゃぶりついてくるくらいなんじゃないの!?」

「どこの世界の設定それ!?」


 どうやら大分穂波さんの思考は、偏見が入っているようだ。


「ってかもしそんな世界だったから、先生今頃学校で襲われまくってますよ?」

「いや学校では私恐れられてるから、むしろ女としてすら見られてない」


 きっぱりと答える穂波さん。ってかその自覚はあるんですね。


「はっ……つまり学校生活でも生活を共にしている恭太にとっては、私は女として見られてないってこと!?」

「まあ、そうですね……」

「がーん」


 効果音を自分で発しながら、穂波さんはがっくりと崩れ落ちるようにひざまずく。

 だが、さすがに可愛そうだと思い、すかさずフォローを入れる。


「で、でも……この2日間だけでも、先生とこうやって暮らしてみて、ポンコツで家事も何もできない箱入り娘で、干物女だってこともわかりましたし」

「酷い!」


 追い打ちをかけてしまったのか、穂波さんはもう涙目だ。


「だ、だけど……」


 俺は穂波さんから顔を逸らして頭を掻きながら言葉を口にする。


「無邪気で無防備で、ちょっと子供っぽい所も可愛らしいというか……女性らしさというか……そういうところもあるかなぁって思いましたよ」



 恥を忍んでそう言ったが、穂波さんの反応がなかったのでチラっと穂波さんの方を見た。

 すると、穂波さんはポカンと口を開けてキョトンと俺を見つめていた。

 その表情は、裏のない純粋無垢な穂波さんの素の顔なのだろう。

 くりっとした目に、すぅっと伸びた鼻筋、ぷるんとした可愛らしい唇。

 その可愛らしさに、思わず俺はドキっとしてまた目を逸らしてしまう。


「と、とりあえず、夜飯食べましょ! 冷めちゃいましたけど……」

「へ!? あ、そ、そうね! そうしましょうか!」



 この話はもう終わりと言わんばかりに、俺たちはお互い微妙な雰囲気を保ちながら夕食にする準備を始める。

 なんだ、この胸騒ぎは……

 この時、俺は初めて菅沢穂波という人のことを、先生という立場ではなく、女性として見た瞬間だったのかもしれない。

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