02 「そして玉座の間へと」

星の精霊スターヴァンパイア」。ロマンチックな字面とは違い、かなりグロテスクな魔獣である。ベルによれば彼らは視覚は持っていないが温度変化や物音に非常に敏感だという。その能力は100m離れた生物の鼓動音ですら感知することが可能だという。


あのクスクスという人の忍び笑いのような鳴き声は触手から空気を吹き出している音ののようだ。

これは仲間内ののコミュニケーションに用いられると考えられているが、詳しいことはわかっていない。


ただわかっているのは体内の成分を変化させることで光を屈折させ、光学迷彩を行うことができる。ということだ。

5本の触手の先端には鋭い棘が備わり、その中は空洞になっており獲物の血を吸い上げることができる。


ただし血を吸うと分解されるまでの間は光学迷彩が行えず、姿が丸見えになってしまうという欠点も持つ。

普段は光学迷彩で身を隠して冬眠しており、獲物となる生物の接近を感知すると覚醒して活動を開始する。


なぜこんなところに?と思うがどうやら「番犬」として飼われているのだろう。床には干からびたミリ=ニグリ の死体があちらこちらに転がっている。餌として与えられたのだ。干からび具合からそこそこ日が経っている筈で、そろそろ次の食事が必要なのだろう。


そこに、いきなり獲物エサが5体もやってきたのだ。一斉に動きだす。重力生物だけあって全く音を立てない。

普通の人間ならいともたやすくやられるだろう。しかし、ここにいるのは常人ではない。


リッチーの手元が閃く。胴体を真っ二つにされた魔獣が転がった。

「また、無益な殺生をしてしまった。」

そして、すぐに構えを戻す。


舜も次々にガラティーンで魔獣たちを切り裂く。ただ、後ろからついてきたデルタ・グリーンの兵士たちの中には何人か犠牲者を出す。


「ナイトスコープを使え。」

イーサンが指示を飛ばす。彼らは落ち着いて攻撃を始める。赤外線を使えば光学迷彩など無力だ。舜たちは彼らに掃討を任せ、さらに下の階層を目指した。


階段を降りると、そこには見上げるほどの大男が待っていた。

「まだゴールじゃねえのかよ。」

イーサンが舌打ち混じりに言う。


上半身が裸で、身の丈は3mほどあるだろう。その肩には旧神のしるしエルダーサインがついていた。そしてその眼は一つしかない。サイクロプスと呼ばれる人造魔人だ。


「地の刻印か。」

ものスゴイ力で舜を殴りつける。ガラティーンで受けるとあまりの重さに床を滑るように後退する。

「ほう、これが噂に聞くイミテーションか。」

ジャックが言った。

「重力魔法に特化したやつだ。疾いし、強い。どうする?ディーン。」


「でも、所詮は人間の範囲なんでしょ?」

舜は澄ました表情のまま「水の刻印」を発動させる。サイクロプスは構えを取る。

「水脈。」

突然、サイクロプスが苦しみ始める。その苦しみ方は尋常ではなかった。地にはいつくばって咳き込む。口から水を吐き出す。サイクロプスはこちらに攻撃することが全くできず、ただ七転八倒であった。その後も苦しみ続け、最後はうつ伏せたまま動かなくなった。


「死んだのか?」

イーサンが尋ねる。それに応じてリッチーが首を切り落とす。

「すでに絶命しておる。」


「水脈は水を特定の場所に湧き上がらせる魔法なんだけど。やつの肺の中に水を湧かせ続けたってことさ。」

舜の説明に皆呆れたように首を振る。


「要は溺死した、ってことか。一番苦しい死に方だよな、確か。」

イーサンがぼやくとジャックは手を広げて首を振る。

「えぐいな。⋯⋯エグすぎる。」


「そうかなぁ。水を使った魔法では一番効率いいけどな。まあ単体相手じゃないと使いづらいのが難点だね。」


そこにベルが操るアヴェンジャーが到着する。サイドカーでサラは眠っていた。そしてマルゴーがシートに座っていた。


「これで役者はそろったようね。」

マルゴーの決め台詞にジャックが戯ける。

「そうさな。悲劇になるか、喜劇になるか。神のみぞ知る、ってやつかあ。」

イーサンが呆れたように加えた。

「神と言っても魔神だがな。」


そこにリッチーが珍しく口を挟んだ。

「いずれにしてもサラちゃんには幸せな結末ハッピーエンドを。」


もうすぐだ。俺たちの家族を奪った仇に復讐する時は間も無くだ。


そして、その階層を抜け階段を下ると大きな金属の扉がある。

それを開くと、玉座の間であった。そして、奥にある玉座にそれは確かに座していた。

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