第33話
「はしゃぎすぎた……」
翌日。
俺は学校に向かいながら少し反省していた。
昨日は時間と俺のイメージが尽きる限り魔法を使い続けたのだが、最終的には魔力切れという現象を引き起こしてしまったのだ。
賢者さんのの本を読んだところ、魔力切れは時間が経てば回復するが、あまり褒められたことではないらしい。
それは魔力切れによって一気に体が気怠くなるからだ。もう尋常じゃないくらいに。
立っているのがやっとってくらいに体が怠くて、本当にヤバかった。
これが戦闘中に起これば一瞬で殺されるだろう。
他にも気になることがあった。
それは本の最後に書かれた一言で……。
『――――さて、ここまで語ったのは私が見つけた研究成果であるため、世間に浸透しているとは考えず、得た知識をどこで使うかを慎重に考えなさい』
と書かれていたのだ。
……この文を読んだ感じだと、賢者さんの残した本の内容は一般的でないのだろう。
まさかとは思うが、異端だ! とか異世界人に言われても困るし、気をつけよう。
ここまで危なかったり、気をつけなきゃいけないことが増えたわけだけど、悪いことばかりではなかった。
レアドロップアイテムである携帯お風呂セットの効果の中に、魔力回復を促す効能の温泉を出すことも可能だって分かったのだ!
いやぁ、あのドロップアイテムは最高の当たりですね! もうアレなしじゃやってけないよ!
歯ブラシも効果通りに口内は爽やかだし、本当に綺麗な白い歯に変身したんだから驚きだよね。しかも磨いてて超気持ちよかったし。
思わず歯ブラシとお風呂の気持ちよさを思い出して表情が緩む。
そんな状態で登校していると、なんだかいつも以上に視線を多く感じた。
それも、視線を向けてくるのは女の子たちが多い。
「ちょ、ちょっと! アレ、雑誌の人じゃない!?」
「え、ウソ!? ってあの制服『王星学園』のヤツじゃないのよ!」
「写真で見るよりカッコよくない!?」
「ありがたや~ありがたや~」
何故か俺を見て拝んでる人もいた。俺の後ろに誰かいるの!? ナニソレ怖い!?
意識すると途端に背筋が寒くなったので、俺は逃げるように学園へと向かった。
廊下を歩いているときもなぜか俺を見てヒソヒソと話す人が多く、俺の中の疑問は膨らむばかり。ホント何? ……もしかしてチャック全開!? ……いや、大丈夫だ。
思わず自分のズボンを確認するが、俺の体を見ても変なところは特になかった。俺自身が変だと言われたら終わりなんですけど。
結局何も分からないまま教室に着いて自分の席に座ると、楓が興奮気味にやって来た。
「あ、優夜君、優夜君っ! おはようっ!」
「おはよう。元気だね? 何かあったの?」
「私はいつも元気だよ? ってそれよりもコレ!」
「え?」
突然楓が俺の机に一冊の雑誌を置いた。
「ここ! このページ! 美羽ちゃんと一緒に写ってるの、優夜君だよね!?」
「あ、本当だ。本発売されたんだ……」
以前、ショッピングモールでモデルの美羽さんと撮影した時の写真が一面に載っていたのだ。
……ただ、この写真いつ撮られたんだ?
雑誌に載っていたのは、俺と美羽さんがベンチで楽しそうに談笑している様子。
でも、光さんの指示でポーズをとったりしたときに、こんなシーンは……あ。
美羽さんとモデルとか職業のことについて話してるときに撮られたのかぁ……だからあの後撮影がなかったんだ。
それにしても……この写真の俺は自然に笑えているので、結果的にはよかったのかな?
