第34話 結果発表

 放課後、俺は瑠香と穂波さんに呼び出されて、学校の屋上へと来ていた。


 今日はポカポカ陽気で屋上に吹く風が丁度心地よい。

 ちなみに、普段屋上は施錠が掛けられていて、一般生徒は立ち入り禁止。

 今は、穂波さんが職権乱用して許可を貰ってここにいます。


 傾き始めた太陽の光に当てられて、伸びる人影も長くなってくる。

 その影を作っているのは、腕組みをして仁王立ちをして茶髪のポニーテールを揺らしている瑠香と、風でなびく黒髪を手で抑えながら心配した様子で見つめる穂波さん。


「さぁ、恭太。結果を発表して頂戴」


 瑠香に促されて、俺は息をのんだ。

 そして、目を瞑りそのまま身体を大きく曲げて、開口一番に言い放つ。


「ごめん瑠香! 今は瑠香と一緒には暮らせない!」


 そう俺が言い放つと、風になびいて揺れる木々の音だけが響き渡る。

 心配になって顔を上げると、瑠香は目を見開いて驚いたような表情を浮かべ。穂波さんは歓喜の涙を浮かべんとするばかりに口元を手で抑えていた。


 瑠香は目を細めて俺を睨みつける。


「理由は?」


 鋭い声で聞かれ、俺は一つ間をおいてから答える。


「瑠香と一緒にいるのが嫌いなわけじゃないんだ。一番一緒にいて安心できて、安らぎも与えてくれる。リラックスっていう意味での癒しは確かに瑠香の方が勝ってる。でも今は、少し冒険してもいいのかなって、ちょっと大変な方が俺にとっては刺激のある生活で、穂波さんと暮らしてみて、新たに自分が成長できるんじゃないかって。今の生活に満足してるんだ。だから、穂波さんの家から出るつもりはないよ」


 俺がそう言い切ると、瑠香は睨みつけていた視線を落として肩を落とす。


「そう……」

「あぁ……」


 そして、すぐさま瑠香は再び顔を上げて俺を睨みつける。


「で、本当の理由は?」

「はっ?」


 何言ってんだこいつ? 理由なら今言ったばかりだろ。

 俺が訝しむ視線で瑠香を見つめると、瑠香は今度は穂波さんの方へと視線を向ける。


「先生、どう思いますか?」


 尋ねられた穂波さんは瞑目していた目を開いて口を開く。


「えぇ……今の理由は真っ赤な嘘ね」

「えぇ!? 先生まで!?」


 なんで!? ちゃんと本心で言ったけど!!?

 あっ、ちなみに先生は今学校内なので、氷の穂波モード絶賛発動中です。

 俺が戸惑っていると、瑠香が盛大なため息を吐いた。


「はぁ……誰が論理的な癒しについての答えを求めたのよ。もっとあるでしょ、決定的な勝敗を決した部分が」

「へっ?」


 決定的な勝敗の部分? どこだ?

 まるで分らないというような表情を俺が浮かべていると、穂波さんと瑠香はお互いに見つめ合って微笑み合った。そして、意地悪そうな視線を俺に向けてくる。


「悪いけどわたし達」

「お互いの家で富士見くんが何をしたのか。大体共有しているわ」

「はい!?」


 つまりそれって……あんなことやこんなことしたのも筒抜けってことで……というか、この二人の場合、主にその部分を中心にしか共有してないということで……


「それって……つまり……」


 俺が悟ったのを察すると、二人ははぁっと軽いため息を吐いた。


「そうつまり」

「どっちの身体が良かったのってこと!」

「へ!? そっち!?」


 身体の物理的な癒しってこと!?


「当たり前じゃない。普通男なら癒しって言ったら女の身体でしょ?」

「いや……癒しって言ったらそっちの意味じゃなくてリラックス効果とかそっちの意味で捉えるでしょ!?」

「まだまだ富士見くんは子供のようね。大人の癒しは、物的な女性の魅力で決まるのよ!」

「いやいや、もっとあるでしょ癒し!」


 日本そんな癒しがない国じゃないと思うけど!?

 というか……


「なんで二人とも対決してたのにそんな仲良くなってんすか!?」

「そんなことないわ」

「これは富士見くんの情報共有よ。対戦結果をレビューしてシェアリングするのは常識よ」

「いや、何処の常識それ!?」


 何やってんだこの二人は……


 そんなことを思っていると二人が詰め寄ってくる。


「んで?」

「本当の理由は何かなぁ? 富士見くん?」


 二人とも眉がヒクヒクと引きつっている。あっ、ダメだこれ。そういう観点で勝敗付けてあげないと、妥協してくれないやつだ。


 俺は二人の身体を交互に見つめる。


 制服越しから瑠香の身体を見つめて……あの風呂場での裸体、そして胸を揉みしだいた時のことを思い出す。


 正直に言えば瑠香の身体も俺にはもったいないくらい艶めかして素敵な身体だ。

 柔らかい胸の弾力、ふわっとした女の子の香り、そして甘い吐息……何をとっても同学年でこれほどのポテンシャルを持った奴はそうそういないだろう。

 だが、今回は対戦相手が悪かった。


 俺は視線をスライドさせて穂波さんの身体を見る。

 そして今度は、穂波さんのお風呂場でのピッチピチスク水姿を思い出す。


 あの破壊力抜群の群を抜いた弾力と柔らかさを備えたおっぱい。そして、密着した時に伝わる身体の柔らかさと、大人の女性の香り、さらにはエロくて甘い甘美的な吐息……

 うん、ダメだ。どれを思い出してもエロい。


 だから、俺は二人を傷つけないように慎重に言葉を選びながらしどろもどろに答える。


「そ……そのぉ……瑠香は俺には勿体ないくらいの、凄いいやらしい身体付きで、揉み心地も凄い良くて……でも、先生のおっぱいが最高すぎて……」


 最後に残酷なまでの本音がこぼれ出てしまった。やっぱり穂波さんのおっぱいには勝てません。


「つまりは、私の胸が勝利を呼び込んだといっても過言ではないわね」


 そう言って胸を張る穂波さん。


「ぐぬぬぬ……」


 悔しそうに自分の胸を触りながら穂波さんの胸を見比べる瑠香。

 そして、耐えられなかったのか胸を押さえたまま、目を瞑りながら階段の入り口の方へと走っていく。


 だが、瑠香は途中で立ち止まり振り返ったかと思うと、左腕で自分の胸を乗せるようにしながら右手を突き刺して指さした。


「覚えてなさい! 菅沢穂波! 絶対にあんたより恭太に相応しい胸に成長してやるんだから!」


 そう酷い捨て台詞を言い残して、今度そこ瑠香は階段を下りて行った。


「あ……あはははは……」


 俺が苦笑していると、俺の隣で穂波さんが顎に手を置きながら首を傾げる。


「まるで負けヒロインのセリフよね」

「あんたが言うかそれ!?」


 まあ何がともあれ、俺は穂波さんと同居生活を継続することが無事決まったのだった。

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