第81話 私の心の内

 私のコスプレ衣装は無事に決まり、恭太たちの下校時間が迫ってきていたので、話し合いを一度お開きにして、職員室のデスクへと戻った。


 私は、椅子に腰かけてふぅっと一息つく。

 コスプレ衣装が恭太の許しを得て決まったのは良かったけれど、本当にこのままでいいのかしら……。

 

 恭太は自分がクラス移動になる犠牲を強いてでも、私のクビを防ごうと、クラス賞獲得という目標に向かって必死になって動いてくれている。

 けれども、どうして恭太があそこまで必死になって動いてくれているのだろう?

 

 私がクビになっちゃうと、家が無くなっちゃうから? 

 でもそうしたら、京町さんが快く受け入れてくれるから恭太としては全く問題はないはず。

 

 だとしたら、恭太は自分がクラス移動になってしまうという犠牲を強いてでも、私をこの学校に残させてくれようと必死になってくれている理由って、一体なんなんなのだろう?


 生徒を一人犠牲にまでしても、私がこの学校に残る必要性が果たしてあるのだろうか?


 そんな疑念が、私の中でわだかまりとして残ってしまう。


 

 まあでも、私が恭太に唯一してあげられることは、クラス賞獲得に向けて準備を着々と進めていく。それが、私が今恭太のために出来ること……!

 雑多な職員室の中で、私は気合を入れ直して握りこぶしを作る。


 すると、私はふと去年の文化祭で、衣装作りが面倒だからとか何とかで、衣装をレンタルすることになり、レンタル衣装のカタログが、ひきだしの何処かに仕舞しまいっぱなしになっていることに気が付いた。


 私は自分の机下にある引き出しを漁り始める。

 しばらくして、カタログを見つけ出した。


「あった、これだ!」


 カタログを見つけ出して、手でぱぱっとほこりを払ってから、引き出しの中から取り出した他の資料をもう一度引き出しの中に仕舞いこむ。

 

 その時、机の上から一枚の用紙がヒラヒラと舞を舞うように地面にひたりと落っこちた。


 引き出しの中に入っていた教材やプリントなどを仕舞い込んでから、私は机の上から落っこちた用紙を拾い上げる。


 その資料を見つめて、私は思わずため息を吐いてしまう。


「そろそろ……タイムリミットが近いわね……」


 私の生活は恭太に出会って大きく変わった。

 でも結局は、すぐに恭太を保護者として預かる形になり、同居生活が始まり、料理や家事などの洗濯一式。すべて恭太に甘えてきてしまった。


 私は、この手元の資料の現実から、目を逸らして逃げたかっただけなのかもしれない。そう思うと、恭太に頼りっきりの自分が情けなくて卑下してしまう。。


 でも……あの時とは状況が違う。

 だって恭太は私にとって……。

 私は机に頬杖をついて、考え込んでしまう。



 私にとって、恭太ってどういう存在なんだろう……?



 いや、私の心の中では、もうそんなことは分かりきっているのだ。

 だからそこ、今まで恭太に甘えて浮かれて頼ってばかりで、ここまで現実と向き合おうとしてこなかった。


 だから、夏休み明けからは、自分でしっかりしなきゃと、少しずつではあるが色々と下準備もしてきた。けれど、恭太に相談するタイミングすら逃して、刻一刻と締め切り時間だけが迫ってきてしまう。


 もしかしたら、本当の自分を忘れかけていたのかもしれない。


 このままじゃだめだ……このままじゃ、私ばかりが恭太に頼りっぱなしで、私ばかりが恭太にばかり迷惑をかけてしまう。

 それに……恭太にとって私は……。


 私は顔をばっと上げて、首を横にぶんぶんと振って現実へ向き合う。


 だからそこ……恭太のために、私は菅沢穂波として、一刻も早く最善の策を練って実行しなければならないと悟った。


 私は一人資料を見つめながら、明かりのついた職員室で、ただ一人ポツンとその場に取り残されたように、ぐるぐると頭の中で考えていた。


「ふぅ……はぁ……」


 私は息を吸って、ため息にも似た息を吐く。

 そして、もう一度気合を入れ直すように呼吸をして、顔を上げた。


 私が心で思っている恭太に対する気持ちが間違っていないのならば、私は……担任教師、菅沢穂波先生として、恭太に最善を尽くすべきだと覚悟を決めた。

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