第45話 実家訪問
訳が分からないまま、俺は急いで着替えなど必要最低限の荷物をまとめて、先生の愛車であるリーフの後部座席へと乗っける。
そして、助手席に座り穂波さんがリーフをかっ飛ばすこと1時間。空はすっかり暗くなり、遠くの方にかすかに藍色の空が浮かんでいる程度で、時期に空一面が暗闇に覆われるであろうという黄昏時。やってきたのは、今住んでいる場所から少し郊外へと向かった山のふもと町。
どうやら菅沢家の実家はこのあたりにあるようだ。
確かに、穂波さんがここから学校に通うとなると、電車で最低でも1時間はかかる。
そこから学校まで歩く時間などを考えると、一人暮らしをした方が楽であるのは間違いない。まあでも、一人で生活できる最低限度の家事スキルがあればの話ですけど。
「あのぉ……穂波さん」
「どうしたの恭太?」
俺は、ここでようやく本題を尋ねた。
「どうして俺は今、穂波さんの実家に連れていかれてるんでしょうか?」
恐る恐る尋ねると、穂波さんはばつが悪そうに答える。
「それは……そのぉ……帰るっていうのをすっかり忘れてたと言いますか……つまり、きょ、恭太のせいなんだからね!?」
「いや、どうして俺のせいになるんですか!?」
意味が分からん!
「それはだって、毎週のように週末実家に帰っていた私が、突如として帰らなくなったら、どうしたのって心配するのが親ってものでしょ?」
「つまりは、俺が家事をするようになって、穂波さんが洗濯物とかを実家に持って帰ってくることが無くなったから、たまには帰って来なさいと怒られたと?」
「そ、それと……同棲している人の顔を見せて頂戴って言われて……」
「つまりはあれですか? 色々問い詰められて、同居していることも芋づる式に白状したと?」
「……はい」
流石はポンコツ。やってくれたぜ!
まあ、そりゃそうだ。毎週のように実家に洗濯物を洗濯しに行っていたポンコツ娘が、突如として帰ってこなくなったら、何かあると思う方が普通だろう。
まあ、いつかはこうしてバレてしまう時が来るとは思っていたから、通る道ではあるのだが……
「もう少し心の準備が欲しかったです」
突然穂波さんの実家に行くと言われても、ご両親と何を話せばいいのか全く分からない。
「あはは……ごめんね。今日彼氏を連れて帰ってこないと、明日から私の家に入り浸るって言うから」
「怖い怖い。穂波ママ怖い」
ってか、ちょっと待って?
「なんで俺が彼氏っていうことになってるんですか!?」
「そ……それは……そのぉ……」
穂波さんは口ごもる。俺は、じぃっと穂波さんを睨みつけて続きを促す。
「だ、だってぇ! 担任と生徒が同棲してるよりは、彼氏彼女が同棲してるって言ったほうが、まだ健全でしょ!?」
「それは、そうですけど……普通にルームシェア始めたとか他に言いようがあったんじゃないですか?」
「それは無理よ。ルームシェアどころか、同棲でも結構アウトなことまで嘯いて言っちゃったし」
「何を言ったんですか!?」
やめて!? ポンコツ穂波のことだ。きっと酷いことを言ったに違いない。
「下手したら俺、家に着いた瞬間、玄関で刃物で刺されるんじゃ……」
「だ、大丈夫! 菅沢家はフレンドリーで何でも許してくれるタイプだから! それに、両親は恭太との同棲を寧ろ快く受け止めてくれてたから!」
俺が恐怖心に打ちひしがれていると、車は幹線道路から狭い路地へと入り、さらにグングン突き進んでいく。そして、小さな小川のようなところにかかる小さな橋を渡ると、目の前に見えてきた立派な木造の家の前でキィっと車を止めた。
「着いたわよ」
穂波さんがそう言い放ち、俺は目の前に現れた家を見ながら口を開く。
「これが、穂波さんの実家ですか?」
「そうよ、ほら、時間がないから早く」
急かされるように、シートベルトを外して車から降りて、後部座席に置いてあった荷物を持って、穂波さんの後をついていく。
