第35話
「うーん……どうしたもんかねぇ……」
「わふ?」
俺は今、移動系の魔法をどうしようかと考えていた。
これは校外学習が決定した今、ナイトと俺のためにも最優先事項なのだ。
とはいえ、何かいいアイディアが浮かんだわけではない。
まず、違う場所から違う場所に移動するって言うのを想像するのが難しいのだ。
だって、移動先とかどう考えても鮮明にイメージできるわけじゃなく、どうしてもボンヤリと覚えてるなぁとかそんなレベルでしか頭に浮かばないのだ。完全記憶とかの特技があれば別なんだろうけどさ。
それに、移動先に石とか木とかあって、その中に埋まったらとか考えたら余計に怖くて移動できない。
「……ダメだ、頭が混乱して来た。一度休憩しよう」
「ワン」
俺は異界への扉を通って、自分の家へと移動した。
「…………ん?」
俺は何かひっかかりを感じて、もう一度異世界へと移動する。
「……ん?」
「わふ?」
ナイトがどうしたの? といった様子で見てくるが、俺は集中していて声をかけれなかった。
何だ……何が引っかかって――――。
「っ! ああああああああああ!?」
「わ、ワン!?」
俺が大声をあげたことで、ナイトはビックリしていた。ゴメン、ナイト! でも分かったぞ!
「そうだ……瞬間移動とかそんな風に考えるから難しいんじゃねぇか! 扉とかゲートとか、何かを通って移動するって考えれば何個かの問題点は解決できるぞ!」
まず、石とか木に埋まるとかそんな恐怖体験の心配はなくなるな!
「……そうだ、その扉に場所を記憶させるような機能をつければいいんだ!」
例えば、写真を撮る魔法みたいなのを開発して、その魔法と移動扉の魔法を組み合わせて移動すれば、その写真の場所まで移動できるんじゃないか?
「ここまで浮かんだし、実行してみるしかないな!」
「わふ!」
思い立ったら即行動! といった具合で、俺はすぐに魔法の開発にとりかかった。
すると拍子抜けするくらいに簡単に魔法が出来てしまった。
出来上がった魔法の効果だが、一度でも行ったことのある場所に移動できるといったものだ。
この魔法のネックなところは、一度行ったことのある場所と言うところだろう。
写真を撮る魔法……と言うか、脳内に写真のように鮮明に記憶する魔法をまず生み出して、この移動できる扉の魔法に組み込んでいるのだが、試しに教科書に載ってた行ったことのないアメリカの風景を記憶して移動しようとしたらできなかったのだ。
たぶんだけど、脳内の景色と体の情報みたいなものを一致させてるんじゃないかな? って勝手に思ってる。無駄に高性能で微妙に不便だけど俺にとって必要なのはこの家と出先の移動だから問題ない。
「これで校外学習中も問題なくナイトの世話ができるな。まあ夜とか短い時間だけだろうけど……」
「わふ」
気にするなと言わんばかりにナイトは足をテシとおいてきた。可愛い。
「それにしても……念願の移動系魔法が出来たから、やっと異世界を旅できるぞ!」
旅の道中でも時間が来ればこの家に帰って、また魔法で同じ場所に戻ればいいんだし、最高じゃないか! ……そこ! それは旅の楽しみを台無しにしてるとか言わないの! 時間がないから許して。
「よし、ならこの森の探索も早く終わらせないとな! というワケで、早速行くぞ!」
「わん!」
俺とナイトは、軽く準備を済ませると森の奥地に足を踏み入れた。
***
「キシャアアアア!」
「ナイト、そっちに行ったぞ!」
「ワン! ガアアアッ!」
俺たちは今、レイスという魔物と戦っている。
見た目としては骸骨型の幽霊で、ホラーは得意ではないものの腰を抜かすほど嫌いではない俺は何とか戦えていた。
幽霊と言うだけあって、体は半透明で物理攻撃が一切通らず、ナイトの爪による攻撃や噛みつきなどは無効化されていた。
ただ、賢者さんが残した【全剣】や【絶槍】は霊体なんてお構いなしにダメージを与えられているので、不利と言うほどではない。
それに新たに増えた魔法という戦法もレイスには効果的だったので、ナイトも積極的に攻撃に参加していた。
今もナイトは口に圧縮した水を出現させると、レーザーのようにレイスめがけて射出する。
だがレイスも魔法によるダメージは受けると分かっているため、ギリギリのところで攻撃を躱した。
「相手は俺もいるぜ!」
「キシャア!?」
攻撃を躱したことで隙を見せたレイスに近づくと、俺は首の関節をめがけて【全剣】を振り抜いた。
【全剣】は何の抵抗も感じることなくレイスの首を斬り飛ばす。
そしてレイスは光の粒子となって消えていった。
「ふぅ……魔法を上手く使いこなしながら戦うのはまだ慣れないなぁ」
「わふ」
今回のナイトは物理攻撃が効かないと分かるとずっと魔法を使っていたので問題はなかったが、俺は【全剣】の攻撃と魔法の攻撃を織り交ぜて戦うには経験が圧倒的に足りなかった。
どうしても片方の戦法だけを続けちゃうんだよなぁ。
まあ反省は家とか落ち着いた場所でしっかりするとして、俺はドロップアイテムを拾いに行ったのだが、Sランクの魔石が一つ落ちているだけだった。
「ええ? せっかく倒したのに魔石だけかぁ……まあ幽霊が何か持ってるって方がおかしいんだろうけど、少しショックだなぁ」
「わふ……」
ガッカリした気持ちのまま、俺は空を見上げた。
学校から帰ってきて、魔法の開発と探索をしていたせいか、空は満天の星空が広がっていた。
「……この世界は空気が綺麗なんだなぁ。星がこんな近くに見えるなんて……」
「ワン」
ナイトにとっては見慣れた夜空かもしれないが、俺にとってはそうじゃない素敵なモノだ。地球で人間の発展と引き換えに失ったものは確かにあるわけだから。
もう少し探索を続けたら帰ろうと決め、俺たちは再び歩き出す。
そして――――。
「うわぁ……」
「わふー」
俺もナイトも、目の前の光景に感嘆した。
森の一部がぽっかりと穴の開いた様に拓けていて、そこには月光を浴びてキラキラと輝く湖が広がっていたのだ。
「すげぇ……こんな場所があったのか……」
「わふ」
俺とナイトは思わず警戒することも忘れ、湖に近づく。
湖の水を覗き込むと、驚くほどの透明度で底の方まで視認できた。
確か、透明な水は栄養がないって聞いたんだが、水草も生き生きとしているし、湖の中を優雅に泳ぐ魚の姿も確認できた。
かなり大きい湖だから、水棲の魔物とかいるのかと思ったが、視認できる範囲と気配察知のスキルの両方にそれらしきモノは確認できなかった。
「……そうだ! ナイト、今日はここでお風呂に入ろうか? こんな景色を見ながらのお風呂なんてそうそう経験できるモノじゃないぞ」
「ワン!」
ナイトの了承も得られたところで、俺はお風呂セットを出現させた。
雰囲気は和風というより洋風な気がしたので、今回はジャグジーにしてみる。
早速風呂に入って、目の前の光景を堪能するとなんて贅沢なんだと思わずにはいられなかった。
「はぁ~……いい湯だなぁ……」
「わふ~」
「フゴ~」
…………ん?
俺は聞き慣れない声が聞こえ、思わず風呂の中を見ると……なんだか見たこともない子ブタが俺たちと同じようにお風呂を堪能しているのだった。
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