02 「セラエノ断章の読み手」
少年ーディーンが目当ての魔人の名を告げると魔獣の声が怒りに泡立つような波動を帯びた。
「お前⋯⋯、お頭に怪我をさせた⋯⋯やつ。⋯⋯許さない。親分に近づく⋯⋯許さない。」
交渉は終わり、少年は敵とみなされたのだ。もう一度、砂が噴き上がる。ただし、敵でなければただの食糧にすぎないのもこの惑星を支配する摂理だ。少年は口に入った砂を不快そうに吐き出してから言った。
「おい、髪に砂がついたじゃないか。砂漠じゃシャンプーはできないんだぞ!」
少年は水の貴重な「砂漠あるある」を口走ると、背中に背負った刀の柄に手をかけ、跳躍する。重力制御装置がついたブーツのため、常人では到底飛べない高さへと飛んだ。
刀が抜かれる。それは月明かりを浴びて妖しく光を放つ。少年は魔獣と距離を置いて着地するとそれを構えた。その刀身は僅か60cmほどの長さだ。その柄は燻した金色の皮がまかれていたが、その柄尻には大きな宝玉がはめ込まれていた。
砂柱から現れた魔獣の尾の部分が少年に襲いかかる。少年は手にした刀でそれを受ける。彼の手にはめられた重力制御グローブで多少の質量攻撃では効かないのだ。受け切った後、逆にその尾に切りつける。濃緑に濁り切った体液が飛び散り、少年の顔にも飛沫がついた。少年はそれを親指の腹で撫で取ると、信じられないことにそれを口にした。
「くそ不味いな。」
そして、ありきたりすぎる感想を述べた。
「その剣⋯⋯
魔獣が非難する様な口調で述べる。
「ああ。俺の⋯⋯名は。」
少年が名乗る前にもう一度、今度は大きく開いた口で彼を飲み込もうと襲いかかった。少年は何とかそれを避けると援護を呼ぶ。
「ベル、
いきなり、サイドカーの蓋が跳ね上がる。ゆっくりと小さな人影が立ち上がる。
幼女だ。
およそ6歳くらいの女児だ。ジェットコースターに乗れるまでは行かない身の丈。身長の割にそれほど肉付きは良くない。ほっそりとしたシルエットだ。グレーの生命維持バイタルスーツの上着の下に黒いティーシャツ、下はスパッツを履き、その上にレースのフリルのついた黒いスカートを巻いていた。
彼女は肩まで伸ばした銀髪。ややプラチナブロンドに近い風合いだ。眼は凍る様なアイスブルー。まるで高名な人形師によって彫り上げられたかのような整った顔立ちは、色白というよりは白皙と言えるほど白い。
彼女は無言で舞い上がり、まるで蝶のように飛び回る。銀髪が月明かりに濡れるような光を放つ。その手にある小さなグローブから光の線が溢れる。
少年めがけて再び突撃しようとしていた魔獣ー
彼女が手にしていたのは「魔糸」。それは光る金属の糸、グラヴィティ・バインダーである。それは蜘蛛の邪神アトラク=ナクアから生じる糸と同じ成分で構成されており、この物質界の常識を超えた強度をもっていた。
「卑怯⋯⋯者⋯⋯。『銀糸の織り⋯⋯手』も一緒。」
魔獣の言いがかりに少年はニヤリと笑う。
「⋯⋯かもな。」
少年の手にした刀がいきなり巨大化し、大きな鎌の形をとる。
「⋯⋯その剣⋯⋯。お…もいだした……。魔剣『ガラティーン』。」
「ベル、セラエノ
「OK。
少年は指を折って数を数える。そして、もうう一度飛翔すると上から6番目の魔獣の節に鎌をあてがう。それはまるでプディングに包丁を入れるようにスッと入っていく。
「そう、俺が
魔獣は心臓を切り裂かれると、空気を揺るがすような咆哮をあげると、地響きと砂埃とともに倒れた。魔獣からでるおびただしい体液が砂を汚していく。少年は倒れた魔獣の傷口から出た宝玉のように光る石を拾い上げるとズボンの蓋つきのポケットにそれをしまった。それは「魔結晶」と呼ばれる石で、これを摘出しないと魔獣は再び再生を果たすのだ。
「これでよし。」
魔獣を仕留めあげたことを確認するとサラは少年―舜―のもとに文字通り飛んで来る。そして、舜の腕にお姫様抱っこの形で受け止められると目を閉じた。彼女から女性の影が抜ける。
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