第7話

「そう言えば、あの畑には何が育ててあるのかな?」


 服を手に入れた俺は、一日経ったことでさらに好奇心を刺激され、再びこの家を調べてみようと思った。どうせ春休みで宿題も終えている。

 さらに言えば、偶然によって俺が何か月か働いてやっと手に入るようなお金も手に入れた。

 せっかくこうして時間があるわけだし、何よりこの春休みが終わってしまったらまた忙しくなるだろう。

 そう思った俺は、家の外に出て、畑を確認しに行った。


「おぉ、なんかよく分からない草と野菜? が植えられてるな」


 雑草と見間違えそうになる草と、トマトらしきものや大根らしきものがたくさん植えられている。

 草の方は、綺麗に並んで生えているから、雑草じゃないと判断できた。


「ん? あ、あれで水をやってたのか」


 畑のすぐ近くに、銀色のジョウロが置いてある。

 そのジョウロを持ってみると、中には水が入っていた。


「……もしかしてだけど、このジョウロもなんか特別なの?」


 もしやと思い、一応鑑定してみると……。


『無限のジョウロ』……水が無限に湧き出すジョウロ。中の水は聖浄水せいじょうすいと呼ばれるもので、どんな枯れた植物でも、この水を上げればすぐに元気になる。水は常に清潔に保たれているため、人も飲む事ができ、飲めば全身の疲労を回復するだけでなく、魔力を増やす事が出来る。契約者:天上優夜。


「もう慣れてきた」


 うん、分かってた。

 そんなことだろうと思ってたさ。

 もともとの家主である賢者さんは、俺の想像を遥かに超えるヤバい人って認識だからな。

 そんな人が死んだってのも微妙な気分だが。


「んで? この作物は?」


 まず草に鑑定をかけてみる。

 すると……。


完治草かんちそう』……食べれば四肢を欠損してようが、失明していようが、ありとあらゆる傷や病気を治す事が出来る。また、魔力を回復させる働きもある。採取すると、勝手に種を残すため育てるのは非常に簡単。ただし、この草自体が伝説級に見つからない。


「やっぱり慣れなかったわ」


 まさかここまでぶっ飛んだ効果だとは思わないだろ!?

 これ、完全に医者泣かせな植物だよな。

 取りあえず、育てるのが簡単ってことだけでも分かってよかったわ。


「じゃあ、他のは?」


 どこか緊張しながら植えてある作物全てに鑑定をかけてみた。


超力ちょうりょくトマト』……食べれば攻撃力が上昇するトマト。他にも体力・精力が増え、疲れにくい体になる。採取するとき、種を勝手に残すため、育てるのは非常に簡単。


『無敵かぼちゃ』……食べれば防御力が上昇するかぼちゃ。他にも精神を安定させる効果があり、精神攻撃や状態異常に強くなる。採取するとき、勝手に種を残すため、育てるのは非常に簡単。


『叡智の大根』……食べれば知力が上昇する大根。他にも並列思考や高速思考など、特殊な脳の使い方に対応できるようになる。採取するとき、勝手に種を残すため、育てるのは非常に簡単。


『神速ジャガイモ』……食べれば俊敏力が上昇するジャガイモ。他にも動体視力や反射神経などを強化する。採取するとき、勝手に種を残すため、育てるのは非常に簡単。


 よし、言いたいことが山盛りだな。

 まさかステータス上昇アイテムとはね! 賢者さんはどこを目指してたんだよ!

 それに、例に違わず勝手に種を残すって意味が分からないよな! そもそもジャガイモって種だっけ? 違うよな?

