第57話 SOS!?
午後は、近くの駅前にあるレンタルビデオ店へ足を運び、映画館で見たかったけど結局見れず終いだった映画のDVDなどを数本見繕い、ついでに夕食の買い物も済ませて、家に戻った。
夕食作りの時間まで、借りてきた映画を一人で鑑賞して時間を忘れた。
去年大ヒットした某アニメーション会社の映画で、老若男女問わず人気が高く、当時一世を巻き起こしていた。
流行に乗り切れずに見逃していたのだが、ようやく見ることが出来た。
内容は、とある国で王女となる予定だった少女が、母親の命で国外追放されてしまうのだが、路頭に迷っていた彼女を助けてくれた流浪の民が、実は隣国の王子でった。その後、二人は紆余曲折ありながらも恋に落ちていく。
すると、実の母親が、悪の組織の魔法によって操られていたことが判明する。
見捨てられた身としては、心境が複雑であったものの、彼女は母親を助けに行くことを決意し、悪の組織との戦いに挑むというストーリー。
結末としては、母親が正気に戻り、我が娘に謝罪をして、無事にハッピーエンドを迎える。その後彼女は、自国には戻らず、隣国に残ることを決断し、出会った王族と幸せに暮らしていく。
世界観は違えど、今俺が置かれている立場そっくりで思わず自分と比較してしまう。
自分は、母ともう一度一緒に暮らすという選択ではなく、穂波さんと一緒に暮らすという選択を選んだ。
複雑な心境の中で、自分が芯に持っていることを信じて……穂波さんとの平穏な生活を継続することを決めた。
だが、今の俺と穂波さんの関係性はどう見えるのだろう?
俺は、穂波さんとこれからどうしていきたいのだろうか?
映画のエンドロールが流れ始めた頃には、窓から見える空は、オレンジ色に染まっていた。
何故俺は、穂波さんと一緒に暮らすことを決意したのだろうか?
作品では、彼女は王子との恋を選んだ末に隣国に残る決断をした。俺の中にも、何か似たような感情を穂波さんに抱いていたのだろう。
だから、母よりも穂波さんを選んだ。
もう、俺は穂波さんを先生ではなく、違う存在としてとらえている。
ポンコツでどうしようもなく生活スキルなくて、でも実は優しい部分もあったりなんかして、胸も大きくてスタイル抜群で、学校では怖いけど性根は優しくて……それでもって、俺のことを……
ブーブー
はっと我に返ると、机の上に置いておいたスマートフォンが振動した。
手に取って画面を見ると、穂波さんからのメッセージが届いていた。
なんだろうと思い、届いたメッセージの内容を確認する。
『【SOS】至急安全な場所へ避難せよ』
「な、なんだこれ?」
どういうことだろうか?
SOS? 安全な場所に避難?
安全な場所ってどこだ?
俺が今、穂波さんの家にいることは分かっているはず。ということは、ここが安全な場所でなくなるということか?
ま、まさか……穂波さんのお母さん、つまりは香織さんが俺たちの様子を抜き打ちチェックに来るとか!?
でも、それならむしろ俺はいた方がいい気がするし……
『どういうことですか!?』
俺はそうメッセージを返し、ひとまず家を出るべきか出ないべきか返答を待った。
すぐに既読が付き、穂波さんからすぐに返答が返ってくる。
『奴が……くる!』
「いや、奴って誰だよ!?」
思わず一人でツッコミを入れてしまう。
だが、一つ分かったことは、誰かがこの家に来るらしいので、すぐさま避難せよということらしい。
追い打ちをかけるようにして、穂波さんの返事がくる。
『早く逃げて、もう着いちゃう!』
どうやら、相当切羽詰まっているらしい。
『わかりました』
俺はそう一言だけ穂波さんに返事を返して、テレビの画面を消し、借りてきたDVDをケースにしまい、貴重品だけをもって玄関へと向かい、そそくさと家から避難を開始する。
だが、靴を履いて玄関のドアを開けて廊下に出た時。アパートの中に入ってくる一台の車が見えた。
白い軽自動車は、いつも穂波さんが愛車である黄色いリーフを止めているスペースに駐車した。
そして、その運転席から降りてきた人物を見て、俺は目を疑う。
な、なんで保奈美先生がこんなところにいるんだ!?
ま、まさか……奴って、保奈美先生の事!?
車から降りてきたのは、保健教師の
二人は、車を降りてこちらへトコトコと歩いてくる。
幸運なことに、保奈美先生はまだこちらの姿には気づいていない。
しかし、このマンションの出入り口は中階段一か所のみ。つまり、俺がこの場を立ち去るには、どうあがいても鉢合わせることになる。
どうするか?
偶然を装ってそのまま特攻するか?
それとも、何とかして場をやり過ごすか。
どうしようかと思考を巡らせているうちにも、先生二人はこちらへ刻一刻と向かってくる。
ひとまず俺は、家の中へと引き返し、鍵を施錠して、部屋の中を見渡して、見つからなさそうな隠れ場所を探す。
考えろ……来客が一番案内されそうにない場所……そうだ!
俺はとある場所へ身を隠した。
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