第6話

 その日の晩、精神的に疲れていた俺はすぐに眠りに就く事が出来たのだが、突然体に違和感を感じ、目が覚める。


「……ん? 何だ……?」


 体中が熱を持ったように熱いのだ。

 原因不明の体の違和感に、首を捻っていると、急に俺の体を激痛が襲った。


「がっ!? がああああああああああああああああああああああああっ!」


 凄まじい痛みに、俺は絶叫する。

 一部分だけが痛いとかではなく、全身が痛いのだ。

 それも、体中からは変な音が鳴り響き、まるで全身の骨格や筋肉、神経が作り変えられてるような……いやそれどころか、で作り変えられてるような痛みが、ずっと続いているのだ。

 自分でも何を言ってるのかは分からないが、本能的な部分がその認識で正しいと告げている。


「うっ、がっ、あが……」


 口や喉にも異変は現れ、まともにしゃべることすらできなくなった。


「あ――――」


 あまりの痛さに、俺はついに意識を失った。


***


「ん……ん?」


 翌朝。

 目が覚めると、俺の体は昨日の痛みがウソのように消えており、それどころか非常に体が軽かった。


「昨日のは一体何だったんだ……」


 激痛の原因が分からず、俺は首を捻るばかりだったが、お腹もすいているため、朝食を作るために起き上がった。


「…………え?」


 その瞬間、俺の穿いていたズボンもパンツも、下にずり落ちた。

 しかも、そのまま俺の目に飛び込んできたのは、綺麗に六つに割れた腹筋と、尋常じゃないほど立派な自分の陰部。で、デケェ……。

 俺は思わずその腹筋などを触ってみると、自分で自分のお腹を触っている感覚があるため、俺の体で間違いなかった。

 …………。


「はああああああああああああああああああああ!?」


 ナンダコレ!? これ本当に俺の体か!?

