06 「夜会への潜入」

舜とジャックはヘルハウンドに囲まれる。しかし今度のヘルハウンドは一味違った。バージョンアップされていたのだ。かまいたちのように風で攻撃ができるのだ。

スパっと音がして舜の後ろの壁に亀裂ができる。ジャックが意地の悪そうな笑みを浮かべる。

「どうするよ?」


「問題ないさ。『紅蓮』。」

舜が紅蓮を発動させると風の方がが避けた。なるほど、気流の変化は熱によって変えられてしまうのか。「風」魔法より「火」魔法の方が優位なのはそういう訳か。こいつ自分のことがよくわかっていやがる。

ジャックは満足げにうなずいた。


 舜はヘルハウンドをガラティーンで斬り倒し、浴びた返り血を舐めた。舜は「風の刃ウエントス」を習得した。


そして、ヘルハウンドの包囲から逃げたところで次に人造人間ホムンクルス人造人間ホムンクルス兵士に包囲される。二人はそこで投降した。


二人は銃とガラティーンを取り上げられる。

「ディーン。」

舜が振り向くとジャックは舜の肩を触った。

換骨奪胎トゥエンティフォー(24)。」

「!!!」

その時、舜は脱力感を感じた。「力が抜かれる」感覚だ。ジャックはいたずらっ子のように笑うと耳元でささやく。

「お前の『紅蓮』を借りるよ。代わりに俺の権能スキルを入れといたから、それ遠慮なく使って。」


ジャケットの下で確認できないが、旧神の印エルダーサインを奪われたようだ。

「マジかよ。」

イーサンにジャックの「悪さ」に気をつけろと言われてはいたが、このことだったのか。


二人は完全に拘束され、ビーニッヒ男爵の前に連れて来られる。

「ほほう、最近売り出し中のエクセレント4じゃありませんか。困りますね。大人の夜会に土足で入ってきてはいけませんよ。最近の若い者は親の躾がなっていませんね。」


「そりゃあそうだ。俺たちにゃあ親はいねえよ。だからこうして無茶ができる。逆にいえば親がいる子を攫っちまうお前の方が理解できねえな。」

ジャックの声は浮かべた笑顔とは裏腹に怒気をはらんでいた。

「ははは。面白い。生贄は幼体から育てたの方がいいのですよ。そう、この坊やくらいにね。ちょうどいいくらいに仕上がっているじゃないか。そうだ。今日はこの坊やを生贄にしようかな。」


「俺じゃなくてか?」

ジャックが尋ねる。

「お前はもう『塔が立ってる』からなあ。後で尻から魔結晶を抜いてやるから覚悟しておけ。」

男爵は高笑いした。ここでジャックが動いた。

「そいつはお断りだ。『紅蓮』。」


ジャックの周りに熱風が爆ぜる。ジャックはそれで自分の拘束を解くと、熱風に乗ってさらに上昇し、換気口から逃げ出したのだ。

「ばははーい!それじゃディーン、あとよろしくねえ。」

逃げやがった。どうする、舜は意識を集する。するとジャックの権能スキル起死回生デッドオアアライヴ」の限定版、「超回復」の情報が頭に流れこんで来た。舜|は大きく深呼吸ともため息とも取れる息をはく。

ここは腹をくくるしかないのだ。舜は生贄として磔台に付けられた。


「SM」という性癖があることは知っていた。人を痛めつけるのが大好きなサディストと人に痛めつけられることに快楽を感じるマゾヒスト。その両者がいることで成立するかなり高難度なプレイだ。


ここにはサディストが満ちている。そして、マゾヒストは一人もいない。

舜は鞭で打ち付けられる。声を上げれば喜ばれるのが解っているだけに声を出したくない。そう思っても鞭でうたれる度に呻き声を上げてしまう。


「だんだんよくなるわよ、坊や。」

スキンヘッドにマッチョな肉体を持つ絵に描いたようなサディストのおっさんである。マスカレードの仮面をつけ上半身裸。しかも女性物の水着にガーターベルト、そしてそこから下がった網タイツ。読者様の「こ◯亀」に出てなかったか な、というぼやきが聴こえてきそうだ。


鞭でうたれた舜の背中にミミズ腫れが走り、血が滲む。痛すぎて、感覚が麻痺してくる。ただ、快感には変わらない。

「やっぱ向いてねえわ。『起死回生デッドオアアライヴ』。」

舜の身体がみるみるうちに修復される。観客がどよめく。不老不死は須らく貴族の憧れであるからだ。


鞭を打っても打っても傷はみるみる塞がっていく。拷問役はすっかりうち疲れてしまった。


「これは愉快だ。」

男爵が笑う。ただ、舜にとっては、たとえ怪我は癒えても打たれる痛みがなくなるわけではないので少しも愉快ではない。


男爵は自分の脇に置いた槍を手に取ると舜の腹に突き刺した。洒落にならないほど腹部に痛みと熱を感じる。ただ、槍を引き抜くと傷口はみるみる塞がって行く。

とはいえ流れでた血液がたちどころに戻るわけではなく貧血のような感覚を覚える。


「趣味が悪いわね。」

やはりマスカレードのマスクで目を隠した美女が隣席の紳士に語りかける。マルゴー・キザイア・メイスンとマイケル・マウントバッテンであった。

「マルゴー、ここは『同好の士』しかいない、という設定なのだよ。しかも、彼は私を楽しませようと頑張っているのだよ。」

「そう?やっぱりあたしにとって美少年はいたぶるのではなく、愛でるものよ。」

「それは僕も同感だね。そう、ベッドでたっぷりと時間をかけてね。」

二人の不穏当な会話をよそに事態は進展する。


「そうだ『黒◯危機一発ゲーム』でもしようか。」

男爵の発言に会場が期待でざわめく。

「みなさん。ご覧のとおりこの少年は人智を超えた回復力があります。さぞ強力な魔獣の魔結晶が埋めこまれているに違いありません。」

会場に樽が運びこまれる。それには数十カ所のスリットが入っていた。


「皆さま、ここにこの短剣を刺し、また引き抜いてください。この樽は『アイアンメイデン』の原理を応用して作られております。さすが皆様、それだけでお分かりですな。

 当たりを引きますと少年が高く飛びます。当選者には豪華賞品を進呈いたします。」


「アイアンメイデン?」

マルゴーがマウントバッテンを見上げる。

「ああ、昔の拷問器具でね。棺桶の形をしているのだが中に刃がついているのだよ。蓋を閉めると中の人間に突き刺さるのさ。」

「それって死んじゃうわ。」

「それがよく計算してあって、急所を避ける角度で刺さるようになっているのさ。無論、最後は失血で死ぬのだがね。」


しかしあの少年はタフだな。マウントバッテンは感心して見ていた。まるでジャックの「起死回生」を見ているかのようである。

「そうか、なるほど。まるで、ではなかったのだな。」

マウントバッテンは一人で頷く。

「ねえ、あの子の肩、ほら。」

マルゴーは舜の旧神の印エルダーサインに気づいたようだ。

「あれが蕃神ノーデンスの代行者……? 例の宝井舜介=ガウェイン……なのね。やだ、ちょっと好みかも。」







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