第20話 激怒
「すまん瑠香、俺が間違ってた……。頼む、今度はいいムードで胸を……おっぱいを揉む方法を教えてくれ」
2日連続、渾身の床に額をつけての土下座。胸を揉むために……ホント、何やってるんだろう俺。
ベッドの上に座っている瑠香は、呆れたような表情を浮かべていた。
「この1日の間にどういう心の変わりようよ、恭太」
「そ、それはまあ色々と……」
穂波さん的な意味で……言えないけど……
ベッドから足を下ろして座り、俺を上から見下ろ形になっている瑠香は、少し怪訝な表情をしていた。
ふいに瑠香が、ふぅっとため息を吐きながら足を組みなおす。
組み替える脚の間から見えそうで見えないスカートの中……
あぁ、どうしてこういう時、見えそうで見えないんだよ!
まあ、幼馴染の下着が見えたところで、興味はないけれども。きわどい部分が目の前にあったら自然と視線がいっちゃうよね。健全な男子高校生だもん!
「恭太って、結構男的な意味では意外と健全だよね」
「な、なにが?」
「いや、わかってないならいいや」
そう言って、よいしょっと立ち上がる瑠香。あぁ……ローアングルからの瑠香の脚、綺麗だなぁ~男子には目の毒だ。俺が守ってやらないと……
「ま、その方向性を間違えなきゃ簡単にできると思うんだけどなぁ。仕方ない、ここはこの瑠香様が徹底的にムードとは何かを教え込んであげましょう!」
そう言いながら、得意顔で自分の胸元をポンっと手で叩く瑠香。その反動で胸がぷるんと揺れている。
なんか……ちょっと嫌な予感がするんですけど。
◇
俺は今、瑠香に言われた通りベッドの上に一緒に乗っかって、瑠香と向かい合う形で座っている。
瑠香はあぐらをかいて座り、おもむろに制服のベストをスルスルっと脱ぎだした。
さらに、ブラウス姿になった瑠香は、ブラウスのボタンをプチプチと……
「って、ちょっと待った」
俺はそこで瑠香を手で制止する。
「ん? どうしたの恭太?」
瑠香はキョトンと首を傾げている。
「どうしたのじゃないだろ。なんで服脱ぎだしてるの? 俺はいいムード作りを教えて欲しいと言ってるんだが?」
「そのムードを作り上げるために、こうして脱いでるんじゃない」
「いや、意味が分からん」
俺の言うことを無視して、そのまま瑠香はブラウスのボタンをプチプチと外していき、瑠香のモチモチとした白い肌と、ブラに覆われたふくよかな胸が露わになる。
ほほう……今日は紫かぁ……じゃなくて!
ブラウスのボタンを外して、半脱ぎ状態になった瑠香が、気合を入れるようにして両腕で拳を作る。
「よしっ! それじゃあいいムード作りのレッスンを始めます!」
「は、はい……」
これ以上、俺が何を言っても無駄だと思い、瑠香のペースに合わせることにした。
「それじゃあ、まずは私が言うセリフをそのままリピートしなさい」
「お、おう……わかった」
瑠香は一度目を閉じて深呼吸をすると、バっと目を開いてキリっとした表情を浮かべて口を開く。
「瑠香……可愛いよ」
ちょっとドヤ顔で声を低くして言って見せる瑠香。なんだよそれ……
まあいいや、俺も瑠香にならうようにして、同じ言葉を繰り返す。
「る、瑠香……可愛いよ」
「ダメよ。もっと感情込めてもう一回! さんはい!」
いきなり鋭い口調でダメ出しを出され、補習を食らってしまう。
今度は、もう少し感情を込めていい放つ。
「瑠香……可愛いよ」
「うーん、まだぎこちないけどいい感じね。それじゃあ、次!」
こうして瑠香のいいムード?講座は進んでいく。
「瑠香……実は俺、昔からずっと瑠香のことが好きだったんだ」
「る……瑠香……実は俺、昔からずっと瑠香のことが好きだったんだ」
「俺、もう我慢できないんだ」
「俺、もう我慢できないんだ」
「瑠香……俺と結婚してくれないか?」
「いや待て」
俺は真顔で瑠香を制止する。
「何よ! 一番盛り上がるところだったのにぃ~!」
「いや可笑しいだろ。なんで段階飛ばしていきなり結婚してくれなんだよ、意味わからん。というか、別に俺はそう言うのを求めてるわけではなく、ただいいムードで胸を揉む方法を知りたいだけなんだが?」
