11 「いつかまた巡り逢えたら」
土星の猫たちは地上の猫たちに伴われて拝殿へと進んで行き、再びバスト神の崇拝者になることを誓った。バストもそれを受け入れた。
「新たなる崇拝者たちに、バスト神のご加護を!」
マルゴーが
彼らには崇拝者の証として、バスト神の憑代となる神像を一体、土星に持ち帰ることが許されたのだ。これで彼らもいつでもバスト神の加護を受けることができるだろう。
リングが舜に近づいてきた。
「色々ありがとうニャン。お世話になったニャン。故郷に帰ったらみんなで神殿を建てるにゃん。落ち着いたらまた遊びに来るにゃん。」
リングは舜に自分の『毛』をわたし、それを飲み込むように勧めた。
「ディーンさんはボクの遺伝情報を進呈するにゃ。身を鉱石で覆う力にゃ。宇宙空間でも宇宙服無しで生きていけて便利にゃ。」
舜は「鉱石の鎧猫」の権能を手に入れた。
宇宙空間を自由に移動する魔獣「風の一族」の基本魔法の一形態である。
「
いちばん喜んでいたのはベルであった。ただ、試してみたいとは思えなかったが。
地上の猫たちは月から去っていく「土星からの猫」たちを見送った。
そして、地上の猫たちも月を去り、ウルタールの街へと帰還していったのである。
舜はサラとともにアタルの元を訪れ、経緯と結果を報告した。老いた神官は何度も頷きながら耳を傾けていた。
「ありがとう。ありがとう、舜。これでここの猫たちにもしばしの平和が訪れることでしょう。少なくとも私の命の日が終わるまでは、もはや悲しい光景を見なくて済むことでしょう。」
老いた神官は顔をしわくちゃにしながら言った。確かにこの人は猫を愛し、猫に愛された方だな。舜はそう思った。アタルは話を続けた。
「バスト神からもお礼を伝えるよう言われております。あなたを崇拝者と認め、必要な時にはサラ様の身体を憑代に力を貸すであろうとの仰せです。さて、あなたはこの幻夢境に何か持ち込みたいものはありますか?
バスト神からドリームクリスタライザーの使用を許されています。」
ドリームクリスタライザーは
やがてアヴェンジャーが神殿の門前にその姿を現した。そう、父の仇を討つのに、このマシンよりふさわしい乗り物はないのだ。
舜はマルゴーの元を訪れた。約束通り、シャンタク鳥に乗せてもらうためである。
「もちろん、約束は覚えているわよ。でも、その前に戦勝祝賀会ね。」
その晩、オスカーやジンジャー、ルナも交え神殿で大いに盛り上がった。戦いの緊張から解かれると蓄積された疲労感が噴出し、みな泥のように眠りについた。
「ディーン。……ディーン。」
夜中、身体を揺り動かされ、舜が目を開けるとそこにはマルゴーの顔があった。
「どうしたの?」
マルゴーはそのまま舜の上に覆いかぶさり舜の顔を抱きしめると耳元で囁く。
「祝賀会の二次会をしましょ。私の部屋で。」
舜の分身はその言葉だけで漲ってしまった。疲れているのに。いや、疲れているからこそか。舜は起き上がるとお姫様抱っこでマルゴーを部屋まで連れて行き、ベッドに横たえる。
「ねえ。私も二人きりの時はあなたのこと、『舜』と呼んでもいいかしら?」
舜は黙って頷くとそのまま口づけをかわす。そして二人きりの「二次会」に明け方まで耽ることになった。
舜が自分の部屋に戻ったのはすでにだいぶ日が高くなっていて、サラも起きていてかなり不機嫌モードになっていた。
「ごめんね、サラ。マルゴーとンガイの森の生き方について相談してたんだ。」
「しゅん←」
舜の言い訳にサラは久しぶりにぷいっとそっぽを向く。ごめんごめんと謝る舜にベルがさもいいことを思いついたかのように言った。
「そうです。舜に『罰ゲーム』です。無断外泊のバツとして一週間『猫語』で喋っていただきます。」
「ちょっとベル、それはつらいニャン。」
以後、この罰ゲームが恒例になるとは舜はこの時予想だにしていなかったのだ。
舜たちがウルタールを去る日がやってきた。見送りに来た三匹の猫たちはひとしきり泣いてからであった。
「オスカー、ジンジャー、ルナ、世話になったな。」
「ありがとニャン、ディーン。ぼくは今でも戦いは嫌いだニャン。でも、戦うべきところで逃げることはしニャい、そう誓ったニャン。」
すっかり精悍な目つきになったオスカーの頭をなでる。
「ああ、オスカーならできるニャ。」
「俺もりっぱニャ夢猫族を目指すニャン。」
舜はジンジャーの手をとり肉球と握手する。
「ああ、ジンジャーもがんばれにゃ。」
「いつか、スフィアに転生したら私のことを飼ってね。」
ルナがおねだりする。
「ああ、ニャかニャかの難しい確率だけどニャン。」
舜はそののどを撫でてやる。
アヴェンジャーは走りだした。背中にサラを乗せ、サイドカーにマルゴーを乗せている。行き先はレン高原。シャンタク鳥が棲みつく地域だ。
その先は「ンガイの森」。二人の両親を奪った仇敵、チャウグナー=フォウンの根城である。
(つづく)
同じころ、小雪が乗ったトレーラーは故郷のキャラバンを目指していた。
休憩に立ち寄った街で布にくるまれ、箱に捨てられていた仔猫をみつけたのだ。
「かわいそうに。こんな小さい猫をすてるなんて。無責任なやつだな。」
小雪が布を取ると甲高い声でみゃあみゃあと泣き、母の乳房を求めて手をもがいている。
「よしよし、お姉ちゃんがミルクをやるからな。」
トレーラーに連れて帰ると相棒の少女ケリーが怪訝そうな顔で尋ねる。
「どうしたんすか?その猫。」
「かわいそうに棄てられてたんだよ。人工乳もらうぞ。」
幸か不幸かこの世界には乳牛は少なく、土民たちは工場で生産された人工乳を飲む。決して旨くはないが猫にやっても毒にはならない。
腹がいっぱいになったのかおとなしくなる。尻を濡れティッシュでふいて排便を促してやった。
「ああ、こいつオスだな。毛並みもいいな。」
白いペルシャ猫である。ケリーが顔を覗き込んだ。
「なんかふてぶてしい顔してますね。名前はどうするんですか?」
小雪は少し考えた。
「そうだ、『
ケリーも応じた。
「いいっスねー。そうだ!なら『
「よし、それに決まりだ。まあ長いから『バロン』だけどな。」
小雪は実家のキャラバンで飼ってもらうつもりでいた。こうして、ひょんなことから8回目の輪廻転生を果たした「クロウ」と舜が再会するのはそう遠い先ではないはずかもしれない。
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