第5話
れ、レベルアップ……?
俺は唐突に表示されたメッセージに、呆然とする。
……いや、冷静に考えれば、それもそうか。
なんせ、レベル1がレベル300を倒したわけだからな。
今さらだが、攻撃力1なのに、これだけレベル差のある相手を倒せたのは、『絶槍』の素の火力が高すぎたせいだろう。
「……『絶槍』ヤバすぎだろ」
しかも、『絶槍』クラスが大量にまだ手元にあるのだ。これ、全部使いこなせるようになったらヤバいよな……。
それより、レベルアップしたって言うけど、何が変わったんだろうか?
俺はステータスを表示して、変更点を確認した。
【天上優夜】
職業:なし
レベル:100
魔力:1000
攻撃力:1000
防御力:1000
俊敏力:1000
知力:1000
運:1000
BP:10000
スキル:≪鑑定≫≪忍耐≫≪アイテムボックス≫≪言語理解≫≪真武術:1≫。
称号:≪扉の主≫≪家の主≫≪異世界人≫≪初めて異世界を訪れた者≫
「いやいやいやいや」
上がりすぎだろ。
……でも相手はレベル300だったわけだし、こんなものなのか……?
それに、レベルがひとつ上がるごとにステータスは10上がるんだな。これが多いのか、それとも全員同じなのかは分からないが。
だとしても、このBPが他の人より異常に多いのはさすがに分かる。【初めて異世界を訪れた者】の効果なのは知ってるが。
「このBPってのを、自由に振り分けられるんだよな……」
今すぐ振り分けてもいいんだが、それよりもブラッディ・オーガを倒した場所に、何かが散らばっているのが気になる。先にそっちを見に行こう。
未だに震える足に力を込めて、おぼつかない足取りで目的の場所まで辿り着いた。
「……何だ?」
その場所に落ちていたのは、手のひらサイズの不思議な色合いの宝石みたいなものと、ブラッディ・オーガの口から生えていたのと同じような、立派な牙。
これらが落ちていたのだ。
「……取りあえず、回収しよう」
入り口付近で倒したおかげで、回収は素早く行う事が出来た。
回収した素材は、数こそ多くはないが、何とも言えない魅力? 威圧? とにかく、素人目に見ても、すごい物だということが分かるものだった。
ただ、こうしていくら眺めていても俺が分かるわけないので、素直にスキル【鑑定】を発動させた。……なんかナチュラルにスキルを発動するようになってきたな。
『
『魔石:B』……ランクB。魔力を持つ魔物から入手できる特殊な鉱石。ランクは下から順にF、E、D、C、B、A、Sとあり、ランクが上がるほど高価。
ファンタジー満載のアイテムだった。
魔石や牙って……一般人の俺がどこで使うの?
そもそも、使い道が分からねぇよ。武器は間に合ってるし、魔石に至っては隣のアルファベットがランクとやらを示していることぐらいしか分からない。
「せっかく回収したけど……使い道が分からないんじゃなぁ」
なんだか、BPを割り振るのを後回しにするほどの事でもなかったかも。
そう思いながら、俺は今度こそBPを振り分けることにした。
「んー……振り分けるにしても、魔法なんて使えないし、どうせなら攻撃力とか上げたいよなぁ」
俺は元々ゲームとかでは、攻撃力をひたすら上げて殴るスタイルが好きなのだ。まあゲームなんて娯楽持ってないから、妄想でだけどな!