 このファンタジー要素満載の野菜。いや、見た目は俺の知ってる野菜なんだけどさ。


「……まあ、食えるようだし、何よりステータスが上がるなら……食べようか」


 そもそも、食えるのであれば、その分食費も浮くし、俺としてはありがたい。変な薬みたいな効果さえないならな。


「なんていうか……朝っぱらから疲れるなぁ」


 まだ昼前だというのに、俺はすでに精神的に疲れていた。いや、仕方ないと思うんだけどね。

 そんな風に思っていると、昨日ブラッディ・オーガと出会ったときの様な威圧感を感じた。

 すぐにその方向に視線を向けると、そこには真黒なスライムらしき物体が。


「……何だアレ」


 思わず鑑定をかけてみる。

 すると、こう表示された。


【ヘルスライム】

レベル:200

魔力:5000

攻撃力:1000

防御力:5000

俊敏力:100

知力:100

運:100


「マジかよ……」


 ブラッディ・オーガの次は、ヘルスライムですか……。

 あの、どう考えてもこの森、初心者用の場所じゃないよね? いや、賢者さんがそんな場所にいたとは到底思えないけどさ。

 ただ、魔力と防御力だけなら昨日であったブラッディ・オーガと変わらないはずなのに、俺は不思議と冷静だった。

 確かに威圧感みたいなのは感じるのだが、昨日の様にすごく怖いとは思えなかったのだ。

 いや、怖くないわけじゃなくて、腰が引けるほどの恐怖を感じていないのだ。

 昨日より俺のレベルが上がったからとか、逆にこのヘルスライムがブラッディ・オーガよりレベルが低いからとか、そんな理由じゃない。

 なんか、昨日とは精神構造が変わってしまったような、そんな感じなのだ。

 ……それを実感できるのも怖いことだが、まあ冷静な考えができるというのはありがたい。

 そんな風に落ち着いてヘルスライムを観察していると、ブラッディ・オーガのように、この家の中に入ろうとすごい勢いで体当たりを繰り返していた。


「いや、本当にこの世界の生き物怖すぎるだろ……」


 いくらなんでも容赦なさすぎじゃね? 人を見つけたら襲おうと全力で向かってくるんだぞ?

 ……そもそも地球が平和すぎるだけなんだろうか?


「まあいいや。あまり出たくはないけど、この家の周辺くらいは調べてみたいよな。そうなると、今の状況みたいに戦闘は避けられないのかなぁ……」


 そう思いながら、俺はアイテムボックスから『絶槍』を取り出す。


「あれ? 普通に持てるぞ……」


 何と、俺は絶槍を片手で持つ事が出来たのだ。うん、これが普通なんだろうけど、俺としてはすごいことだった。

 まさか片手で槍を持てるとは思わなかった俺は、思わずその場で適当に槍を振り回してみる。

 すると、多少槍に振り回されはするものの、何とか扱えるレベルになっていたのだ。


「おいおい、レベルアップの恩恵すごすぎるだろ。俺の筋トレは一体何だったんだ……」


 これ、槍の使い方とか分からないから振り回されてるって感じだし、本で槍の使い方を調べてからその通りに使ってみたらどうなるかな?

 簡単にはできないだろうけど、それでもこうして槍が使えるようになったわけだし、何より男としてそれは非常に惹かれるものがあるわけで、余裕が出来たら調べてみようと思った。


「そのためにも、まずはアイツをどうにかしないとな」


 俺は槍を握りなおすと、昨日は出来なかった、投擲を行うことに。

 なんか躊躇いのようなものが完全になくなっている俺は、大きく振りかぶり、片手で槍を投げ飛ばした。


「ウソだろ!?」


 すると、槍は俺の予想以上のスピードで飛んでいく……どころか、気付いたらヘルスライムの胴体に穴が開いていた。

 俺の力は、俺が思ってる以上に強化されていたようで、まさか投げた本人の認識以上の速度で飛んでいくとは思わなかった。

 呆然とする俺に、当たり前のように戻ってくる槍。

 ヘルスライムは、少し体を震わせると、ブラッディ・オーガを倒したときの様に、光の粒子となって消滅していった。

 そして、その場にはまたも同じようにいろいろなものが散乱していた。


「…………回収しよう」


 まだ現実味がなく、微妙な気持ちだったが、何が落ちているのかは気になったため、すぐに入り口まで向かった。

 そして、辺りを警戒しながら落ちているモノを素早く回収し、鑑定する。


『ヘルスライムの核』……ヘルスライムの心臓部。膨大な魔力が込められており、様々な武具に加工して使える。


『ヘルスライムゼリー』……コーヒー味のゼリー。食べれば、魔力と防御力が増える。


『魔石:C』……ランクC。魔力を持つ魔物から入手できる特殊な鉱石。


「コーヒーゼリーかよ!?」


 まさか、手に入ったものの中に、コーヒーゼリーに近いものがあるとは思わなかった。それどころか、畑の作物と同じようにステータス上昇系だともな!

