11 「少女だった私へ。」
長い、長い夢を見ていたのだろうか。ソフィーは自分が海の底に沈んでいることに気づく。しかし、これは夢に違いない。息も苦しくないからだ。水深は20mほどだろうか。水面に太陽の影が揺らめいている。
すると、「天井」である水面が徐々に低くなっていく。それがついに底をつき、ソフィーは真っ白な光に包まれる。爽やかな潮風が吹き抜けのを感じた。
ソフィーが目を覚ますと既に拘束具は解かれていた。監禁に加わっていたスタッフたちは彼女に平謝りに謝る。夢の影響が全くなくなっていることをすぐに理解できた。
「全部、終わったのね⋯⋯。」
ソフィーの心は清々しさで満ち溢れていた。
舜とリッチーもソフィーを救出すべく病室を飛び出すとまるで何事もなかったかのようにスタッフたちが日常の業務に携わっていた。
「どうやらソフィー殿は無事のようでござるな。」
リッチーのつぶやきに舜も頷く。
町からは瘴気が抜けたかのようになっていた。人々は長く見ていた夢から醒めたように立ち尽くした。争い、貪っていた人々はそれぞれ家に戻って行った。教会に詰めかけていた人々も一体自分たちがなぜここにいるのかわからない、と言った表情を浮かべながら家路につく。誰もいなくなった教会には袈裟懸けに真っ二つに斬られた神像の上半身が床にうつ伏せに倒れていた。
「食堂で朝飯でも食うか。」
舜とサラ、小雪とリッチーは病院の食堂へ向かう。途中の売店で牛乳とサンドウイッチを買った。
「拙者は朝飯はご飯と決めておるのだが。」
不満を述べるリッチーに舜はおにぎりを渡した。
舜が財布を出そうとポケットをまさぐると
「ディーン。それが貴殿の『目的地』への鍵となるはずだ。」
リッチーが 突然言ったので舜は驚く。ンガイの森を目指していることを彼にも小雪にも話してはいなかったからだ。
「お主がチャウグナー=フォウンとその眷属たる『血の教団』の指名手配の対象であることは知っておる。行きたいのだろう?ヤツの根城、『ンガイの森』に。」
間違いなくジャックやイーサンと情報が共有されているのだろう。不思議そうな顔をする舜にリッチーは説明を続けた。
「彼の地は強力な結界で囲まれている。その入り口は
そう、だからこそグルーンは「夢魔」たりえたのだ。
正気に戻ったスタッフの土下座謝罪をなんとか宥めると、ソフィーは白衣を羽織り、食堂へと向かう。そこには舜もサラも、小雪もリッチーも、入院患者の子どもたちもいた。
「ディーン!」
ソフィーは舜に抱きつく。
「私、覚えているの。みんなが私のために戦ってくれたのね。ありがとう。本当にありがとう。約束を守ってくれて。」
「ああ。」
しかし、 感激はそう長くは続かなかった。この動乱のニュースはすでに報道されてしまい、ニュースに憤ったバトラー家が令嬢のソフィーを即座に迎えにきたからだ。そして、魔人グルーンを封印したと言うことでエクセレント4の大活躍が報じられ、リッチーたちは再び仮面を被ってインタビューに答えていた。
「すごいなぁ。いつの間にエクセレント4が来てたんだろう?」
本気で興奮している小雪に舜は種明かししてやる。
「リッチーさんがエクセレント4なんだってば。」
感激すると思っていたら小雪は笑い出す。
「嘘だあ。あんなボーっとしてる人がヒーローなわけないじゃん。あたいを担ごうたってそうは問屋が卸さないからね。」
「ディーン!」
ソフィーの出発の時、見送りに来た舜に手を振る。病院の玄関に乗り付けられた黒塗りの小型飛空艇に乗り込む前だった。ソフィーは舜のもとに駆け寄る。ソフィーは小雪と握手し、サラを抱きしめる。そしてディーンにも抱きつくと耳元で囁いた。
「ディーン、あの晩のことまで夢なんかじゃないよね?」
「ああ、ソフィー。夢の様ではあったけどね。」
「また、会えるかな?」
「ああ、きっとだ。いつかどこかで会えるよ。いや、会おう。」
「うん。」
そう言ってソフィーは舜の唇に自分の唇を重ねる。
「いつかきっと、私は私の力で歩ける女性になりたい。⋯⋯小雪さんみたいに。」
舜は例えが拙いと思った。
「あ、それだけはやめて。」
ソフィーは舜の頭をなでた。
「うふふ、そうね。」
ソフィーはそう言ってから笑顔で手を振ると飛空艇に乗り込んで行った。
「あっさりしたもんね。」
小雪が腰に手を当て上空へと浮上する飛空艇を見送る。
「そうでもないさ。俺は分かっているよ。あれがソフィーの『今の全力』だったのさ。」
ソフィーは小さくなって行く街並みを見て涙を流す。さよなら、私の少女時代。ここがソフィーが初めて自分の意思で住んだ街だ。私は少女に過ぎなかった。だからこうして実家へと帰らねばならない。だからこそ、私は大人の女性になる。甘い夢の囁きにたぶらかされるようなことがないような女性に。家に縛られて何も出来ずに立ち尽くすことがないような女性に。彼女は固く誓った。
町が元の暮らしに戻り、やっと小雪も仕事に戻ることができた。
「じゃあ、またな。」
去り際、小雪は舜を手招きする。彼女は不意をついて舜の唇を奪った。
「な⋯⋯どうしたんだよ。」
「いや、
「しゅん⬅︎」
目の前で舜とキスされて激オコのサラはぷいっとそっぽを向く。小雪はいつものようにサラの鼻をつまむと
「サラ、お肉食べられないとオッパイ大きくならねえぞ。」
そう言って去っていった。
「じゃあ俺たちも出ようか。」
「しゅん?」
サラは次はどこへ行くのか尋ねる。
「ダイラス=リーンの本部だ。そこからンガイの森へ行けるルートが開かれるんだとさ。この
そう、この時はまだ、かの半異次元世界「
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