第34話

「さて、年間行事予定にも書いてある通り、来週には校外学習が待っているが……お前ら準備はできているかー?」

「へ?」

『はい!』


 朝のやり取りを終え、HRを受けていると担任の沢田先生はまずそう口にした。

 校外学習? ナニソレ、初耳なんですが?

 突然の言葉に混乱していると、隣に座っている雪音が教えてくれた。


「……校外学習って言っても、要は新しい環境に馴染むためのキャンプをするだけ。二泊三日で、準備も必要なモノをまとめた紙が配られると思うから、それを参考にすればいいと思う」

「なるほど……」


 よく考えたら、俺教科書とかは貰ったのに年間行事予定表みたいなのは貰ってないんだよね。

 正直なくても苦労しないっていうか……今まで学校が嫌いだったから行事なんて気にならなかったって言うのが正しいんだけど。

 すると沢田先生はこういった。


「とはいえ、準備も何も、班を決めなきゃ始まらねぇ。だから俺の方で適当に班を決めておいたぞ~」

『ええ~』


 沢田先生がそう言うと、多くの生徒から不満の声が上がった。


「先生! 何で俺たちに班分けさせてくれないんですか!?」

「そうですよ!」

「横暴だー!」

「うるせぇ! お前ら、ここぞとばかりに攻めてくるんじゃねぇよ! 宿題増やすぞ!?」

『……』


 宿題を人質に取られ、全員黙った。弱者とは……脆いね……。

 そんな生徒たちを見て、先生はため息を吐く。


「さっきも言ったが、内容はキャンプとはいえ一応校外学習だ。その中身は生徒同士で親睦を深めようって意味があるんだが、そこで仲のいい連中同士で班作っても新しい人間関係の構築にはつながらねぇ。こういう時に友人を増やしとけってことだ。分かったな? お前ら」

『はーい』


 つまり、今回の班決めは学園側にちゃんとした意図があったってことか。

 俺はまだ亮や慎吾君とかしかよく話す子もいないし、この行事はありがたい。

 でも困ったこともある。

 ……この校外学習の間、ナイトをどうしよう。

 一番いいのは魔法で家に行き来することなんだけど……昨日の段階じゃまだ瞬間移動みたいな魔法は使えなかったのだ。

 イメージがしにくくて、どうしようって感じ。

 思いがけない場面で移動系の魔法が使えないことの問題が出てきたため、頭を抱えていると沢田先生は黒板に班分けの結果を書いた。


「っと、これが今回の班分けだ。これに割り振ってる数字が班の番号で、今から班ごとに移動してもらうぞ。そら、移動開始~」


 黒板を見ると俺は5班だったので、その班が固まってる位置に移動する。

 するとそこには見知った顔が2つもあった。


「あ、楓」

「優夜君! 一緒の班だね、よろしく!」


 そう、楓と同じ班だったのだ。

 もう一人の見知った顔と言うのは――――。


「やあ、優夜君! 僕も一緒の班さっ!」

「えっと、晶君。よろしくね」

「君付けだなんてよそよそしいじゃあないか! 僕のことは気軽に晶と呼んでくれ! それか貴公子でも――――」

「前振りが長い! そこどきな!」

「酷い!?」


 サッカーのときにやらかしていた晶とも一緒の班だった。

 だが、そんな晶を突き飛ばしてやって来たのは、初めて関わる女の子だった。

 長い黒髪の女の子にしては高身長なスラリとした綺麗な子で、顔だちも何となく彼女の気の強さをあらわしているようにも思える。


「アタシは神崎凛かんざきりん。アタシも呼び捨てで構わないからさ。今回はよろしくね、優夜」

「うん、よろしく、凛」


 新しい人と関わるのって前はあまり好きじゃなかったけど、今はワクワクがあって好きになった。

 だから自然と笑みが浮かんだわけなんだが、そんな俺の顔をまじまじと凛は見て、一つ頷いた。


「なるほどね……【王子】って呼ばれるだけあるわ」

「え?」

「いや、こっちの話さ。そこのアホも黙ってりゃ【貴公子】って言われても頷けるんだけどねぇ」

「え、本当に!? ぜひ呼んでほしいな!」

「……この調子だから永遠にその機会はないだろうけど」

「何故だっ!」


 もう既にこのメンバーで楽しいんだけど。

 そう思っていると、楓が声をかけてきた。


「取りあえず4人で一班らしいから、今回はこのメンバーで活動するみたいだね。楽しみだなぁ」

「俺も。あまりこういう機会がなかったからね」


 中学のころはお金がなくて修学旅行にも行けなかったし。いや、行ってたとしても楽しめてたかは別問題なんだけどさ。

 それぞれの班でメンバー確認をし終えるのを見計らって、沢田先生が口を開いた。


「よし、確認は終わったなー。それじゃあ概要を軽く説明してから当日必要になるモノをまとめた紙を配るぞー」


 その声に反応して、生徒たちは先生の方に目を向ける。


「まず行先だがこの学園所有の宿泊施設がある。周囲は大自然に囲まれて、コンビニとかそんな便利なモノはないと思えよー。んで、活動内容だが……それは向こうに行ってからのお楽しみだ。まあ精々頑張れ」


 概要の説明って言ったのに、肝心のところは秘密なのかよ!?

 ど、どんなことをするんだろう……雪音の話じゃ、キャンプって言ってたけど……。

 てか、軽く流してたけど学園所有の宿泊施設って何なの? そんなものが存在するなんて……ますます規格外な学園だよな。

 本当に先生の説明はそれだけだったらしく、今度は持ってくるものとか書かれた紙が配られた。

 えっと……?


1.本人


 当たり前だろ!? 本人じゃなかったら誰が行くの!?


2.鞄。リュックなどの大き目のものが望ましい。


 おっと、いきなり俺が持ってないモノが来たぞ。

 俺は旅行する余裕すらなかったわけで、俺の家にはリュックとかそういう旅行用のかばんはないのだ。

 じいちゃんが旅好きだったからもしかしたらしっかり探せばあるのかもしれないけど……あれ? そう言えば、じいちゃんが鞄を持って旅に出てるところを見たことがない気がするんだけど……? 謎だ。

 まあ今はお金に少し余裕もあるし、買っておこう。本当はアイテムボックスがあるからいらないんだけどね。この世界じゃアイテムボックスなんて使ったら大騒ぎだよ。

 それから読み進めると着替えだったり体操服だったり、なんかわざわざ買いに行くまでのものが鞄以外特になかった。少し安心した。

 だが、楓たちは違ったようだ。


「ねえねえ、何持って行く?」

「やっぱりトランプとかは必要じゃない?」

「だよねー。晶君は?」

「君たちがゲーム類を担当するなら、僕はお菓子を持ってこようかな!」

「え? え? トランプ? お菓子? そんなモノ持って行っていいの?」


 驚いて俺が思わずそう訊くと、楓たちは逆に驚いた様子で訊いてきた。


「ええ? せっかくのキャンプなんだから、遊べるものとか用意しないと」

「そうそう。ていうか、そんなの禁止されるの中学くらいまでじゃない?」

「なんだい? 優夜。君はキャンプ初心者なのかい? それじゃあこの【キャンプの貴公子】が――――」

「アンタは黙ってて」

「しゃべらせて!?」


 どうやら俺の認識はおかしいらしい。

 いや、学校の行事なんだし、ゲームとかはだめだと思ってたんだけど……でもキャンプならそんなもんなのか……?

 認識の違いに再び頭を悩ませるが、最終的に俺が個人で用意する物は特にないらしいので、俺は配られた紙を参考に持ち物を用意すればいいことになるのだった。

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