 何度も何度も自分の腹を撫でまわすが、俺の体に違いはなく、他の部分……顔や頭を触ってみると、ニキビなどのデキ物は綺麗になくなっており、髪の毛もフサフサだった。

 次々と明らかになる俺の体の変化に俺は呆然としていたが、お腹が鳴ったため、取りあえず朝食を作ることにした。

 移動の際も、自分の視線の高さも違うことに気付き、再び立ち止まりそうになったが、何とか踏みとどまって、調理を始める事が出来た。

 ただ、朝食が出来た後は、正直呆然としたまま食事をしていたため、味などまったく分からなかった。

 食事を終え、一息つくと、改めて自分の体に起こった変化について考える。

 ……どう考えても、昨日のレベルアップってやつが原因だよなぁ……。

 冷静になったことで、レベルアップをしたことを思いだした俺は、すぐにそれが原因だと思った。それ以外、こんな状況になる要素がないからな。

 昨日の時点でレベルアップの変化が現れず、夜寝ている間に起こったのは、いわゆる成長する過程と一緒なんじゃないか? それにしては劇的に変わりすぎなわけだが。


「何か鏡でもあればいいけど……」


 見た目を確認しようと鏡を探したのだが、そう言えば昨日俺がヤケクソになって壊したのを思い出し、家の中に鏡がないことを悟ったのだ。

 ただ、見た目がどう変わったか確認できずとも、今のところ何の支障もない。もともと酷かったんだし、それ以上どう変わろうがどうでもいい。俺にはどうしようもないしな。

 今はそんなこと以上に深刻な問題に直面している。

 それは……。


「着れる服がない……」


 そう、俺の体のサイズに合う服がないのだ。

 上着はぶかぶかでも着ようと思えば着ることは出来るが、ズボンやパンツだけはどうしようもなかった。

 ぶかぶかすぎて、どう頑張ってもズレ落ちるのだ。

 今までベルトというものをしたことがないため、腰に固定する手段がない。いや、最終手段として何か紐みたいなもので固定すれば何とかなるかもしれないが……。

 どっちみち、この状況が続くのは困る。非常に困る。

 今の体のサイズに合う服を買いに行けないし、食事を買いに行くこともできない。

 そうだ、制服もこの姿じゃ着ることは出来ないだろう。

 珍しいことに、高校の制服は中学と同じであり、毎年配られる名札の色で見分けている。そのため、中学の制服を着るとなると、今の俺には確実にサイズが合っていないのだ。


「本当にどうすればいいんだ……」


 本格的に悩み始めた俺だが、あることを思いだした。


「あ。そう言えば、あの家のクローゼットに、何着か服とか入ってたよな……?」


 異世界のクローゼットの中には、あの時の俺には着る事が出来なかった、服と下着が何着か入っていたのだ。


「取りあえず、それを着てみるか……」


 現状他に当てがないので、俺はすぐに扉をくぐり、異世界の家の中に入ると、クローゼットを開けた。

 するとやはり何着かの服と下着が置いてある。

 見た目も白色のワイシャツと黒色のズボンで、シンプルだが地球でも見かけるタイプのモノだった。


「助かった……取りあえず、着れるよな?」


 特に意味もないが、何となく鑑定してみる。


『オリハルコンシルクのシャツ』……オリハルコンシルクで作られたシャツ。非常に肌触りがよく、シルク製品の最高峰である気品を持つ。ありとあらゆる魔法や物理攻撃を無効化する。ただし、着ている部分以外には効果がない。装着者の体型に合わせて自動で大きさを調整する。装着者の体温を常に適温で保つ。汚れない。契約者:天上優夜。


『オリハルコンシルクのズボン』……オリハルコンシルクで作られたズボン。非常に肌触りがよく、シルク製品の最高峰である気品を持つ。ありとあらゆる魔法や物理攻撃を無効化する。ただし、着ている部分以外には効果がない。装着者の体型に合わせて自動で大きさを調整する。装着者の体温を常に適温で保つ。汚れない。契約者:天上優夜。


「ウソだろ」


 何だよこのぶっ壊れ性能。

 しかも、最初にこれを見つけたときはまだ太ってたわけだけど、その状態で着ようと思えば着れたのかよ。

 さらに寒かろうが熱かろうが、これを着てればずっと快適な状態で過ごせるわけだろ? 本当に意味分からねぇ。

 それに、最後に付け足したような汚れないっていう説明……これ、世の主婦が見たら大喜びな効果じゃないか?

 あと、説明文を読んでからというわけじゃないが、確かにこの白いワイシャツと黒色のズボンは、妙な気品が漂ってる気がする。本当に気がするだけだが。俺に審美眼なんてものはない。

 んなことより、服ですら契約者扱いされるってどうなのよ? この世界ではこれが普通なの? 絶対違うよね? そう信じてる。

 服がこの性能なら、下着はどうだ? と思い、下着にも鑑定をかけたが、下着はメチャクチャ着心地のいい下着というだけで、それ以外に特に効果みたいなものはなかった。

 ただし、例に違わず契約者とやらになっていたがな。

 ちなみに、下着は黒色の肌着に同じく黒色のボクサーパンツだ。


「本当に至れり尽くせりの対応だな……」


 いや、賢者さんもこんな風に活用されてるとは思わないだろうけど、実際俺は非常に助けられている。

 他にも、クローゼットの中を探したら、靴と靴下も出てきた。

 靴下は穿き心地がよく、蒸れないという効果と、契約者が俺ということ以外なかったが、黒色に金色のワンポイントが入った靴下は非常にカッコいい。

 そして、靴の方はさらにぶっ飛んでいた。


『龍神の革靴』……龍種の頂点である、龍神の革で作られた靴。地形による影響を無効化する。装着者はどれだけ歩いて、走っても疲れることも靴擦れすることもない。装着者のサイズに合わせて、大きさが変化する。汚れない。契約者:天上優夜。


 とうとう神様が素材化された装備品が出てきた。

 ナニコレ、本当にどうすればいいわけ? 当たり前のように契約者は俺だしさ。いや、ありがたいけど。

 それでも手に余るよね? 普通の靴の領分を超えちゃってるよね?

 だが、この靴も艶のある青みがかった黒色で、非常にカッコいいのだ。こんなの履きたくなるだろ。

 まあ、実際足のサイズも変わっていたから、これを履くわけだけどな。

 取りあえず、俺は服や靴などを手に入れ、これで外出する術を手に入れたのだった。

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