第2章:「最高にいかし(れ)たやつら【エクセレント4】」

01 「天空宮殿のパブにて」

落ち着いた静かな雰囲気の中、ジャズの生演奏だけが静かに響く。


天空都市。そう呼ぶのがふさわしいだろう。壁は一面の特殊強化ガラスになっており、そこから眼下に広がる青い惑星。同じように遠くには青い「月」が幻想的に光る。照明も仄暗くつけられているため、惑星の青い光がなお一層引き立って見えた。


 ここは地上からおよそ40kmほど上空にあるスペースコロニーの一角である。コロニーからは軌道エレベーターが垂直に降ろされており、地表にある大都市グロリアとつながっている。13ある天空宮殿の一つである。


 この絶景を拝めるこのラウンジは、貴族階級の中でも限られた層しか利用することのできない特別な場所にある。

そこには4人の男女。もう少し詳しく言えば3人の男性とひとりの女性が集められていた。そう、それが最近話題の「エクセレントフォー」であった。


「いい雰囲気ね。」

女は窓際からの景色を肴にカクテルのグラスを傾けた。

「ああ。マルゴー、君の瞳に乾杯。」

男がマルゴーと呼んだ女とグラスを軽くあわせる。「マルゴー・キザイア・メイスン」、それが女の名であった。

「あら、ありがとう、ジャック。」

女は妖艶な笑みを浮かべた。そのボディはモデル、いやそれ以上のプロポーションであり、まさに「芸術品」ともいうべきであった。身体にぴったりとフィットした漆黒の生命維持バイタルスーツがそれをいっそう引き立てていた。彼女はその上からシースルーのドレスを羽織っていた。


「いやあマルゴー、お前と二人きりじゃないのが実に残念だよ。」

ジャックと呼ばれた男は後ろからマルゴーを抱きかかえるように腕を回す。彼は髪を短髪にした精悍な男で、笑うといたずらっ子のような愛嬌がある顔をする。青と白のツートンカラーの生命維持バイタルスーツに赤いジャケットを羽織りネクタイをしている。

「あらジャック、お上手ね。」

「本心だよ、本心。」

ジャック・ライアン・スチール、それが彼の名である。エクセレント4のリーダーとみられているが、普段の行動はもっとも子供っぽく見える。


「そりゃお邪魔で悪うござんしたね。」

ソファーに深々と腰掛けた男がタバコをふかした。

「いやいや。お邪魔がいればいるほど燃え上がる、ってもんだ。」

そういうとマルゴーの胸をまさぐりはじめる。彼女の表情が曇る。

「気にしないでイーサン、私はそんなに安い女じゃなくてよ。」

マルゴーはジャックの手を抓る。ジャックはすぐに手を離した。

「あいたた。いいじゃないかよ。減るもんじゃなしに。むしろ俺がもんでこんなにりーっぱに育てたようなもんじゃねえの。」


「ふん。乳繰りあうなら他所でやれよ。」

イーサンは帽子を深々と被り直す。彼はあごひげを蓄えたダンディーな男で黒い生命維持バイタルスーツに黒いジャケットを着ていた。彼がテーブルに置かれたウヰスキーのグラスを傾けると氷の絡み合う乾いた音がする。「イーサン・ピースメイカー」、それが彼のなである。彼はジャックの相棒であり、ガンマンとしては超一流なのである。


「失礼つかまつる」

そこにもうひとりの男が進み出る。彼は白い生命維持バイタルスーツの上に和服に似たロングコートを着て腹には帯を締めている。

男はおもむろに刀を取り上げると鞘から白刃を引き抜き一閃させる。ピシッという音がすると小さな金属片が足元の赤い絨毯の上に落ちた。盗撮用の超小型ドローンである。ジャックが称賛の口笛をふく。

「また無益な殺生をしてしまった。」

「さすがリッチー。やれやれ、いいご趣味なこって。こんなモン飛ばして覗きなんざ、きっとお前のファンに違いないさ。」

マルゴーは眉を寄せる。

「いやよ。盗撮なんてファンじゃなくてストーカーじゃないの。」

「リッチー・クレイモア」、彼は凄腕の剣士なのだ。


「まあ、だれか俺たち、『なんちゃら4』が雁首揃えるって小耳に挟んだじゃないのか?それだけお偉いさんも気になるんだろうさ。」


イーサンが興味なさそうにもう一度腕を組んだ。

エクセレント4は誰が言い出したかは知らないが、報道する側がつけた通称である。彼らが名乗っているわけではないのだ。


「まあ、貴族連中も俺たちを矢面にたたせりゃいい、そう思ってんだろ?」

実際のところ彼らは4人で動くよりも単独行動が多く、記者会見の時にだけ一堂に会するのが常なのだ。

「だいたい、なんでマスクをかぶらにゃならんのかが分からん。」

記者会見の時には顔を隠すためヒーローのようなマスクをかぶるのだ。


「そりゃ面が割れたら仕事にならんだろうが。面が割れて得するなんざ、飲み屋でモテるだけだぜ。しかも女の子を『お持ち帰り』もできねえぞ。それでもいいのか、ジャック?」

イーサンが正論を言う。

「俺はモテたいんだよなあ。」


リッチーがジャックの話題を打ち切るように言った。

「で、俺たちを呼び出した張本人様は何処におられるのだ?」

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