一人で雑誌を眺めながら納得していると、楓が小さく息を吐いた。
「はぁ~……その様子じゃ本当に優夜君なんだね……この写真、すごくいいよ~」
「本当? ありがとう。でもカメラマンさんの腕がすごく良かったんだよ。それに美羽さんもすごいし……」
「いやいやいや! あの美羽さんと一緒に写ってる優夜君も劣らずにすごいからね!?」
楓がそう言ってくれるが、撮影現場を見てればそうも言えないだろう。俺、顔も体もガチガチに緊張してたし。
そんな会話をしていると、亮と慎吾君が登校してきて、俺を見つけるや否やすごい勢いで飛んできた。
「おい、優夜! お前すごいことになってるぞ!」
「すごいこと?」
「ああ、最近じゃテレビで取り上げられてるくらいだ!」
「へ?」
亮の言葉に俺は間抜けな声を出すことしか出来なかった。
俺が……テレビ?
「いやいや、何の冗談だ?」
「ほ、本当だよ。人気急上昇中のモデル、美羽さんと一緒に写ってる男性は誰なんだって……」
「…………マジ?」
「マジマジ。ほれ」
亮は動画サイトに上げられている、ニュースの一部をスマホで俺に見せてくれた。
『――――それにしても、美羽ちゃんと一緒に写ってる男性は誰なんでしょうね?』
『突然現れた超新星って感じでしょうか?』
『ええ。あの容姿もそうですが、写真からでも伝わるあのオーラ! 新人どころかただの一般人だなんて信じられませんよ!』
『これまで何の騒ぎになっていないのも不思議なくらいですね!』
俺は動画を見て唖然としてしまった。
これ……本当に俺のこと? 別の人じゃなくて?
「……優夜の様子を見る限り、本人だけ知らなかったんだな……」
「え、そんなことってあるの?」
「で、でも優夜君、完全に固まってるよ……」
未だに理解が追い付いていないが、俺は今朝の視線の多さを思い出した。
「……だから今朝、あんなにいろんな人から見られてたんだ……」
「そりゃあもう。女の子の間じゃ優夜君の話題で持ちきりなんだから!」
「そんな俺なんかの話題で盛り上がらなくても……もっとカッコいいアイドルとかいるんだし……そもそも何で俺なんかで?」
俺がそう言った瞬間、三人は虚を突かれたような表情を浮かべていた。
「え? どうしたの?」
「え、えっと……優夜? 今の言葉、本気で言ってるか?」
「うん」
光さんのおかげで何とか見る事が出来るけど、普段の俺の笑顔なんて見れたもんじゃないよ。
「ゆ、優夜君……自己評価すごく低くない?」
「そうかな? 妥当だと思うけど……」
痩せて体も大きく変わったけど、顔は相変わらず……っていうか、俺が自分のことを好きじゃないんだ。
今まで容姿のことで散々虐められてきたわけで、何度こんな体をやめたいって思ったか分からない。
同じ血が流れてるはずの陽太や空は容姿に恵まれていたのもそれを増長させていた。
だからこそ、俺は俺のことがそんなに好きじゃないんだ。
……まあ以前とは違って、『完全に嫌い』から『そんなに好きじゃない』に多少ランクアップしたんだけどね。これも異世界でレベルアップしたおかげだ。
改めて異世界への感謝していると、亮が真剣な表情で俺に言った。
「優夜。何があったか知らないけど、お前がお前を認めないでどうするんだ?」
「え?」
「どんな時でも、お前自身は自分を認めないと……最後に自分を護れるのは自分だけなんだぜ」
「……」
俺の心情を見通したかのような言葉に、俺は黙ることしか出来なかった。
「……ま、ゆっくりでもいいけどな。俺たちも手伝うからよ」
「よく分からないけど……任せて!」
「よく分からないんじゃあ任せらねぇよ……」
「亮君、細かいことは気にしない!」
「ぼ、僕も手伝うよ。自分に自信を持てないのは、僕もよく分かるからさ」
……本当にこの学園は温かい人でいっぱいだな。
三人の言葉に、俺は心が温かくなるのだった。
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