第47話

「ナイト、アカツキ、美味しい?」

「わふ」

「ふご」


 俺たちは広場のベンチに座り、先ほど屋台で買った物を食べていた。

 買ったのは『チャージブル』という魔物の肉を使った串焼きで、味付けは塩と特製のタレである。


「うーん……美味しいねぇ。このチャージブルとやらは知らんけど、柔らかいし何よりタレが美味い!」


 ただ、商人ギルドで売った胡椒がすさまじい値段になったことからもやはり食べ物に胡椒を使うのは稀なようだ。

 この串焼きもこれはこれで美味しいのだが、スパイスが少し欲しい。

 それに塩は塩分とりすぎになるから、胡椒とかの香辛料で味にアクセントを加えれば塩の使用量を抑えることもできるだろう。

 とはいえ、この世界の食事は全然問題なく食べられそうだ。まあこの串焼きが美味しいだけかもしれないけど。


「さて、食べ終わったし、そろそろ冒険者ギルドに行こうか」

「ワン!」

「ブヒ!」


 途中街の人に道を聞きながら進んでいくと、剣と盾が描かれた看板のある建物に辿り着いた。


「ここかな?」


 冒険者ギルドって書いてあるわけじゃないけど、聞いた場所と看板から多分そうだろう。

 造りとしては商人ギルドと似たような建物だけど、中から少しお酒の匂いがするからもしかしたら食堂か何かも中でやってるのかもしれない。

 ウェスタンドアを開けて中に入ると、やはり酒場のような場所が入って右側にあり、何人かの男女がお酒らしきものを飲んで話している。

 正面には受付だと思われる場所があり、こちらも鎧や武器を持った人たちが何らかの手続きをしていた。

 左手には大きな掲示板があり、ビッシリと紙が貼りだされている。

 俺たちが入った瞬間、多くの視線を向けられたのを感じた。

 入口でぼーっとしてるのも邪魔なので、俺はさっさと空いている受付のところに移動した。

 受付の人は赤色の瞳に綺麗な金髪を一つにまとめ、制服と思われる茶色い服に身を包んでいる。


「あの、冒険者になりたいんですけど……」

「え? あ……は、はい! かしこまりました! ……では、こちらの用紙に記入をお願い致します」

「分かりました。あ、この子たちも何か登録しないといけなかったりしますか?」

「わふ」

「ふご」


 俺はナイトとアカツキを抱きかかえ、受付の人に見せる。

 受付の人は二人を見て少し驚いていたが、優しく笑った。


「いえ、登録は貴方様だけで大丈夫です」

「分かりました、ありがとうございます」


 渡されたのは、商人ギルドでも書いたのと似たものだった。

 しかし、冒険者という危険な仕事だからか、使える武器や魔法の属性などを書くようになっていた。

 ……魔法の属性? 魔法って想像力と魔力があれば大抵のことはできるんじゃないの?

 賢者さんの本には確かに想像力と魔力が大事と書いてあり、属性なんてことはとくに言及していなかった。

 だが、この用紙の項目を見たところ、魔法の属性というのは一般常識らしい。

 ああ……賢者さん自身が心配していた常識の齟齬だな。

 つまり、ここで全属性なんて書こうものなら大事になりそうだ。

 となると……無難なモノを書いておこう。

 とりあえず、水と火、そして風……かな。

 空間属性ってのがあるなら転移魔法が使えるからそれも該当するんだろうけど、それは全属性って書くのと同じくらい大事になりそうな気がする。

 ちなみに水、火、風を選んだのは目立たずに、それでいてよく使う魔法だからである。

 二度目とはいえ慣れない羽ペンで記入し終えると、俺は受付の人に紙を渡した。


「はい……って!? さ、三属性も魔法が使えるんですか?」

「そうですね。……何か変ですかね?」

「い、いえ! ただ、三属性はかなり珍しいので……コホン。武器は主に槍と剣で間違いないでしょうか?」

「はい、大丈夫です」


 使用頻度が高いのがその二つだからな。

 受付の人の確認に頷くと、彼女はコピー機のような見た目の妙な機械に渡した紙をセットした。

 そしてボタンを押した瞬間、紙が消え、鉄のプレートが出てくる。

 商人ギルドでは見なかったけど、同じ機械でギルドカードは造られたのかな?


