第7章:「猫×猫大戦争!!【ウルタールの猫vs.土星からの猫】」

01 「幻夢境。猫の街ウルタールへ。」

リッチーは舜が所属するシンジケート、ダイラス=リーンの元締め、ナイジェル・ジェノスタインの助言を求めるよう勧めたのだ。

「ディーン、おそらく、貴殿の行きたい場所はその扉の向こうにあるはずでござる。ただ、いろいろ準備が必要な故、今一度ジェノスタイン卿に相談されるとよい。」


幻夢境ドリームランドかね?」

ナイジェルがため息混じりに言う。グルーンの魔結晶は殊の外高値がつけられた。とはいえ、テラから受け継いだ借金はまだまだ減ったとは言えなかった。


「実は私の故郷、ダイラス=リーンもそこにあるのだよ。そうそう、親父さんテラのバイクは持ってはいけないよ。あの世界は科学の進歩を嫌っているからね。いや、その言い方は正しくないな。科学の進歩を魔術の進歩に置き換えている世界なのだ。だから、見た目よりはるかに文化的な生活をしている。

できたらウルタールという町を訪ねてもらえないだろうか。そこは私の先祖の町でもあるのだよ。」


舜はナイジェルの助言に従って装備を整える。銃さえ持ってはいけないのだ。

次元の扉を開くと下り階段が続いていた。両脇に燭台の灯りが点っていた。舜はサラを背負うと二人は階段を下っていく。

「どこまで続いているのかしら?」

興味深そうに尋ねるベルに舜は顔を顰める。

「まさか帰りは、この階段を上るのか?いやだなあ。」


七十段ほど降ると洞窟に行き当たる。

そこには古代エジプトの壁画に描かれた神官のような姿をした二人の男がいた。それが幻夢境の入り口を司るナシュトとカマン=ターという名の神官であった。

「ようこそ、焔の洞窟へ。ここから先が幻夢境です。あなたのような『実体』を持つ方がいらっしゃるのはいつ以来でしょうか?」


二人の神官は舜とサラの手を握ると目を閉じ、ふむふむと頷いている。

「なるほど。よろしい。お通りください。あなたは蕃神ノーデンスの代行者でいらっしゃいますね?そして、可愛らしい邪神の眷属のお嬢さん。どうぞお通りください。」


「あの、お尋ねしたいのですが。」

舜は「ンガイの森」の在り処を尋ねる。しかし、カマン=ターによれば、その森自体はここではなく、惑星スフィアのあるのだという。ただ、強力な結界で守られているため、入り口だけがこの世界にあるのだというのだ。そして、ンガイの森は邪神ニャルラトホテプ の領地であるがため、その奉仕種族である「シャンタク鳥」に乗せてもらうしかないのだ。


「鳥に乗る⋯⋯のですか?」

何というファンタジー。舜は思わず聞き返す。ナシュトの顔はさも当然、と言わんばかりだ。

「ええ、『怪鳥』と呼ばれるくらい大きな鳥ですから、大人でも心配ありませんよ。あなたの世界でいうところの象くらいの大きさがありますから。」


ただ問題があって、そのシャンタク鳥の住処はこの幻夢境でも強力な魔獣ひしめく難所レン高原であるという。

「ですから、まず『月』に行ってください。」

最初、舜は聞き間違えたと思ったのだ。思わず聞き返すとカマン=ターは真顔で答える。

「ええ、月です。月にはニャルラトホテプ の奉仕種族である月棲獣ムーンビーストの領地がありますからね。そして、そこに行く方法は猫たちが知っています。ですからウルタールという町を目指すのが良いでしょう。」

「猫、ですか⋯⋯?」

思わず聞き返す。二人はやはり真顔で切り返す。

「ええ、猫です。」

そして真鍮の様な軽い金属で出来たカップをくれたのだ。

「これは水を生み出す魔法のカップです。お持ちください。」


「あっさり通したね。」

もっと厳しい詮議が待っていると思いきや、すぐに通行を許可されたことに舜はほっとしていた。

「まあ、あなたがた兄妹ほど『人間離れ』したのもそうはいないから。」

ベルの言葉に悪意の一欠片もないのだが、それは悪口以外のなにものでもない。


「やれやれ、いきなりファンタジー色が強くなったな。」

そうぼやく。ウルタールへの行き方は「魔法の森」を抜け、「レリオン」という町に出る。そして「スカイ河」という川沿いを下ったところにあるという。「ズーグ」という種族には気をつけるように、とのアドバイスを受けた。


「焔の洞窟」を抜け、さらに階段を700段降ると巨大な門が聳えたっていた。「深き眠りの門」と呼ばれ、ほとんどの人間は「精神体夢の中」でしか入ることはできない。そこを抜けると鬱蒼とした森が広がっていた。それが「魔法の森」である。


そこは曲がりくねった道が続き、道の両脇には幹がぐねぐねと曲がった樫の木が生えていた。そして不思議なことに森の中は明るかったのだ。それは地面ににはキノコが怪しげな光をたたえながら生えているのだ。樹の曲がりくねった幹を見ていると気分が悪くなりそうだ。


サイドカーだけでも持ってくれば良かった。そう思ったが、高次文明品は持ち込めないことになっているので仕方がない。サラはまだ幼く、それほど距離を歩けるわけではない。休み休み歩き続ける。あるいは舜が背負う。


水を生み出す魔法のカップのありがたみがわかる。

「しゅん⤵︎」

サラもお腹が空いてきたのだろう、足取りが重くなる。

キノコは生えているが、どう考えても怪しい。


「こんにちは。旅のお方。」

そこに「ネズミに似た生き物」が現れる。大きさはどぶネズミ程度の大きさである。ネズミと違うのは鼻の下に触手が生えていることと、尻尾が太くリスに近いともいえる。残念ながら「浦安の大ネズミ」とは似ても似つかない。


「旅のお方、よろしければ夕餉をご一緒しませんか。」

怪しい、思いながらもその気配が一匹ではないことに気づく。集団に囲まれているのだ。舜は招きを受け入れることにした。


彼らはズーグという種族である。強い好奇心を持つ種族で人間とも交渉を持つらしい。

「ええ、私どもも独自の言語を持っていますが、人間の言葉も解するものもおります。できればあなたがお住いの世界の話を聞かせてください。それが私どもの娯楽なのです。」


ズーグの村はたくさんの巣穴の出口が集まっていた。村の中央には大きな広場があり、沢山のズーグがいた。ズーグは焼いたキノコを勧める。舜はそれを口にしてベルに解析させる。安全と判断されたものだけをサラに食べさせる。

「しゅん⤴︎」

サラも空腹も合わさって美味しそうに食べている。


「どうぞ一献。」

1匹のズーグが舜のコップに白く濁った液体を入れる。何かと尋ねると「月の樹」から取れた実を発酵させた酒だという。結構強めの酒であった。

舜は主に自分の旅の話をする。魔獣や魔人を倒した話を主にする。それは自分の戦闘力を誇示することによってズーグが自分たちに害をもたらす気をおこさないように牽制するためでもあった。


やがて宴はお開きになり、二人は木陰で眠ることにした。

「舜、起きて。」

ベルに起こされる。理由を聞くとズーグたちが二人を食うつもりでいるのだという。ベルは彼らの言語を解析していて、彼らの会話に不穏当な言葉が増えていくのを感じていたのだ。


魔獣の気配が近づいてくる。

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