06 「圧倒的な敵に挑むには」

「迎えに来たぜ、マルゴー。」

ジャック、イーサン、そしてリッチーである。彼らは小型の自動車に乗っていたのだ。イーサンの肩には先程凶弾を放ったランチャーが担がれていた。

「あら、珍しいわね。みんながお揃いなんて。」

マルゴーの口調はシニカルであったが。


「ディーン。おまえはついでな。」

「そりゃどうも。」


やがて、洞窟を抜けると再び外の森に出る。ンガイの森は一つの要塞となっているのだ。森の中に建物があった。


イーサンは呆れたように言う。

「ディーン。まさかおまえたった一人でチャウグナー=フォウンを倒すつもりでいたのかよ?」

舜は不敵な笑みを浮かべた。

「ああ。出来ないことはない。⋯⋯手こずるかもしれないけどね。」


「まあいい。今回、楽をしたければ俺たちと組め。」

そこからイーサンのレクチャーが始まった。


ンガイの森は一つの山からなる地下要塞なのだ。惑星スフィアのいずこかに位置しているが、周りを結界で囲まれ、入る事どころか見つけることすらできない。唯一の入り口は-幻夢境ドリームランドを経由しなければならないのだ。


幻夢境は現実世界の科学的な機械を持ち込むことができない。つまり、近代的な兵器で攻めることができないのだ。持ち込むためにはアヴェンジャーのようにドリームクリスタライザーによって「結晶化」させねばならないのだ。


だからこそ難攻不落であり、人間の力では攻略できないのだ。

上層はミリ=ニグリの居住区であり、今いる中間層は「血の教団」の軍事部門の本拠地が置かれている。


そして下層へさらに降ると教団の本部、そしてチャウグナー=フォウンの住まいがあるのだ。

「しかし、総大将がわざわざ出迎えに来るとは思わなかったでござる。」

リッチーが感慨深そうに言うとジャックが吐き捨てるように言う。

「ああ。あれは『偽物』だ。」



⋯⋯⋯およそ2年前


テラは気持ちが高揚していた。こんな気持ちになるのは本当に久しぶりだ。吸血鬼の親玉である「大真祖」チャウグナー=フォウンの一行キャラバンが近くに来ている、という情報をキャッチしたのだ。


ユリアに似た女性がその一行にいるのを見た、という情報も得た。チャウグナー=フォウンを崇拝する血の教団は一年を通して、彼らの神に捧げる人間を狩っているのだ。貴族が関係する団体であるため、キャラバンは手出しを禁じられていたが、自分の家族を奪われたなら話は別である。


あの時、ユリアとともに数名の若い男女が連れ去られており、この奪還作戦はテラだけではなくキャラバンの総意に基づいていたのだ。だからこそ皆の士気もきわめて高かった。


「ディーン、例の『魔剣』を持っていけ。」

テラの言葉に舜も頷く。赤児の舜を連れ出した「ケイトリン・ファラデイ」を通して渡された魔剣「ガラティーン」である。


「ガラティーン」とはアーサー王伝説の騎士、ガウェイン卿の愛剣の名であった。つまり、この惑星を統治する生体コンピュータ「キング・アーサー・システム」と深い関わりがあることを示唆しているのだろう。その刀身の金属は鉄でもなく、チタンといったものでもなく、分析不能なものであった。テラも使ってみたことがあったが、彼が普段使っているものとさほど変わるものでもなかった。


舜は腰に剣を佩く。それは背にまだ幼いサラを背負うためである。作戦は夜半、山間の隘路を進む『血の教団』の車列を上から襲撃するものだった。目的はただ一つ、ユリアの奪還のみであった。


発破ダイナマイトをかけて崖の一部を崩し、チャウグナー=フォウンとユリアが乗っていると思われる車の前後を塞ぐ。重力制御式であるため、脱出できないわけではないが、時間を稼ぐことはできるだろう。


キャラバンのメンバーは二手に分かれて血の教団の攻勢を防ぎ、テラと舜、そして副団長のイライザ・リビングストンとその娘の小雪がユリアの救出に当たることになっていた。


「恐らく⋯⋯いや、間違いなく罠だよ。テラ、やめておいた方がいい。」

イライザは忠告していた。テラとユリアから受け継がれサラの中に結実した邪神の魂を狙った血の教団側の仕掛けた罠である可能性が強いのだ。だからこそ、ユリアを目立つ様に連れ回しているのだ、と。


テラの目に迷いはなかった。

「もちろん分かっているさ。でもな、罠と分かっていてもなお、俺はユリアを取り戻さなければならないんだ。ユリアを生涯かけて守り通す。俺はそう誓ったんだ。己の誇りにかけて。」


知っていた。こういう男だったことを。テラはイライザの兄であるダマスカス・リビングストンの親友だった。そして、ダム(ダマスカスの愛称)はかつてこのキャラバンの団長エイブであった。ダムは魔獣からイライザを庇った傷がもとで命を落としたのだ。


知っていた。こういう男だったことを。テラはイライザの兄であるダマスカス・リビングストンの親友だった。そして、ダム(ダマスカスの愛称)はかつてこのキャラバンの団長エイブであった。ダムは魔獣からイライザを庇った傷がもとで命を落としたのだ。


自分は兄を犠牲にしてまで生きたいとは思わなかったし、その気持ちは今でも変わらない。だからユリアの気持ちも推し量れる。テラに無理させたくはないはずだ。


でも、兄の気持ちも理解できる。それは自分にも娘の小雪=ヘイガーがいるからだ。娘を守るためなら、自分は間違いなく兄と同じ道を選ぶだろう。

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