ポンコツVS幼馴染とお小遣い編
第13話 逆懇願
みんなの楽しい楽しいGWはあっという間に過ぎていき、翌週の月曜日を迎えた。今日からいつもの学校生活が戻ってくる。
「恭太、私のYシャツ知らない??」
「タンスのところのハンガーにかけてありますよ」
「……あっ! あったぁ!」
朝からバタバタと騒がしいのは、ひょんなことから同棲生活を始めることになった、
先生は俺がいることなどお構いなしに、リビングで部屋着からタイトスカートの紺スーツに着替えている。
「わぁっ!」
慌てているのか、タイトスカートを履くのに苦戦している。
まあ見ての通りこの人、家では全くといいほど無防備で、家事も何も出来ないポンコツさんなのだ。
穂波さんは最後に、そのスラっと伸びた白い脚に黒ストをシュルルっと履いて、全身鏡の前で身だしなみをチェック。
前髪を整えて「よしっ」っと小声で呟いた。
「それじゃあ行こうか恭太くん!」
「はい」
俺はスクールバッグを肩に担いで、制服姿に身を纏い、菅沢穂波先生に変貌した穂波さんと一緒に家を出た。
なんかこうやって担任の先生と一緒に家を出るとか……
何この新婚夫婦感?
「家の前の道を右に進むと大通りに出るから、その信号を渡って大通りを左に進むと右側に駅が見えてくるはずよ」
「わかりました。それじゃあまた学校で」
「うん、学校で」
そうしてお互いに手を振って別れ、俺は徒歩で、先生は愛車のリーフで学校へとそれぞれ向かう。
途中まで一緒に乗せてってもらってもよかったのだが、GW中ショッピングモールで市場とバッタリ鉢合わせの一件もあったため、いつどこで学校の生徒に出くわしてしまうか分からないという結論に至り、俺と穂波さんは家からそれぞれ別行動で学校へ向かうことに決めたのだ。
穂波さんの言われた通りに、俺はマンションを出て、前の道を右へと進み、大通りへと向かって歩いていく。まあ最悪迷子になったら、地元の人に聞けばいいや。
そんな気楽な気持ちで歩いていると、後ろからプゥーっとクラクションの音が聞こえた。
後ろを振り返ると、黄色のリーフが俺の横を通り抜けていく、追い越し際に穂波さんはグッドサインを出してこちらに微笑んでいた。
まるでセグウェイのような滑らかさで、穂波さんの黄色いリーフは一足先に走っていく。
リーフが一つ先の角を曲がったところで、俺は再び足を動かして、駅へと向かって歩き出した。
先生との禁断の同居生活が始まって約1週間ほどが経過した。
ほんとこの一週間で、俺の生活はガラリと変わった。
担任教師で、氷の穂波と恐れられている菅沢穂波の家に居候させてもらう形になって、その穂波さんは家事が出来ないポンコツさんで……
アルバイトを辞めてからのGWは、部屋の掃除をしたり、穂波さんの服を洗濯したり、穂波さんのご飯を作ってあげたり、穂波さんのお世話をしたりして……
って、ほとんど家事しかしてねぇ……
これじゃあGWなんてものはなかったに等しい。
それどころか、俺の主婦スキルが更にレベルアップしていっている。
まあ、後は穂波さんに何度も『胸触る?』とか『お尻の方がいい?』とか『それともふともも!?』とか『やっぱりおっぱい?』とか……
「って、あんた痴女か!?」
そう突っ込みを入れたのが昨日の夜のこと。
「なっ、痴女なわけないでしょ! 私はまだピッチピチの処女よ!」
と、穂波さんの本当に一番どうでもいい性事情のカミングアウトを聞く羽目になった。
どうやら、この前のお小遣いの件をまだ根に持っているらしく、毎日のように四つん這いで、タンクトップ越しに谷間を見せつけてきた。
もちろん、俺はそこらの男子高校生と同じくらい……というか平均以上におっぱいは好きだ。
でも、別に好きでもない相手のおっぱいを触りたいとは……思うけど。
あのタンクトップをペロリとめくった先にある、ブラをしていない柔らかそうな豊満な胸がぷるんって揺れて……
って、いかんいかん! 何思い出してるんだ俺は!
