第80話 作戦会議

 俺と穂波さんは、教室で指示を出していた瑠香を呼び出して、早速作戦をるために会議室(面談室)へと集まった。俺達の同居が上層部にバレてしまったことや、恭太のクラス移動の件、それを文化祭まで引き延ばそうとして、穂波さんが自分のクビをけてしまった事を説明した。

 話し終えると、瑠香は心底呆れ果てた様子で、はぁっと深いため息を吐いた。


「とりあえず……現状ほなてぃーのぶっ飛んだ行動は置いておいて……」


 瑠香は首をめぐらせて、俺へ悲しみの視線を送ってくる。


「恭太……クラス別になっちゃうの?」


 信じられない、嘘だよね? と、捨てられた子犬のような目で見つめてくる。


「あぁ……ごめん」


 俺は瑠香に頭を下げて謝ることしか出来ない。

 瑠香は穂波さんへ顔を向け、とがめるような視線で睨みつける。


「ほなてぃー、恭太のクラス移動はまぬがれないの?」


 真剣な様子で問いかける瑠香に対して、穂波さんは申し訳なさそうにコクリと頷いた。


「ごめんなさい京町さん。私のせいで……」


 まあ、今回に関しては俺の不注意もあるので、穂波さんがすべて悪いわけではない。

 瑠香に対して責任は俺にもあることを伝えようと口を開きかけると、瑠香はふぅっと息を吐いて、ピっと人差し指を上げる。


「なら、私も恭太と同じクラスに移動したいです!」

「いや、それは無理だろ」

「どうして!?」


 俺が冷静に突っ込みを入れると、瑠香が泣きわめくような口調で縋りついてくる。


「これは、穂波さんの家に俺が住んでいて、穂波さんが保護者代わりにもかかわらず、俺が穂波さんの担任である事が問題であって、俺だけが移動しないと意味ないんだよ」

「でも、一人も二人も変わらないじゃん!」

「まあでも、恭太の言う通りよ。私と恭太が同棲している限りは、恭太がクラス移動になるのは仕方ないことね」


 すると、はっと瑠香が手をぽんと叩いた。


「でもさ、これってもしほなてぃーがクビになったら、恭太と同じクラスのままでいられるってことだよね? なら、ほなてぃー今までお疲れ様!」

「ちょっと京町さん!? しれっと私をクビにしようとするの辞めて!」

「えぇだって……恭太を巻き込んでおいて、挙句の果てには恭太がクラス移動なんてひどい仕打ちしてるんだから、クビちょん切るくらいの覚悟はしてもらわないと」


 言いながら瑠香は、自分のクビ元を指でピっと切るような仕草をして穂波さんを切った。


「そ、そんなぁ……」


 頼みの瑠香にまで見捨てられ、机に力尽きたように項垂れる穂波さん。


「ま、まあ穂波さん。まだ時間ありますし、クラス賞取れるように頑張りましょ?」

「どうしてそんなに恭太は落ち着いてるのよ!! もしクラス賞取れなかったら、あなたの住処もなくなるかもしれないのよ!?」

「えっ……?」


 突然言われた家無くなる宣言。その言葉に、俺は言葉を失った。


「私が首になったら、手取りが無くなるのだから、実家に出戻りするのは自明の理。恭太だって、この高校に通うことが出来る保証はないのよ!?」

「いやいや……まさか……ね」


 俺は甘く見積もりすぎていた。

 そうか、もし穂波さんがクビを切られることになったら、俺も家を再び失うことになるのか。


「その時は、私の家においで恭太。そんな勢いのまま虚勢を張っちゃうだらてぃーとはお別れして」

「ちょっと京町さん!?」


 瑠香が、俺を無理やり京町家に招き入れようと保険をかけてきてくれた。


「ありがと瑠香、気持ちだけ受け取っておくよ」


 瑠香の恩意をありがたく気持ち掛け受け取り、俺は手をパンと叩いて、一度二人を落ち着かせる。


「はいはい、と・に・か・く。どちらにしても、目標はクラス賞獲得必須! 取れなかった時のことは、後で考えましょう!」


 この話は終わりと言わんばかりに、俺はもう一度手を叩いて、話を切り変える。


 二人は納得いっていないような顔をして俺をじっと見つめてきたが、これ以上喚いても仕方がないと察したのか、ふっと理解を示すようなため息をついた。


「わかった。恭太がそこまで言うなら、私はクラス賞獲得のために全力を尽くす。だから、ほなてぃーも全力で取り組んでよね?」

「京町さん・・・・・・善処するわ」


 二人はお互いに頷き合って、改めてクラス賞獲得に向けて拳を突き合った。


 瑠香が教室に戻り、俺と穂波さんは教頭先生に呼びだされる前に話し合っていた、コスプレ衣装へと話題を戻した。


「それで、コスプレ衣装のことですけど。先生は執事でどうでしょう? 普段のクールのイメージからすれば、ぴったりだと思うんですけど」


 俺は、この前穂波さんが提示してくれた、某アダルトゲーム原作で、一般アニメ化もされた、ゴスロリ衣装の女の子と隣に執事が仕えている画像を穂波さんに提示する。


「えっ……本当に? 本当にこのコスプレしていいの?」


 希望に満ちたような目で見つめてくる穂波さんに、俺はコホンと咳ばらいをしてから口を紡ぐ。


「まあ、作品名を言わなければ『ただの執事です』ってことにしておけば何とかなるでしょう。この際クラス賞を取るためには仕方ないです。穂波さんがやりたいようにしていいですよ」

「ありがとー恭太!」


 泣きつくように穂波さんが嘆願してくる。

 こうして、穂波さんのコスプレ衣装も無事に決まり、後は本格的に始動していくだけ!

 その心意気でいたのだが……


「ところで、恭太はなんのコスプレをするの?」

「へっ? あっ……」


 自分のコスプレ衣装決めてなかった。

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