第32話

『――――魔法とは、想像の具現化である』


 賢者さんが残した本を持ち帰り、早速目を通すと最初にそう書かれていた。

 想像の具現化……言葉はだいぶ物々しいけど、大丈夫かな?


『だが、想像の具現化……魔法を使うにしても、その基となる【魔力】がなければ魔法は使えない』


 そりゃあそうだろう。じゃないと、本当にステータスの魔力が無意味になっちゃうしね。


『最初はこの魔力を感じることから始めなければ魔法は使えないのだ』


 ――――というワケで、俺は魔法を使う前に魔力の操作を覚えることになった。

 本を読み進めていくと、魔力を扱うためにはまず自身の魔力を感じなければならず、その方法として瞑想が挙げられていた。

 瞑想って言われてもよく分からないが、取りあえず目を瞑って座ればいいのかね?

 俺は本を前に置き、目を閉じて座った。

 すると隣に気配を感じたので少し目を開けると、ナイトも俺の真似をして目を閉じて大人しく座っている。可愛い。

 しばらく並んで座っていると、俺は体の心臓部分が妙に熱く感じた。


「……ん? 何だ? コレ……」


 その熱さを感じた瞬間、その熱は全身を駆け巡り、なんだか血流を体感しているような錯覚を覚えた。


「ちょっ……何だ、この感じ……!」


 今まで体験したことのない状況に戸惑うが、体が怠いとか痛いとか、そういった異常は見られない。

 すると俺の目の前に半透明なメッセージが出現した。


『スキル【魔力操作】を習得しました』


「え……この熱のもとって、魔力だったのか!?」


 俺はすぐに賢者さんの本で確かめると、どうやら魔力とは血流に似たモノであるらしく、常に自身の体を駆け巡っているそうだ。

 普段は意識しなければ何も感じないらしいので、今回だけなのだろう。


「はぁ~……魔力ってのは血液みたいなものだったんだなぁ……」

「……ワン! ワンワン!」

「ん?」


 しみじみとそう呟くと、隣で瞑想していたナイトが俺に何かを伝えるように吠えた。


「もしかして、ナイトも感じ取れたのか?」

「ワン!」

「おお! やったな!」


 ということは、ナイトも俺と同じく【魔力操作】のスキルを習得出来たのだろう。

 操作って言っても、自分の魔力を感じられただけなのにな。

 でも、確かに自身の魔力を感じ取れるようになってから、体を駆け巡る魔力の速度を調節したり、一か所に留まらせたりと自分の思った通りに動かせたので、案外他の人も魔力を感じ取れたらすぐに操作できるのかもな。


「さて、魔力は感じ取れたし、操作もできるようになった。次はどうするんだ?」


『魔力を扱えるようになればあとは簡単だ。例えば炎を掌から出したければ、掌に魔力を集めて、炎が出るように想像すればいい。長い呪文の詠唱などもないわけではないが、これらは想像を固めるための補助の役割を果たしているだけなので必要ないだろう。ただ、魔法名を自身で考えておけば、発動するときにより楽になるであろう。その魔法名を口に出すのも頭で唱えるのも同じなので、これも好みの問題だ。ただし、実戦においては相手に魔法の予測をさせないためにも頭で唱えるのが推奨されるがな』


「へぇ……魔法って詠唱いらないんだ。それに頭の中で魔法名を唱える方が戦闘では役に立つと……」


 地球じゃ役に立たないけどね。

 魔法を使わなきゃいけないような状況が想像できないし。

 そう思いながらページをめくると続きが書かれていた。


『最初に魔法を使うなら、水系統の魔法を想像するのがよかろう。炎などは場所によっては惨事を引き起こすが、水であれば被害は比較的に少なく済む。考慮したまえ』


「あっぶねぇ! 完全に炎を出す気でいたぞ……」


 賢者さんの本を読んでなければ、俺は炎を出現させようとしていたかもしれない。実践する前にちゃんと読まないとな。

 ナイトにも同じように伝え、俺は早速掌を突き出した。

 俺がイメージするのは掌に浮かぶバスケットボールサイズの水球。

 ……魔法名を考えてた方がいいって書いてあったし、『ウォーターボール』でいいか。安直な名前だけど、おかげでイメージと技名が結びついた。

 俺はイメージを固めると早速魔法を発動させてみた。


「『ウォーターボール』!」


 すると、俺の掌に何もない空間から水がうねるように出現し、やがて想像通りの大きさの水の塊が出来上がった。


「うおおおおお!? できた、できたぞ!?」

「わん! わん!」

「ん?」


 思わず掌の水球に感動していると、隣でナイトが吼えたので見ると、ナイトの頭上に俺と同じサイズの水球が浮かんでいた。


「おおっ! ナイトもできたか!」

「ワン!」


 空いてる手で俺は全力でナイトを撫でまわした。


「よしよし! これで俺たちも魔法使いだな!」

「ワン!」


 今すぐ他の魔法も使いたいが、出現させた水球をどうにかしないと。

 俺は脳内で出現させた水球を高速で撃ち出すイメージを、庭の外の樹に向けながら頭に描いた。

 その瞬間――――。


「……うわぁ……」

「……わふ……」


 水球は外の木々を数本、へし折った。

 想像以上の威力に、俺は頬を引きつらせる。

 ……本当にイメージ通りに使えるんだな。

 それに魔法を使って分かったけど、確かに魔力が微かに体から失われてる感じがする。

 でも魔力を失う体感を信じるなら、このとんでもない威力の水球を大量に生み出すことも可能だろう。

 さっきは水球を出現させるだけで『ウォーターボール』って魔法だとイメージしてたけど、今の光景を見たことで撃ちだすまでが『ウォーターボール』のイメージへと上書きされた。水球を出現させるだけもできるけどね。


「……よし、この調子でどんどん魔法を使ってみよう!」

「ワン!」


 気を取り直してナイトにそう言い、俺たちは時間が許す限り魔法を使い続けるのだった。

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