「……はい、こちらがユウヤ様のギルドカードです。登録したばかりのユウヤ様は一番下のランク、F級からのスタートとなります。F級の方が受けられる依頼は、同じF級の依頼か一つ上のランク……つまりE級の依頼のみとなっております。また、ランクの昇格に関してですが、以来の達成状況やギルド内での態度などを含め、ギルドの審査のもと昇格となりますので、明確な数字などはございません。ここまでで何か質問はありますか?」

「えっと、ノルマ……必ず依頼を受けなきゃいけないとか、そんな規定はありますか?」

「いえ、それは特にありません。中には身分証やちょっとしたお小遣い稼ぎに依頼を受けるために冒険者ギルドに登録する方もいらっしゃいますので、依頼を受けるかどうかはご本人の判断にお任せしております」


 その説明を聞いて俺は安心した。

 これで依頼のノルマがあったなら、こまめに依頼を受けなきゃいけなかった。それは普通に観光したい俺としては面倒だ。


「では説明を続けますね。冒険者のランクですが、ユウヤ様のF級から順にE、D、C、B、A、S級とあります。ユウヤ様のF級はギルドカードが鉄製で、ランクが上がるごとにギルドカードの素材が変化します」


 なるほど……商人ギルドは星の数でランクを判断するみたいだけど、冒険者ギルドはカードの素材で判断するんだな。


「続いて依頼の説明です。採取系は依頼の数採取してもらうのは当たり前ですが、多く採ってきた場合は追加報酬もございます。ただし、群生地などを発見した場合、すべて採りきらないよう注意してください。すべて採ってしまうとその植物が生えなくなる可能性もあるので……」


 ふむ……いっぱい採取すればお金は多くもらえるけど、だからといって採り尽くすと問題になるわけか。気を付けよう。

 その後、討伐依頼は討伐証明の部位を提示する必要があるとか、基本的な情報を教えてもらう。


「さて……最後になりますが、ギルドは基本的に冒険者同士の争いに干渉いたしません。そのことを十分にご注意ください」

「え? あ、分かりました」


 冒険者同士の争い……喧嘩のことかね?

 よく分からないが、好き好んで争いたいとも思わないので素直にうなずいた。


「申し遅れましたが、私はエミリアと申します。長々と説明いたしましたが、我々はユウヤ様を歓迎いたします。これからよろしくお願いしますね」


 そういうと受付の人……エミリアさんは笑った。

 登録が済んだ俺は、依頼を受けるかは別にしてどんな依頼が貼りだされてるのか見てみることにした。


「へぇ! いろいろな種類があるんだなぁ」


 俺が受けられる範囲の依頼だと、街の人の手伝い系が多く、それ以上は俺も知らない魔物の討伐がほとんどだった。

 しばらく掲示板を眺めていると、突然声をかけられた。


「おい、お前」

「え?」


 後ろを振り向くと、真っ赤な顔をした強面の男性が立っていた。

 すごいお酒の匂い……相当酔ってるな。

 そんな男性の姿は、皮鎧らしき物を身に着け、腰には剣がさしてある。

 ただ、俺はそれよりその人の筋肉に驚いた。


「ここはお前みたいな野郎が――――」

「すごい筋肉だなぁ」

「あ?」


 男性は何か言ってたようだが、俺はそれを遮って思わず思ってることを口にしてしまった。


「あ、いえ……ずいぶん逞しい体つきなので、どんなふうに鍛えればそんな筋肉が付くのかなぁと」


 ダイエットのために頑張って筋トレしたけど、一向に筋肉が付く気配のなかった俺は純粋にそのトレーニング方法が気になった。

 すると男性はさっきまで不機嫌そうだったのが一転して、上機嫌になった。


「おう、お前さん分かってんじゃねぇか! だが、鍛える前にしっかり食わねぇ話にならねぇ。おら、奢ってやるからこっち来い!」

「ええ!? そ、そんなの悪いですよ!」

「いいから来いって!」


 半ば無理やり連行される形で俺はギルド内にある酒場で食事をすることになった。

 男性の名前はゲインさんで、俺だけでなくナイトたちの食事も頼むと得意げに話し始めた。


「いいか? ユウヤ。冒険者ってのは体力が肝心なんだ。だからしっかり食わねぇと話にならねぇ。んで、食ったらそれを消化する勢いで鍛えるんだ。普段使う武器を重くして、筋トレするのもアリだし、魔物と戦って実戦経験を積むのもいいだろう。とにかく、食わねぇと動けねぇんだ!」

「なるほど……」


 ゲインさんはそんな感じで昔にどんな魔物を狩ったとか、この街周辺の薬草が生えてるスポットとか、いろいろな情報を教えてくれた。


「おっと……俺はそろそろ帰るぜ」

「あ、本当にありがとうございました! お話、とても面白かったです! 次は自分が稼いだら何か奢らせてくださいね!」

「おう、楽しみにしてるぜ!」


 そういうとゲインさんは冒険者ギルドから去っていった。


「いやぁ、ゲインさんいい人だったねぇ」

「わふ?」

「ふごー」


 ナイトは首を傾げ、アカツキは何故か俺に微妙な視線を向けてきた。いや、なんで?

 ――――優夜がゲインに絡まれた瞬間、周囲の冒険者たちは『あーあ。アイツ、新人弄りが好きなゲインの野郎に捕まったぜ? 可哀そうに……』と思って見ていたのだが、まさかあそこまでほのぼのとした雰囲気で仲良くなるとは思っておらず、全員驚いていたことに優夜は気づかなかった。

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