「じとぉ……」
「な、なんだよ?」
「恭太にとって、私は身体だけの女なわけ?」
「そんなことは一言も言ってねぇだろうが」
「私、そんな安い女じゃないんだけど……」
「??」
「??」
なんだろう……なんか会話がかみ合ってない気がする。
「お前今、何の話してる?」
「え? 私は、恭太が私のおっぱいを自分のモノにしたくてたまらないけど、どう切り出したらいいか分からないって照れちゃってるから、仕方なく私がエスコートしてあげようと……」
「は?」
「ん?」
「……」
「……」
しばしの沈黙。
「恭太、私のおっぱいがエッロ過ぎて、もう我慢できないから揉みまくりたいんじゃ?」
「いや、全然」
「……」
「……」
「じゃあなんで私のおっぱい触りたいの?」
「いや、おっぱい触りたいというか、そのいいムードというものを知りたいというかなんというか……」
「……」
すると、ミシミシというベッドのきしむ音が聞こえてきた。
心なしか瑠香がプルプルと身体を震わせている気がする。
「る……瑠香……?」
「恭太」
「は、はい……」
俺はヒシヒシと伝わっている恐怖心からか、無意識に顔を逸らして返事をする。
「他の女か? 他の女の胸触るためか?」
「いや……それは……」
プチっ……っと糸が切れる音が聞こえた。
あっ、ヤベっやっちゃった。てへぺろ
瑠香の背後にゴロゴロと炎が燃え広がるのが見えた。
「だぁぁぁぁれぇぇぇぇだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!! 私の恭太を盗んだ泥棒猫はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
まるでサイヤ人化したように、髪が逆立っている。
「ひぃぃぃいぃぃ!!!」
もうだれも止められない。サイヤ人化というより恐妻家と化した瑠香は、俺をさらに詰問する。
「はぁ!? どういうこと恭太!? 私じゃ満足できなくて他の女に手出したってこと!?」
「いやっ、そういうわけじゃなくて……」
「どういう訳か、しっかりしなさい?」
一瞬、サイヤ人オーラが消えて、辺りに静寂な日常が戻ってくる。
しかし、その沈黙がひしひしと瑠香の怒りを空気中が蓄積しているのがわかる。
瑠香は顔こそ笑っているが、目は全く笑っていなかった。
あっ、ヤバイこれ……正直に話さないと死ぬやつだ。
以前中学の時に、違うクラスの女の子のことが気になっていたことを白状した時と同じ顔をしていた。
その時は、瑠香がその子のクラスまで行って『恭太のこと好きになるのはやめて!』と教室まで殴り込みに行ったのは、今でも俺の中での黒歴史だ。ごめんね
「わかった……正直に話すよ……」
「嘘ついたら、ど・う・な・る・か・わかってるでしょうね?☆」
「わ、わかってるって……」
すると、空気が少し弛緩した。た、助かったぁぁぁ……いやっ、まだ助かってはないんだけど。
瑠香はふぅっとため息を吐いて、ベッドの上にあぐらをかいて座った。
「それで、どういう事情があるわけ?」
「そのぉ……実は……」
◇
俺は事の顛末をすべて話した。
瑠香は心底呆れかえったような表情で、盛大にため息を吐いた。
「なるほどね。通りでおかしいなぁと思ってたんだよね。私に盛ってくるわけでもなく、練習させてほしいってよくわからない言い回しまでして……」
「それは……すまん」
「はぁ……にしてもまさか恭太が居候してるのが穂波ぃ~の家だとは……」
瑠香はもう一度大きく息を吐くと、するするっと俺の方に近づいてきて、立膝の形で俺を見下ろすようにして手を差し伸べる。
「ほら、行くよ」
「えっ? 行くってどこに?」
俺がきょとんとした感じで尋ねると、瑠香はにひぃっと悪い笑みを浮かべて言い放った。
「そりゃもちろん……先生のところによ!」
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