第37話 鬼の保奈美
翌日、今日もどんよりとした雲が空を覆っており、雨粒が地面に叩きつけられる音が聞こえてくる。
穂波さんと家の前から分かれて、俺は電車に乗って学校へと登校した。
教室に入り、壁側の自席へと着くと、いつもの茶髪のポニーテールを揺らしながら一人の少女が俺の元へとやってきた。
「おはよう恭太。大丈夫? ドベてぃーに何かされてない?」
「おはよ瑠香。ドベてぃーって、もう何の略称かも分からんぞ……」
「へ? ドスケベティーチャーの略だけど」
「酷い略称だな……」
俺のクラスメイトで幼馴染の
ちなみに、穂波さんがポンコツであるということは隠しているらしく、瑠香の中で穂波さんは、教え子の貞操を狙っている淫乱教師という認識らしい。やだー何それ? ちゃんとそういう重要な情報共有はしておこうね?
俺が頭の中でそんなことを考えていると、瑠香は本題へと話を向ける。
「まあそれはさておいてさ恭太。もうすぐ中間じゃん? らんてぃー試験問題家で作ってたりしないの?」
「今度は誰だよらんてぃーって……」
「淫乱ティーチャー」
「ただの変態じゃん!」
でも、瑠香がつけてる穂波さんのあだ名は、どこかの同人誌とかでタイトルになってそうだなとか思いました。
「じゃあしょうがないからゆってぃーで妥協してあげよう」
「ろくな略称思いつかないなお前……」
もう別の芸人の名前になってるじゃねーか。
恐らくは誘惑ティーチャーかなんかの略なんだろうけど……これまた同人誌にありそうな名前。
それとな瑠香、雨に濡れたのか知らないけど、ブラウスがちょっと濡れて透けてるのに、ベストやセーターも何も着ずに無防備な姿を晒している幼馴染の方が、十分誘惑幼馴染だと思いますよ?
俺がじぃっとありがたい透けブラを観察していると、その視線に気が付いたのか瑠香が恥ずかしそうに身をよじる。
「べっ、別に……恭太に見られるなら本望だし……」
あぁ……そういうことね。俺のためにわざわざ見せに来てくれたのね。でも、他の男子からの視線も今日は特に視線が熱いから自粛しなさい。
だが、特に気にする様子もなく瑠香は話を戻す。
ちっちゃいことは気にするな~ほらワカチコワカチコ~ってか?
「それで、エロティーは試験問題作ってるの?」
「ただのエロ教師になった……」
そんなことをぼやきながらも、俺は中間考査へと頭を戻す。
下野谷高校では6月の下旬から7月の上旬にかけて中間考査が行われる。ちなみに2学期制なので期末試験は9月末。
「そういえば、先生が家で試験問題作ってるの見たことねぇな……」
ってか、先生が普段家で何か仕事やら家事やらを真面目にやっている姿を見たことがない。
まあ、ポンコツだからなぁ……家だと出来ないから全部学校で済ませてしまっているのだろう。
「な~んだ。折角恭太が知ってると思ったのに……」
「まあ、家でなんとなく聞いてみるよ」
そう俺が言った直後、ガラガラっと教室の前の扉が開かれて、穂波さんが教室へと入ってきた。それを見て、瑠香は手を軽く振ってから、自席へと戻って行った。
というか、その前にその濡れたブラウス姿どうにかしようね?
◇
今日も何事もなく授業を終えて、一人昇降口へ続く廊下を歩いていると、とある人物に声を掛けられた。
「富士見くん~こんにちは~」
振り返ると、そこにいたのは、ほんわかふわふわり~ん! という感じの朗らかな笑顔で俺に挨拶をしてきた、保健の先生の
「こ、こんにちは栄先生……」
真実を知ってしまってから、俺は栄先生との距離感を掴めずにいた。なので、俺がいま一番会いたくない人でもある。
「今から帰り?」
「そうっす」
俺がそっけなく答えると、そっかぁ~っとほんわか答える。
「あっ、そうだ!」
すると、保奈美先生は何かを思い出したように尋ねてきた。
「そう言えば、波ちゃんとは上手くいった?」
突然穂波さんの事を聞かれて、一瞬戸惑った。そうだ、この人は俺と穂波さんが禁断の恋愛関係になっていると勘違いしているんだった。まあ、同居している時点で禁断ではあるんだが……俺は何とか適当にいい感じの答えを返す。
「えっ? あぁ……まあ、そうですねぼちぼちは」
「そっかぁ~よかったぁ~」
嬉しそうに胸の前で手を合わせる保奈美先生。だが、穂波さんと違って、胸元は目に凄いやさしかった。
「それと~」
すると、保奈美先生がこちらへ近づいてきて、耳元でささやいた。
「波ちゃんと、変なこと……したりしてないわよね?」
「へ、変なことって?」
「それは分かるでしょ? 私が仕向けたんだから?」
「……」
悪い笑みを浮かべる保奈美先生。間違いなく、鬼の保奈美の本性が現れた瞬間だった。
俺は冷や汗を掻きつつも、懸命に口を開いた。
「当たり前じゃないですか。あはは……」
まあ、お風呂場であんなことやこんなことやそんなことはしましたけどもはい……
ってか、仕向けた張本人がそれ聞きます!?
そんなこと知ったものかというように、保奈美先生はさらに追い打ちをかけてくる。
「もしも波ちゃんと何かあったら、その時は……ただじゃ済まないからね?」
そう耳元で呟いた後、顔を離して、てへっ! っとあざとくウインクをして見せる保奈美先生。
俺は、この人に仕向けられていずれ退学処分になってしまうのでないか。そんな不安さえ感じられた。
今度から、穂波さんが何か保奈美先生に仕向けられたときは、細心の注意を払おう。そう心に誓った。
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