 そしてまた、魔石も手に入った。……これ、またもや高値で換金されるのかな?

 期待していないと言えばウソになる。俺の生活は厳しいから、お金が手に入るなら欲しいのだ。

 ヘルスライムの核も、使い方が分からないので、できるなら換金したい。ヘルスライムゼリーは持って帰りたいけど。

 落ちていた品々を鑑定していると、一つ鑑定し損ねていたことに気付く。


「あ、もう一つ落ちてた」


 落ちてた物は、デザイン化したオシャレな三日月に黒色の宝石みたいなものが埋め込まれているシルバーネックレスだった。


「まさかのアクセサリー!?」


 俺はゲームなど詳しくないため分からないが、こうしたアクセサリーなどが落ちるのは普通なのだろうか? それとも、あのヘルスライムが着けてたのかな? オシャレなスライムだ。

 取りあえず、ヘルスライムから手に入れたことに変わりはないので、鑑定してみた。


黒月くろづきの首飾り』……ヘルスライムから手に入る、レアドロップアイテム。装備者は夜間、様々なステータスが上昇する。また、太陽光を集め、それを魔力に変換し、装備者の魔力を常時回復させる。契約者:天上優夜。


 まさかのレアドロップアイテムだった。

 まあ、スライムがオシャレってのも意味が分からないしな。ちょっと残念だけど。

 でも、効果は非常に良さそうだ。夜の間だけとはいえ、ステータスが上昇するらしいし、それ以外にも魔力を回復させてくれるのだ。魔力の使い方が分からないけどな。

 せっかく手に入れた初のレアドロップアイテムなので、俺は装備してみることに。ネックレスなんて着けたことねぇや。


「似合ってるかねぇ?」


 誰に聞いたわけでもないが、思わずそう口に出た。

 以前の俺なら完全に似合ってなかっただろうが、痩せてるしちょっとは似合っててほしいよね。

 そんな希望を抱いていると、メッセージが出現した。


『レベルが上がりました。スキル【気配察知】を習得しました』


「え」


 いや、ちょっと待て。

 あの激痛をもう一度味わわないといけないのか!? 確かにレベルは相手のほうが上だったし、レベルアップも理解できる。だが理解できても納得できるか! 嫌だぞ、俺!

 取りあえず、一時的でも現実逃避をしたい俺は、スキルの確認をした。


『気配察知』……気配を察知する事が出来る。


 すごく簡単な説明だったが、つまり漫画とかの『そこにいるのは分かってるぞ!』的な事が出来るわけね。

 これは普通に嬉しいな。

 さっきみたいに、アイテムを回収するときは外に出なきゃダメなわけで、その間の危険度を減らせる。

 新たなスキルに満足したところで、とうとうステータスの確認に移った。


【天上優夜】

職業:なし

レベル:150

魔力:2000

攻撃力:3500

防御力:3500

俊敏力:3500

知力:2000

運:4500

BP:5000

スキル:≪鑑定≫≪忍耐≫≪アイテムボックス≫≪言語理解≫≪真武術:1≫≪気配察知≫

称号:≪扉の主≫≪家の主≫≪異世界人≫≪初めて異世界を訪れた者≫


 結構上がってた。

 てか、キリよすぎじゃね? こういうもんなの? 見やすいからいいけどさ。


「まあいいや。BPを割り振ってしまおう」


 ちょっと考えた後、俺はBPを割り振った。

 その結果がこれだ。


【天上優夜】

職業:なし

レベル:150

魔力:2000

攻撃力:4500

防御力:4500

俊敏力:4500

知力:2000

運:6500

BP:0

スキル:≪鑑定≫≪忍耐≫≪アイテムボックス≫≪言語理解≫≪真武術:1≫≪気配察知≫

称号:≪扉の主≫≪家の主≫≪異世界人≫≪初めて異世界を訪れた者≫


 前とは違い、今回は魔力と知力にはBPを割り振らなかった。

 その代わり、運を2000ほど割り振ったのは、さっきのレアドロップアイテムがあったからだ。

 完全な予想だが、この運というステータスが高ければ、さっきみたいに手に入りにくいだろうレアドロップアイテムがまた手に入るかもしれない。

 それに、運がいいってだけでなんだか嬉しいしな。

 朝っぱらからイベントの連続だったが、もう昼になったので、俺は一度家に戻るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る