ともかく、使えもしない魔力に振り分けるのもあれだし、何よりいじめられ続けてる俺からすると、防御力とかを上げた方がいいかもしれないな。
「……でも、この運ってのもなぁ……」
運っていうのは、どれだけ頑張っても、筋力などと違って、簡単に上がるわけないのだ。いや、レベルアップしたら同じだけ上昇したけどさ。
そう考えると、運に振り分けるのもアリだよなぁ。
「……ヤバイ、楽しくなってきたぞ」
そもそも、ゲームをしたことがない俺からすると、この状況は一つの娯楽みたいになりつつあった。もちろん、あの殺気に当てられたりと怖い目にもあったが、それでもこの不思議な状況は魅力的だった。
まあ、レベルが上がって、攻撃力やらが上昇してるけど、特に変わった様子もないし、あまり気にせず、それこそゲーム感覚で選んでもいいだろう。
楽観的に考えた俺は、思うままに、BPを振り分けてみた。
その結果……。
【天上優夜】
職業:なし
レベル:100
魔力:1500
攻撃力:3000
防御力:3000
俊敏力:3000
知力:1500
運:4000
BP:0
スキル:≪鑑定≫≪忍耐≫≪アイテムボックス≫≪言語理解≫≪真武術:1≫。
称号:≪扉の主≫≪家の主≫≪異世界人≫≪初めて異世界を訪れた者≫
こんな感じになりました。
魔力は魔法使えないし、知力って純粋な学力が上がるならいいけど、ゲーム的に考えたら魔法の威力が上がるだけとかになりそうだし、そこまで多く振り分けなかった。
代わりに、攻撃・防御・素早さの三つを上げて、バランスをよくしてみた。
そして、よく分からないけど、努力ではどうしようもなさそうな運を、一番多く振り分けている。
さて、これで決定したわけだけど……。
「……何も起こらないな」
やっぱり、表示がゲーム的なだけで、俺の体に何か起こるわけじゃないんだろうか?
「まあいいや……とにかく、今日はいろいろありすぎて疲れたし、帰るか……」
いや、元々家のなかなんだけど。
くだらないことを考えながら、さっきよりマシになった体に力を入れ、『異世界への扉』に近づいた。
すると、突然目の前にメッセージが出現した。
『換金できるアイテムがあります。【血戦鬼の大牙】と【魔石:B】を換金しますか?』
「へ?」
か、換金?
一瞬何のことか分からなかったが、称号の≪扉の主≫を獲得したことで、使えるようになったという機能の中に、『換金』という項目があったことを思いだした。
「換金って……一体どうなるの?」
よく分からないが、確かにこれらのアイテムを持ってたところで俺には使い道がないため、俺は特に悩むことなく換金することを選んだ。
すると……。
『アイテムを換金しました。【血戦鬼の大牙】……50万円。【魔石:B】……100万円』
「は?」
思わず間抜けな声が出た。
しかも、さらに追い打ちをかけるように、何もない空間から紙の束が落ちてきた。
「…………………………」
意味が分からなかった。
よく見ると、一万円札の束である。
呆然としながらそれを拾い確認すると、メッセージに表示された通り、合計150万円が手元にあるのだ。
俺の知る限りで、そのお金が偽札じゃないか確認するが、どうも本物っぽい。
思わずスキル『鑑定』を使い、調べてみた。
『150万円』……異世界の素材を換金した物。札番号など、地球の経済が混乱しないように地球内の情報を操作して生み出した、正真正銘の一万円の札束。
余計混乱した。
地球内の情報操作って何!? いや、本物なのは分かったけど!
どこまで『鑑定』を信じていいのか分からないが、もし鑑定の内容が本当なら、俺は150万円を手に入れたことになる。
だが、俺には『鑑定』の内容が本当にしか思えなかった。
そもそもこの扉自体が神様すら知らないようなものらしいし、地球の情報操作とやらもできてもおかしくない。理解は追いつかないけど。
でも……。
「えぇぇ……本当に150万円なのかよ……これ、どうするの……」
いや、生活するのもギリギリな俺からすれば、非常にありがたい。
人としてダメだとか、もっとよく考えて行動しろとか言われようが、俺はいい人ってわけじゃないし、頭もよくない。
目先に利益があるなら、簡単に飛びついちゃうよ。
ということで……。
「……もらっとこ」
ただ、銀行に預けるわけにもいかないので、アイテムボックスに放り込んで、少しずつ使っていこう。
そう決めた俺は、最後の最後で大きく驚かされ、フラフラな状態で家に帰るのだった。
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