04 「事件は会議室で起きているんじゃない!」

惑星スフィアには14基の軌道エレベータがある。これは500年以上前に地球からやってきた移民船が静止軌道上にとどまり、そこからこの惑星をテラフォーミングしたことに由来する。


その移民船を扱った乗組員クルー、そしてテラフォーミングに携わった技術者スタッフたちの子孫は今でもここに居を構え、貴族階級として地上を支配しているのだ。


その組織がEDENと呼ばれている。

Enterprize of Developer to Earth for Nobility (貴種のための地球開発事業)を略したものだが聖書に書かれた「始まりの楽園」エデンの園を意識していたことは間違いない。


彼らはなぜ地上に降りないのか。その理由はそれほど難しく無い。まず、地上には魔物がうようよしているためである。そして、惑星外からの来訪者と接するためである。


例えば舜の所属するシンジケート、ダイラス=リーンの元締めナイジェル・ジェノスタインが所属する惑星間通商国家フェニキア連邦である。


彼らがもたらす最新鋭の文明、科学技術をいち早く享受するためには宇宙港にいるのがいちばんなのだ。そして、取引相手によって派閥が形成されて行った。


その中でも最大の会員数を誇るのが「星の智慧派」、「銀の黄昏教団」、「黄の符号兄弟団」という3つの派閥である。科学者の団体に「セクト」とか「教団カルト」と呼び習わすのは互いに侮蔑しあって呼んでいたものがいつの間にか定着してしまったところにある。


また、宗教を求める土民に対してコントロール不能とならない程度の宗教を与えるためでもあった。


会議が好きな人間というのは得てして組織では上の人間であることが多い。部下としてはせっかく乗ってきた仕事に対する意欲を削がれるだけの無駄な時間と感じることが多いのだ。


「いや、私も好きではないね。ランチタイムにさっさと済ます方が気楽でいい。」

マイケル・マウントバッテンは自分と繋がりの深いカルト、星の智慧派の会合に呼ばれたのだ。


正確には「自由意志会フリーウィル」という団体である。主催するのはゴードン・チェンバレン博士であった。


その会議では「ンガイの森」と呼ばれるエリアに舜が侵入を果たしたことが報告される。もちろん、それはマルゴーを通してマウントバッテンからリークされた情報だ。


そこを守護する「血の教団」は「星の智慧派」の下部組織でもある。ただ、あまり評判の良いものではなかった。クトゥルフの復活に必要な人柱の数は揃った。あとはその封印を解く刻印である。刻印は邪神にしか宿らない。「地の刻印」は既にある。「水の刻印」はクトゥルフが持っている。


必要とするのは残る「火」と「風」の刻印だ。今、この惑星にいる「火の刻印」を持つ邪神は3柱。ヴォルヴァドスとクトゥグア、そしてアフーム=ザーである。この中で最も手に入れやすいのが、まだ封印を解かれていないアフーム=ザーであった。


「風の刻印」は「黄衣の王」とも呼ばれるハスター と呼ばれる神格が持っている。彼はクトゥルフ復活の阻止を条件にGODによる封印を免れており、その強力な眷属と共にカルコサと呼ばれる地に宮殿を構えているのだ。


「星の智慧派」は「血の教団」を用いてそれを探していたのだが、その遣り方が極めて荒かったのである。アフーム=ザーは人間の血の中に封印されていたため、邪神の遺伝子を宿した人間を攫い、殺していたのだ。無論、彼らが奉じる魔神チャウグナー=フォウンは人の生き血を糧とするため実益も兼ねていたのだ。領民は領主の財産でもあるため、派手な殺戮を繰り返す教団について星の智慧派に貴族たちから多くの苦情が寄せられていたのだ。


「では、今がチャンスということになりますな。」

マウントバッテンの発言に会議のメンバーが顔を上げる。彼は立ち上がると言った。

「血の教団の手配書通り、このディーン・サザーランド こと宝井舜介=ガウエインに二つの刻印があるのであれば、これを捕らえる好機であることでしょう。そして、この機に乗じて、『血の教団』の力を削いでおくことも可能なはずです。」


確かに彼の見立ては正鵠を射ていた。恐らく、ここまで戦闘経験を重ねている勢力をどの貴族も持ってはいない。強すぎる番犬はやがて主人にすら牙を剥くだろう。


しかし、鼠の会合ではないが、だれがその『猫の首』に鈴をつけるのだろうか、という問題が残る。そして、それこそがマウントバッテンがこの会議に招聘された理由でもあった。議長が口を開いた。


「エクセレント4を我々にお貸しいただきたい。」


予想通りの要請であった。

「それは吝かではありません。ただ、彼らだけでは困難でしょう。それには皆さんの本気度を見せていただく必要があります。お判りですかな?」


「了解しました。我々もデルタ=グリーンを投入しましょう。」

議場がざわつく。デルタ=グリーン。それは星の智慧派が持つ精鋭部隊の名であるからだ。


「よろしいのですか?」

執事はマウントバッテンに確認する。

「チャウグナー=フォウンはもとより我が眷属ではない。あの少年の方が御しやすいだろう。今のところはね。もしかするとその見立ては甘いかもしれないがね。」

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