第39話

「――――パーフェクトだ。ここまで食材を採って来たヤツも初めてだが、そのすべてが食えるもんだったのもお前たちの班だけだぞ」


 予定通り沢田先生に採って来たものを見せて調べてもらうと、そう言われた。

 まあイカサマというか不正というか……【鑑別】を使って調べたけど、何かあったら怖いので許してほしい。


「他の班はぼちぼちといった感じだったが、お前らのおかげでボーナスに近づいたぜ。ククク……」

「あはははは……」


 沢田先生の黒い笑みに俺たちは苦笑いを浮かべる。


「だが、まだ気を抜くなよ? 料理も採点対象だからな。ところでこの中で料理できるのは?」


 全員が俺を指さした。


「マジかよ」

「マジです」


 沢田先生は頭を抱え、両肩をしっかりつかんだ。


「天上、頑張れ。全てはお前にかかってる。俺のボーナスがな!」

「少しは下心を隠そうとしてくれませんかねぇ!?」


 メインは俺たちの学園祭の出し物が豪華になることだろう!?

 頬を引きつらせる俺をよそに、沢田先生は次の班の仕分けに移ってしまった。


「はぁ……言いたいことはあるけど、とにかく料理をするか」

「パシリは任せたまえ!」

「は、配膳もできるよ!」

「アタシは美味しくいただくね」

「凛も雑用くらいは手伝ってくれ」


 再びため息を吐きながら、俺は使える調味料や調理道具を確認した。

 最初に先生が言っていた通り、カレーが作れるだけのモノは揃っているが、この山で手に入れた物を調理するためのモノは別に用意してあり、何の心配もなく料理が出来そうだ。

 手持ちの食材を見て考えてみたら……。


『イワナとヤマメのから揚げ』

『菜の花と自然薯の黒トリュフ和え』

『トンビマイタケのお吸い物』


 といった献立にカレーが追加されるような形になりそうだった。

 献立が決まればとっとと作ってしまおうということで、調理場に行き調理を始めた。

 正直カレーじゃなくて白米のままでもいいんだけど、せっかくカレー作る用意がされてるんだから作ってしまおうってことで作ります。

 自然薯と黒トリュフは扱いがよく分からないけど、自然薯と黒トリュフはすりおろして使えば、まあ間違いはないかなぁって。最悪山芋カレー的なノリで自然薯をすりおろしたモノをカレーにかけてもいいしね。

 それとイワナとヤマメが捕れたことでから揚げにもするが、骨とかの出汁を使ってトンビマイタケと組み合わせたお吸い物が作れるのは大きいだろう。

 いつも通りに料理していると、不意に視線を感じたのでその視線の方を向くと、楓たちだけでなく多くの人間がポカーンとした表情を浮かべていた。


「ん? どうした?」

「い、いや……その……優夜君の手際があまりにも鮮やかだったから……」

「そう? 普通だと思うんだけどなぁ」


 そうこうしているうちに、今回は異世界の食材もないのでごくごく普通の料理が完成した。

 軽い味見はしているが、普通に美味しいと思う。異世界の食材がぶっ飛んで美味しいだけだから。


「さあ、できたよ」

『…………』


 みんなの目の前に料理を置いてやると、全員呆然とした様子で料理を見つめている。

 すると審査の為に沢田先生を含む先生方がやって来た。


「おう、やってるかー……ってなんじゃこりゃ!?」


 沢田先生は俺の作った料理を見ると目を見開いて驚いた。

 その声につられて他の先生方も俺の料理を目にすると同じような反応をする。


「おい、天上! これお前が作ったのか!?」

「は、はい。そうですけど……」

「……味見できるか?」

「あ、用意してますよ」


 量は少ないが先生方に食べてもらえるように味見用を用意していたので、それらを食べてもらった。

 そして――――。


『………………』

「あ、あの? どうですか……?」


 少し不安になりながらそう訊くも、先生方の反応はない。


「ゆ、優夜君! 私たちも食べていい!?」

「え? いいけど……」


 我慢できなくなった楓の言葉に了承すると、楓たちは待ってましたと言わんばかりに料理を口に入れた。


『………………』

「だから何か反応してくれない!?」


 何故か楓たちも先生方と同じで料理を一度口に入れるとその体勢で固まった。

 もしかして、不味かったのだろうか?

 俺が味見をした限りだと大丈夫だと思ったんだけど……もしかして俺の舌ってバカだったか?

 皆の反応がないため、とても不安に思っていると――――。


『うまああああああああい!』

「へ?」


 全員が一斉に声をあげた。

 すると興奮気味に楓が俺に言う。


「優夜君、なにこれ!? すごく美味しいよ!?」

「そ、そう? 美味しいのならよかっ――――」

「美味いなんてもんじゃねぇぞ!」

「へ?」


 沢田先生はいつもの気怠そうな雰囲気からは想像もできないほど、力強く俺に言った。


「お前なぁ、俺たちは学園の一流シェフが作る昼食を格安で食べてる。それなのにここまで美味しく感じるって……お前本当に何者だよ!?」

「そう言われても……」

「美味いから何でもいいんだけどな!」


 沢田先生だけでなく、全員が俺の作ったご飯を美味しいと言って食べてくれた。

 ……なんだか新鮮だ。

 今まで俺が食べる分の料理しかしてなかったし、自分で食べるから味もそんなに気にしたことはなかったけど……こうしてみんなに美味しいって言ってもらえるのはとても嬉しいな。

 皆がとても美味しそうに食べていると、それを見ていた周囲の生徒たちが涎を垂らしていた。


「う、美味そう……」

「おかしい……俺たちの晩飯はこんなに質素なのに、なんであっちはあんなに豪華なんだ……!」

「運動もできて、顔もよくて、料理もできて……天は二物を与えすぎじゃないか!?」


 うーん……あんなに見られると全員分作りたくなるけど、さすがに材料も時間もないからなぁ……。

 若干居心地が悪く思いながら、俺も自分で作った料理を食べ始めるのだった。

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