03 「怪鳥に乗って」
「ドリーム・クリスタライザー」、直訳すれば「夢の結晶化装置」となるだろう。この遺物レリックによってアヴェンジャーを幻夢境に出現させることができた。父テラの遺した魂というべきこの重力制御式バイクこそ、彼の仇を討つためには必要なのだ。血の繋がらない舜にとって、サラそしてテラやユリアとの家族の絆の象徴でもある。
幼い頃、舜はサイドカーに乗せられ、魔獣狩りへ伴われた。ユリアの亡き後はサラを背負って乗った。今は、そのサイドカーに座っているのはサラである。
月の神殿を離れた一行は幻夢境のレン高原という場所まで行く。そこがシャンタク鳥の聖域なのだ。マルゴーの説明によると、シャンタク鳥は象以上にとてつもなく大きな体を持っている。そして、曲がりくねった頸に繫がる頭部は馬に似た形をしている。全身には羽毛の代わりに鱗が生えている。そして皮膜が張られたコウモリのような翼で空を飛ぶのだ。
また自らは言葉を話せないものの、人間の言葉を完全に理解するという。
しかし、マルゴーの召喚に答えた個体はその説明とは全く異なっていた。とてつもなく巨大だったのだ。像どころではない。お台場の1/1スケールガンダムくらいはあるに違いない。
「彼が始祖鳥クームヤーガよ。大丈夫。お腹がよほど空いていない限り人間を食べたりはしないわ。」
「よさないか、マルゴー。人間が怯えているではないか。安心して欲しい、坊や。私は人間を食べたりしないよ、必要以上にはね。」
喋った。言葉を話せないと言ったばかりなのに。しかも人を食うとか食わないとか。まさに人を食った話ぶりではないか。
「だから始祖鳥は別よ。この惑星に住むシャンタク鳥の生みの親、と言えば分かりいいかしら。」
マルゴーはウインクしてから舜に続ける。
「クームヤーガ。私たちをンガイの森まで運んで欲しいの。頼めるかしら?」
クームヤーガはこちらをじろりと見る。そして愉快そうに笑う。どうもこちらをからかっているようだ。
「いいだろう。他でもない、マルゴーの立っての願いとあっては無碍にもできないね。
その機械ごと運べばいいのかな。運べるのか、重そうだが。」
アヴェンジャーを見てまるで肩をすくめるような動作にマルゴーも笑う。
「いいえ、これは重力制御式よ。重さはあって無いようなものね。私たちが乗るゴンドラ程度に思って欲しいわ。」
シャンタク鳥は大きさはともあれ「禍々しいペガサス」と言った感じである。
舜はサラを背負い、サイドカーにマルゴーを乗せて運ばれる。重力制御式だからといって空も飛べる訳ではない。アヴェンジャーのような地上で使うことを想定されたバイクや自動車は「
ふわっとバイクが浮上する。バイクのエンジンに当たる反重力発生装置ジェネレーターが稼働しているので重さは無いはずだ。
やがて幻夢境の紫色の空へと飛び立つ。飛び立った丘ははるか眼下に小さくなっていく。
「しゅん⤵︎」
サラがおっかなびっくり下の風景を見る。飛空艇に乗ったこっとの無いサラにとっては初めて見る光景なのだろう。緊張しているのか身体がこわばっている。
やがて金属製の巨大な門が天空に出現する。きっとあれが現実世界への、そして、目指した場所への扉なのだ。
門を通過すると、やはり現実世界も夕暮れ時である。目の前に広がった森。茜色に染まった空のせいで真っ黒に見える。樹々の上を巣に戻る鳥たちが飛び交っている。
「ンガイの森⋯⋯」
舜が呟くとサラが後ろから頬を寄せる。
森の真ん中に石畳が引かれた円形の広場があった。どうやらそこに降ろしてくれるのだろう。舜はスロットルを操りながらバイクが地面に激突しないように調整する。地表につくと、アヴェンジャーを吊るしていたワイアーの金具が外れた。
シャンタク鳥は着陸せず、上空を二度三度旋回するとそのまま帰って行った。
「さあ着いたわよ。ここが地獄の一丁目ね。」
マルゴーが腰に手を当て不敵な笑みを浮かべた。
広場の中央には石版があり、古代エジプトの
古代ファラオの名のように
「それが『ニャルラトホテプ 』、この森の主人の名。そして、ここの民の崇敬を集める神の名よ。これはニャルラトホテプ を賛美する碑文ね。」
ニャルラトホテプ 。この宇宙の創造神アザトースから生まれ出た邪神である。正確には自分に叛逆したアザトースを罰するためにGODがその身体と権能を分解したカケラの一つである。
ここでこの物語における魔物の分類について簡単に説明する。
アザトースの引き裂かれた権能を持ったものを邪神、という。邪神が自分の力を裂き与えた魔物も邪神である。
邪神の権能をコピーして生み出された魔物が魔神である。邪神より力は劣る。
邪神や魔神が自分に仕えさせるために生み出したり進化させたりした生物を魔獣。その中で知能が高く人間の形を取れるのが魔人である。魔獣や魔人は「奉仕種族」と呼ばれることもある。
そしてアザトースが支配するこの世界以外から来た神性を蕃神(外なる神)という。舜に水の刻印を与えたノーデンスはここに含まれる。
さて、ニャルラトホテプ は邪神であり、とりわけアザトースの「知力」の一部を引き裂かれて生まれた存在である。彼はアザトースを完全なる存在に戻すため、この宇宙を股にかけて暗躍しているのだ。しかし、もう後には引けない。
「そして、こうすると、玄関が開くわ。」
マルゴーがカルトゥーシュをなぞると石畳の一部がゆっくりと跳ね上がった。
そこには地下へと続く階段が続いていたのだ。
「また階段か⋯⋯。」
舜がウンザリしたような声をあげた。ただ今回はアヴェンジャーで下る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます