同居先生~住む家をなくした俺を拾ってくれたのは、担任の先生だった~

さばりん

同居開始編

第1話 実家消滅

 先生……この言葉を聞いて皆はどう思うであろう。


 人によっては先生ではなく、教師または教員と呼ぶかもしれない。まあ、呼び方の話は置いといて、おそらく大半の学生にとっては家族以外で一番身近にいる大人の見本というのが一般的な見方だろうか。または生徒たちをまとめあげ、学生へ教鞭を執る者という見解だろうか。


 そして、学生たちは皆その見本たる先生に対して思うことは、尊敬か軽蔑のどちらかだ。


 例えば、イケメンの若いスマートな男の先生がいたら、JK達から圧倒的な支持を受けて神の如くカリスマとして扱われるし、めっちゃくちゃ綺麗で巨乳の可愛い先生がいたらDTのDK達がみな群がるようにして奉る。なんで童貞(DT)の男子高校生(DK)ってみんな巨乳につられちゃうんだろうね?



 一方で、髪の毛がバーコードで剥げ散らかしているおっさん教師にはJKもDKもみなその頭を馬鹿にし、ぽっちゃりおばさんで眼鏡という理数系の先生に対しては興味すらも失せて授業すら聞かず相手にしない。

 だが、そういう奴に限ってテストとかでめっちゃ意地悪な問題出してくるんだよな……『私の授業をちゃんと聞いていれば解けたはずです!』とか言って。


 話が逸れたが、つまり先生という立場は、尊敬よりもほとんどの場合は軽蔑される立場なのではないだろうか?


 学生は授業中の独特な仕草や口調を真似したり、変なあだ名をつけたり、前を歩いているハゲ教員の後ろで、そのツルピカの後頭部を指さしておちょくってみたり。まあ、大体はそんな感じだろう。


 だが、例外的に絶対的なプロポーションとカリスマ性を持ち、恐ろしくて近づきがたいという場合も稀に存在する。




 その状況が今みたいな状況である。



 ここはとある夜、車中での出来事。

 助手席に座っている俺に対して、運転席に座っているその美人な先生は、紺色のスーツに身を纏い、艶のある真っ直ぐな黒髪をなびかせながら、鋭い視線を効かせ、冷酷なまでの口調で有無を言わさぬ威圧感を醸し出し、俺を指さして言い放った。


「富士見くん。今日から私の家で暮らしなさい!」


 何が起こっているのか、何を言われているのかわからなかった。

 とにかく今分かっているのは、目の前にいるちょっと強面の美人教師に『同居しませんか?』 っと誘われているということだけだ。


 

 何故こんな状況になっているのか、どうしてこんなことになってしまっているのか、そして目の前にいる美人な先生と俺はどういう関係なのか?


 それを説明するには、少し昔の話をしなければならない。



 ◇



「恭太、あんた来週から一人暮らししなさい」


 俺、富士見恭太ふじみきょうたが母親に突然そう通告されたのは、春休みに入って1週間ほど経った3月終盤のことだった。

 4月から学年で言えば高校2年生になり、これからが青春で一番楽しいこと真っ盛りとなる矢先の出来事だった。


 母親に詳しく事情を聞けば、この間再婚した男と同棲することを決めたそうで、この街から出て行くとの事だ。しかも、既に家を売り払う手続きをすべて済ませ、来週にはこの家を立ち退かなくてはならないそうだ。


「じゃあ、俺もついていくよ」


 俺はそう母親に告げたのだが……


「ダメよ、あんたももう17歳になる年なんだから、自立を覚えなさい。いい? これは大人になるための予行練習よ!」


 そう突き放され、母親は俺が付いていくことを拒否した。

 後々になって知ったのだが、相手側の男が俺と一緒に暮らすことを嫌がったらしい。なら最初からそんな男と再婚するんじゃねぇと母親に言いたかったところなのだが、それを言うにも言いずらい事情というのがある。


 俺が幼い頃に父親は多額の借金を抱えて蒸発。以後母が俺を女手一筋でここまで育ててくれたので、『再婚する』と母親から告げられ、今まで苦労をかけた分、幸せになってほしいという気持ちが俺の心の底にあるのだ。

 母は夜間の仕事をしていたので、ほとんど家事全般は俺がしていたけれど、その代わり学費などはすべて賄ってくれていたし、今まで愚痴を零すことはなかった。


 だが、今は正直我が子を崖から突き落とされるライオンの子供のように、奈落の底へ落とされた気分だった。


 何が学費は高校までは払うから安心しろだよ。住む家がなきゃ元の子もないんだよ。

 しかも、家は自分で探して、家賃も自分で払えって……

 今まで文句の一つも言わなかった息子に対して何という非常なまでの通告。あまり家庭が裕福でないことは知っているが、全額って……

 せめて最初の3カ月ぐらいは払ってくれてもいいんじゃない?


 俺は今まで親の脛をかじって生きてきたので、貯蓄はほとんどない。

 いきなり自分で家を探せなどと言われても出来るわけがなかった。

 しかも今は引っ越しシーズン真っただ中、頑張って学生寮などを当たってみたものの、新学期1週間前の時点では既に入居者で埋まっており、なかなか見つけることが出来ない。インターネットで必死に一人暮らし用のアパートを探してみるものの、こんな都会で学生の身分で住めるような家賃のところは全く見つからなかった。


 ひとまず俺は、お金を貯めるために今まで使っていた部屋の家具や漫画などをすべてリサイクルショップで売り払い、何とかこの後1カ月ほどやりくりしていくためのお金を手に入れた。


 そして、そのままずるずると時は過ぎていき、住宅の契約期限最終日となり、俺と母親は家を出た。


 母親は、そのまま再婚相手が迎えに来た車で、さっさと新居へと向かい街を出て行ってしまった。



 根性の別れとかではないが、凄い存外に扱われた感半端ないな。

 しかも、母親が迎えに来た再婚相手、俺を見てすげぇ嫌悪感丸出しだったし。

 ピカピカに磨かれた外車にツバ吐いてやろうかとも思ったが、後々面倒くさそうなのでやめておいた。

 請求書とか突き出されてもお金ないから払えないし。


 まあそれはともかくとして、俺は今日から放浪者高校生となってしまった。

 といっても、始業式まであと一週間もある。

 ひとまずは漫画喫茶などで一夜を過ごして何とかやり過ごすか……

 にしても、まずは家を探さないとな、毎日漫画喫茶で満喫生活をしていたらあっという間にお金がそこを尽きてしまう。


「まあ、見つからなかった場合は、その時考えよう」


 そう呟いて、俺は大きなリュックを背負った。


「いくか……」


 俺は目的もなく何処へ行くでもなく、なんとなく駅の方へと歩みを進めた。


 それから、約1か月後のことだった。

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