07 「追い詰められて」。
そう、テラは生死も行方も分からないユリアのために命をかけるべきではなく、ディーンとサラを守り、育てあげるために命を使うべきなのだ。
「いいかい、ディーン。私やテラに何かあったら真っ直ぐお逃げ。逃げるのは恥ずかしいことじゃない。もし恥ずかしいと思ったら『惑星を一周して敵の背を追っている』んだ、って思うんだ。命さえあれば何度でも
今回の作戦前、イライザはそう舜に言い聞かせたのだ。
足止めされたクルマから出てきたのは6人。運転手と血の教団の幹部、二人の護衛兵。象に似た頭をした魔人、そしてユリアであった。
テラはゴーサインを出す。イライザが
何度もシュミレートし、何度も演習を繰り返した通りの動きだ。
「ママがおうちに帰ってくるの?」
作戦前、テラの説明を聞くとサラは期待に胸を膨らませ、目を輝かせていた。ディーンが立派に母親替わりを務めてくれていた。それでも、本物のママには敵わないという残酷な現実。
イライザの撃ったスモーク弾によって視界は赤外線スコープだけが効く。人間の同乗者たちは息子たちが沈黙させた。
「ユリア!俺だ!」
テラはユリアを抱き抱える。あの時と変わらず軽く、そして重い。
「目標は奪還した。撤収する。ランデブーポイントまで全速転進せよ。」
成功を告げるテラの声が踊る。
「浮かれんじゃないよ。『家に着くまでが遠足』だからね!」
補足するイライザの言葉はきつかったが、ほっとした空気に包まれていた。
ランデブーポイントで全部隊が再合流を果たした。テラは意気揚々とユリアの手を取り、勝鬨を揚げた。
舜は背中からサラを下ろす。もう、この子を背負って戦う事も無いだろう。そんなホッとした想いが過ぎる。俺は母親替わりをしっかりと果たせたんだ。
サラの顔は興奮で赤くなり、その眼はこれまで見たことが無いほど輝いている。そうか、やはりこれまで母親がいなかったことが淋しかったのだろう。ディーンの中で誇らしくも寂しい気持ち。その時、これまでずっと張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れた。
「ママ!ママ!」
サラが初めて呼んだママ、という言葉。しかし、ユリアの目は虚ろなままであった。
「ユリア、ご覧、この娘がサラだよ。元気に育っているだろう?ディーンが随分と頑張ってくれたんだ。これからは家族4人で⋯⋯。ユリア?」
ユリアがテラにもたれかかる。
「ンぐあ!?」
テラの腹部に深々とナイフが突き立てられていたのだ。刺したのはユリアだったのだ。
テラの腹部から鮮血が流れ出る。テラが崩折れるとユリアは背中からもう一度さした。テラは痛みと絶望に顔を歪めるも、サラに叫び声を聞かせまいと必死に痛みをこらえる。
「パパ!」
絶叫するサラ。
「
そして、ユリアの背後に立っていたのは象頭人身の魔神、チャウグナー=フォウンだったのだ。
魔神はユリアの肩を抱く。
「バカめ、我をたばかることが叶うとでも本気で思うたか?この女の娘はどこにおる?それを我に渡せ。さもなくばお前ら全て殺してやる。見るも無惨にな。」
舜はサラを抱き上げるとイライザに言った。
「俺はアヴェンジャーで逃げます。間違いなく魔神の狙いはサラだ。副長はみんなを連れてキャラバンに戻ってください。俺も必ず帰ります。」
「ディーン!それはあたいが!」
小雪が声をかける。しかし、舜は制止を振りきるように言った。
「あとは頼みます!」
ディーンは一目散に走った。
息子の様に可愛がっていたディーンを危険な目に遭わせたくはない。しかし、
「逃げるのは恥ではない⋯⋯か。そういや、教えたのは私か。」
イライザはため息をつくように呟いた。
アヴェンジャーが発進すると魔神は空に浮かび二人を追い始める。
「母さん。ディーンが!」
小雪がディーンを追うように求めるがイライザは首を横に振る。
「撤収だよ。あたしがディーンなら同じ行動を取るだろうね。そして、今はキャラバンに戻って態勢を立て直す。引き揚げるよ。」
ディーン、死ぬんじゃ無いよ。イライザは小さな声でそう呟いた。
ディーンは逃げる。いつもは自分がおさまっていたサイドカーには、幼いサラが座っている。アヴェンジャーというバイクの由来は知らない。でも、この惑星のテクノロジーを超えていることは容易に想像がつく。
ディーンはキャラバンのメンバーと逆方向へ逃げたのだ。もちろん、それは魔神や血の教団に既に見破られていた。しかし、彼らにとって「サラ」以外の人間に興味はない。
それでもディーンは徐々に彼らの敷く包囲網へと誘い込まれて行った。銃撃する兵士をまきながら、逃げているつもりだった。しかし、ディーンの経験の不足を巧みに突かれていた。そして、ついに包囲網の真ん中に追い詰められた。
ディーンはアヴェンジャーを止め、ヘルメットを脱ぐ、そして、腰に佩いたガラティーンを抜いた。彼を追い詰めた魔神は言った。
「さあ小僧。お前には3つの選択肢がある。その娘を渡し、キャラバンへ帰る。その娘とともに我が陣営に降る。そして、ここで抗って死ぬ。さあ、どうする?」
ディーンは迷いなく言った。
「お前ら全員を返り討ちにする。そしてハッピーエンドだ!」
ディーンの答えに魔神はせせら嗤った。
「それはないなあ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます