04 「反転攻勢と新たな魔道書」
ジャックがイーサンを呼ぶ。
「イーサン、例のものは忘れてないよな?」
「ああ。」
「ディーンにそれを渡せ。」
舜は手榴弾のような小型のカプセルを渡される。
「これは?」
「開けてみろ。」
それを開けるとたった一粒にカプセルが収められている。何ですか?という問いにイーサンが答えた。
「ウィルバー・ウエイトリーの遺伝子情報だ。」
「なんですって!?」
舜が意味を聞き返す前にベルの方が声を上げた。ウィルバー・ウエイトリーとは地球における20世紀初頭、アメリカの寒村で生まれた女性魔術師の子供だ。邪神ヨグ=ソトースの落とし胤と言われている。
彼は魔術書を盗み出そうとアーカム市にあったミスカトニック大学の図書館に侵入したところ、番犬に噛み殺されたのだ。そして、司法解剖の時にshきっちりとした服装の下に隠されていたその身体は人間とは似てもにつかぬものであった。彼の身体の一部は同大学の附属図書館長のヘンリー・アーミテージによって標本化され、21世紀にはそのDNA情報が取り出された電子チップに保管されていたのだ。
「つまり時空を司る邪神ヨグ=ソトースの遺伝子情報が手に入るということでござるか。これだけでも立派な魔術書でござるな。」
リッチーの言葉に食い気味にベルが言葉を弾ませる。
「我がセラエノ図書館でも方々で探していたものです。いったい、こんなものをどうやって手に?」
ジャックが答える。
「まあ、バッテンのとっつぁんが寄こしたんだがな。さて、ディーン。俺たちと取引しようぜ。」
取引とはこの遺伝子カプセルを舜が取り入れ、ベルによってジャックとイーサン、そしてマルゴーが使う弾丸とリッチーの剣、マルゴーのナイフを最適化することである。
「いいか?これは双方にリスクがある。この遺伝子でお互いに強力過ぎる存在になってしまうことだ。ようはいつかお互いが敵になった時がめんどくさい、ってことな。まあ、ここは協力しあうしかないがな。」
ジャックの提案にベルが頷く。
「いいでしょう。」
舜はカプセルを飲み込む。するとすぐに膨大な遺伝子情報が脳内に流れ込む。それをベルが解析し、セラエノ図書館に量子転送し、そこから必要な情報をセラエノ断章に添付する。
「セラエノ図書館司書、ベルゼバブが宣言します。新たな魔道書『
銃弾はマルゴーの銃が32口径、ジャックが38口径、イーサンが44口径である。そして3人の持つナイフ、そしてリッチーの刀を『最適化』する。そしてできあがったものをリッチーに渡した。つまりリッチーの権能、『無限リロード」によって使い放題になるだろう。
「さあて、第二ラウンドといきますか。」
ジャックが立ち上がった。
「ディーンとイーサンがバディを組め。俺とリッチーがバディ。マルゴーは後詰だ。」
「了解。」
舜が突出するとイーサンのマグナムが火を噴く。
「無駄だ。効かぬわ。」
しかし、「兄弟」の身体に着弾すると、これまではじき飛ばしていたはずの弾丸がその肌を突き破り、黄色の体液が流れ出す。粘性の高いその体液はまるでマグマのようでもあった。
「ぐ……、なぜだ。」
その懐に舜が飛びこみ振り上げたその魔人の腕を刎ねあげた。
「なあに。これが新製品、『次元弾』よ。」
時空を司るヨグ=ソトースは「テレポーテション」の邪神でもある。つまりその弾丸は触れた部分を強制的にテレポートさせるのだ。「転移魔法」を逆手に取った攻撃である。つまり材質関係なく、物質である限り撃ち抜けるのだ。
「左様、たとえ『つまらぬもの』でも『もの』でさえあれば斬れるでござる。」
剣も同様で刃に触れた部分が転送されるのでなんでも斬れるのである。
リッチーはさらに逆袈裟懸けで魔人を斬ると胴体が切り裂かれ、頭を含む部分がずり落ちて行った。
「また無益な殺生をしてしまった。」
さらに舜もガラティーンで切り倒す。後ろから援護のためのイーサンの銃撃が恐ろしいほどに的確である。
残された「兄弟」のうち4体をリッチーが、2体を舜が倒した。
、
「残りは本体のみだ。」
玉座につめ寄るとハイゼンベルク侯爵は逃げ出した。
「さあ、魔神よ。あなたを封印する。」
舜の身体が封印の天使ウリエルに変化する。
「ほお、その身体⋯⋯。我に寄越せ⋯⋯。」
チャウグナー=フォウンが雄叫びを上げた。空気が震える。
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