第96話 同居生活終了

 玄関の扉を締めて、鍵を大家さんに返却した後、駐車場へ出ると――


「波ちゃんおっそい!」


 瑠香と並ぶようにして、保奈美先生が待っていた。


「仕方ないじゃない! 色々忘れ物ないかチェックしたり、大家さんにお礼を言ったりしていたんだから!」

「ホントにぃ? とか言って京町さんが先に出た後、二人でイチャついてたんじゃないの?」

「そんなことしてないわ!」


 顔を真っ赤にして否定する穂波さん。

 その恥ずかしがる表情を見て、改めて俺と穂波さんは、彼氏彼女としての、新たな関係性を築き始めたのだなと実感する。

 すると、穂波さんがしらっとした目で俺を睨みつけてきた。


「何よ、恭太」

「いやっ、なんでもないですよー」


 穂波さんから視線を逸らして、思わずにやけ顔を浮かべてしまう。


「はぁ……まあいいわ」


 呆れたようにため息を吐いて、穂波さんは改まったように姿勢を正す。


「みんな、今日は来てくれてありがと。今までいろいろとお世話になりました」


 深々とお辞儀する穂波さんに、皆各々言葉をかける。


「波ちゃん、また飲みに誘ってあげる! 向こうの学校で愚痴があれば、いつでも話聞くからね!」

「ほなてぃー安心して! ほなてぃーがいないうちに、恭太は私のものになってるから!」

「それは安心できないわよ!」


 瑠香の言葉に、慌てた様子で顔を上げた穂波さんは、隣にいる俺へと顔を向ける。


「だ、大丈夫です。俺は穂波さん一筋ですから」

「そ、そう……ならいいのだけれど……」


 頬を真っ赤にして、照れる穂波さん。


「やーいのろけー!」

「爆発しちゃえー」


 二人からのヤジは無視して、俺は姿勢を正して、ふっと破顔する。


「今までありがとうございます。そして、これからもよろしくお願いします!」

「えっ、えぇ……よろしくね、恭太」


 穂波さんは、幸せそうな笑みを浮かべて頷いた。


「はぁ……私たちいるの、忘れてるのかしら?」

「まあ、浮ついているのは最初のうちだけよ。三カ月も経てば、ほなてぃー愛想疲れているよ」

「酷いわね!?」

「あはは……」


 まあでも、穂波さんのポンコツ具合を知っているから、これ以上衝撃的なものがなければ、愛想つくこともない気がする。

 そんな確信めいた自信があった。



 穂波さんは、愛車のマーチに乗り込み、穂波さんがカーウィンドウを開けて顔を覗かせる。


「それじゃあ、行くわね……」

「うん、いってらっしゃい波ちゃん」

「またね、ほなてぃー」

「いってらっしゃい、穂波さん」


 三人に見送られつつ、穂波さんは前を見据えてアクセルを踏み込んで、車を走らせて行く。

 俺達はアパート前の道まで出て、大きく手を振って車が見えなくなるまで穂波さんを見送った。


 穂波さんの車が角を曲がり、見えなくなった。

 俺と穂波さんの同居生活は、こうして完全に幕を閉じた。

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