まあそんな感じで、先生のおっぱいのおっぱいによるおっぱいのための誘惑攻撃を受けて、GWは過ぎていきましたとさ。
◇
駅から電車に乗って一駅、そこから学校まではあるいて10分ほど。
学校に到着して、昇降口で外履きから上履きへと履き替えて教室へと向かう。
登校時刻のチャイムが鳴るのと同時に、俺は自分の席へ腰かけた。
それと同時に、いつもと変わらぬ鋭い威圧感を出した、鬼の穂波こと担任の菅沢穂波先生が、教室の前のドアから凛々しい佇まいで入ってきた。
先ほどまで、家でバタバタと準備していたポンコツお姉さんとは思えない、嘘みたいなギャップだ。
これ、俺以外誰も知らないんだよなぁ……
「起立!」
穂波教官の入場と同時に、今日の日直が軍隊のようにビシっとした声を張り上げる。それを合図に、全員が急いで立ち上がって姿勢を正す。
なんだか、この軍隊じみた号令もGW明けのせいか懐かしい感じがする。
「礼!」
サっと全員が素早く一斉に丁寧にお辞儀をする。俺も例外ではなく、もう自然に身体がそう動いてしまうのだ。ホント、みんな調教されてるな……
「着席!」
出来るだけ音を立てないようにして、椅子を引いて素早く着席する生徒たち。
それを見届けてから、菅沢穂波先生は口を開いた。
「おはようございます。GW明けでたるんでる生徒もいると思いますが、しっかりと切り替えて学校生活に臨みましょう」
言っていることは普通なのだが、やはり氷の穂波、凍てつくような鋭い氷河のような冷たさを感じされる口調のため、全員ピクっと身体を強張らせている。
恐らくGW明けで学校がだるいと思っていた者たちだ。
自分が言われているような気がして、思わず竦んでしまった。そんなところであろう。
だが、そのおかげで、どこか緩んでいたクラスの空気も、一瞬でピシっと空気が引き締まる。
まあ、当の本人も、タンクトップ姿でベッドの上でゴロゴロして怠惰なGWを過ごしていたんですけどね……
「特に連絡事項はありませんが、しばらく3年生の引退試合などが多く控えています。くれぐれも迷惑を掛けないように」
先生が言うと、威圧感満載で絶対に逆らえない。もし先生が先輩だったら、絶対部活でおっかなびっくりやってる気がする。逆らったら、校舎裏とか体育倉庫とかで締め上げられる未来しか見えない。なにそれどこのヤンキー?
「以上。日直」
そんなことを思っているうちに、穂波先生のSHRが終わりを告げる。
「気を付け、礼!」
日直の合図とともに、座ったままお辞儀をすると、先生が教室を出て行く。
俺はチラっと顔を上げてみると、なぜか先生と目が合った。
先生は、俺に一瞬何かキラっとアイコンタクトしてきたように見えたが、すぐに視線を逸らしていつもの仮面に戻ってしまった。
そのまま先生は、ガラガラっと教室の扉を閉めて外へ出て行ってしまう。
足音が遠ざかっていくのを確認して、ようやく教室の空気が弛緩し、穏やかな日常が戻ってくる。
そして、俺の元へ向かってくる人影が……
「いやぁー氷の穂波に言われると一気に身が引き締まるわ。な、恭太」
「お、おう……」
そう言って、クラスメイトの
「そういえばGWは大丈夫だったのか? 家見つかったか?」
心配そうに尋ねてくる市場。
こいつとは、穂波先生との同居生活を始めた翌日に、ショッピングモールのフードコートで偶然出くわしてしまったのだ。それ以来の顔合わせで、俺が残りのGW何をしていたか知らないのだ。
「ああ、バイト先の先輩に頼んで泊めてもらった」
「そりゃよかった。お前が元気に登校してきて何よりだぜ」
「あ、あははは……」
言えない、担任の先生と一緒に同居生活始めましたなんて言えない。
すると、俺たち二人の間に、一人の元気な声が割って入ってきた。
「おはー恭太! GW大丈夫だった?」
俺の幼馴染でクラスメイトの
「あぁ……なんとかなったよ。心配かけてすまないな」
「そかそか! まあ今日からは、しばらくうちに泊まれるし、少しはくつろいでいきな!」
「あっ……そのことなんだけどさ、瑠香」
「ん?」
瑠香は、キョトンとして首を傾げている。
「実はしばらく居候させてもらえる人を見つけたから、瑠香の家に行かなくてもよさそうなんだ」
「えぇぇぇぇ!?」
すると、驚くほどの大声を瑠香は上げる。思わずうるさくて耳を塞いでしまうレベル。
「ちょっと困るよ! お母さん恭太来るの楽しみにしてるし、お父さんなんて、『これで将来はこの家の家主だな!』って喜んでたんだから!」
「いや、ちょっと待て! なんで俺しれっとお前の家の家族になってるの?」
「だって家族同然のようなものでしょ? 私たちの関係からして!?」
「いやっ、確かにそうかもしれないけど……」
実際の所、瑠香の家で俺は超のんびりしている。というか、もしかしたら母親と住んでいた時よりも、瑠香の家に泊りに行った時の方が、リラックスしてくつろいでいたかもしれない。
家事は瑠香の母親がやってくれるし、料理も勝手に出てくるし、嫌な顔一つせず洗濯をたたんで置いておいてくれたし、リビングでごろごろしてても何も言われないし、瑠香の部屋に普通に布団敷いてくれてたし……
「と・に・か・く! 今日はうちのお母さんが手によりをかけて歓迎する気でいるから、せめて今日だけでもいいから泊まりに来て!」
幼なじみの女の子から泊まりに来て欲しいと、逆に懇願される状況……なんだこれ?
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