穂波さんはその大きな家の玄関まで行くと、インターフォンも全く使わずに、施錠されていない玄関のドアをガチャリと開け放った。
「ただいま~!」
家の中に声を張り上げると、中から『はーい』という返事が聞こえてくる。
「ほら、恭太」
穂波さんに手招きをされて、俺は玄関の中へと入る。
「お、おじゃまします……」
人二人が悠々と入れるスペースの有る玄関に案内されて、俺はその先に続いている廊下から聞こえる足音の方を見た。
「おかえり穂波」
廊下から現れたのは、黒髪セミロングの髪に、くりっとした目に穂波さんと同じように白い肌、つややかな唇、ピンク色のエプロンを身に着けた優しそうな雰囲気の女性だ。そして、何といってもその身に着けているエプロンがはち切れてしまうのではないかという大きな爆乳山が二つ! おう……これは間違いなく穂波さんのママですわ。
「ただいまお母さん」
「おかえり穂波」
優しい口調で、出迎えてくれる穂波ママ。そのにこやかな視線をスライドさせて、今度は俺を見つけた。
「あなたが、恭太くんね。穂波から話は聞いております。穂波の母の
ご丁寧に自己紹介を含めて挨拶をされた。どうやら穂波さんの言う通り、殺される気配は全くないのでひとまず安心だ。安堵の束の間、俺は穂波ママにペコリとお辞儀を返した。
「こちらこそ……えっと、穂波さんと一緒に住まわせてもらってます。富士見恭太と申します」
ペコリと頭を下げると、穂波ママは顎に手をやって何やら考え始める。
「富士見恭太くん……富士見……ね」
「どうかしましたか?」
「あっ、いえ! なんでもないのよ! 穂波から色々話は聞いているわ! 今日はねっとりたっぷりお話を聞かせて頂戴!」
「ちょっと、お母さん!」
穂波さんが恥ずかしそうに顔を染める。ねっとりたっぷりってどこまで聞かれちゃうんだろう……
「さ、どうぞ上がって上がって!」
「はい……お邪魔します」
穂波ママに促されて、俺は靴を脱いで菅沢家へとお邪魔する。
「ご飯できてる?」
「もう少しで出来るから、先に恭太君と部屋に荷物置いてきちゃいなさい」
「わかった~」
穂波さんが返事を返すと、穂波ママは台所があると思われる方へとそそくさと消えていってしまった。
「それじゃ、先に部屋に荷物を置いちゃおう」
「わ、わかりました」
俺は穂波さんに案内されるがまま、玄関前にある階段を上っていく。
階段を上り、廊下の電気をつけてくれると、そこには3つほど扉がある。
階段の角を折れて、折り返すような形で廊下を置くまで進むと、さらに2つの扉が見えてくる。
へんぴな田舎町で、一軒一軒の家が大きいとはいえ、部屋数多すぎない?
「どれだけ部屋あるんですか?!」
「う~んとね、全部で10個くらい?」
「まさかの10LDK!?」
穂波さん、まさかのセレブだった?!
驚愕の数字に驚きを隠せないでいると、穂波さんが説明してくれる。
「昔は従妹と親戚みんなで住んでたから立派なだけ。今は両親二人だけで、お正月とか親戚で集まる時しか、2階はあまり使ってないみたいよ」
「な、なるほど……」
「ほら、こっちこっち」
穂波さんに促されて、俺達は一番奥の部屋へと進んだ。
部屋はいたって普通の6畳一間の畳部屋。
特に目立ったものはなく、掛け時計と布団が2セット角に畳まれておいてあるだけだ。
「このタンスの中、使っていいから」
「ありがとうございます」
俺はその何も入っていないだだっ広いタンスに荷物を置いた。
「それじゃあ、早速夜ご飯を食べに行こう!」
そう言って、元気になった穂波さんはリビングへと歩いていく。その後ろを俺はついていくことしか出来ない。
果たしてこの後、俺はどうなってしまうのだろうか?
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