第97話 再同棲
あれから、一年半の時間を経た。
俺は無事に、隣県の大学へ合格した。
そして今日から、学生寮を出て、新しい家へと引っ越す。
「引っ越し業者が来る前でよかったぁ……」
俺はふぅっと息を吐いてから、とあるお宅のインターフォンを鳴らす。
しばらく待つと、ふぁーいと気の抜けた声が聞こえ、ガチャリと玄関の扉が開く。
寝ぐせをつけた髪に、グレーのダボッとしたスウェット姿は、どこか懐かしさを覚える。
「まだ寝てたんですね……穂波さん」
「あれ? おはよー恭太……また遊びに来てくれたの?」
「何寝ぼけたこと言ってるんですか!!」
「はへ?」
ポカンとしている穂波さんに、俺はこめかみに手を当てて呆れる。
「今日引っ越してきますからねって言ったでしょ!」
「……はっ!?」
ようやく目を覚ました穂波さんは、慌てた様子で俺を見る。
「嘘!? 今何時!? 引っ越し業者、もう来ちゃう!?」
「大丈夫です。まだ引っ越し業者は来てませんから落ち着いてください。ほら、さっさと部屋の掃除しちゃいますよ!」
安堵している穂波さんをよそに、ずかずかと穂波さんの部屋に上がり込む。
「ちょっと待って恭太! 私、恭太に見せられない恥ずかしいものがいっぱい――」
「そんなの、もう何度も見られてるでしょ? 今さら恥じらうこともないです」
「少しは乙女心を気遣ってよ!」
「穂波さんにも乙女なんてあったんですねぇ……」
必死に抵抗する穂波さんをよそに、俺は寝室兼リビングの部屋の扉を開ける。
そこには案の定、衣服やゴミが散乱していた。
先月受験が終わった時、一度片付けに来たので、想像していたよりはマシだった。
これなら、引っ越し業者が来るまでにはどうにか片づけられそう。
「それじゃ、早速片づけ始めますねー」
俺は無造作にカーテンを開けて、部屋の中を明るくする。
「きゃっ、眩しい……」
急に差し込んできた太陽光の光に、目元を手で隠す穂波さん。
俺はくるりと穂波さんに向き直る。
「いいですか? 今日からまた一緒に暮らすんですから、彼氏として、ビシバシその腐った生活態度を改めてもらいますからね! 家事も交代制で、穂波さんにもしっかりやってもらいますから、覚悟しておくように!」
「そ、そんなぁ!?」
がっくしと膝をついて、四つん這いに崩れ落ちる穂波さん。
でも、そんなポンコツっぷりを見ていると、結局仕方ないなぁっと思って手伝っちゃうんだろうな。
彼女になってから、俺の穂波さんへの態度は、相当甘々になったと思う。
俺は彼女の元へと向かい、しゃがみこんで頭をよしよしと撫でてあげる。
そして、ゆっくりと顔を上げた穂波さんに、目一杯の笑顔で言い放った。
「ただいま、穂波さん!」
また波乱万丈な生活が待ち受けているであろう。
でも、何があろうとも、これからも未来永劫、俺と穂波さんの新たな同棲生活は、末永く続いていくことを、俺は願っている。
~完~
同居先生~住む家をなくした俺を拾ってくれたのは、担任の先生だった~ さばりん @c_sabarin
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