第12話
「お、森を抜けたな」
「……本当に無事に出れたよ……」
あれからすぐに準備を……と言っても、準備があるのはグレイドたちだけだったが、とにかく準備を終え、そのまま森の外を出るために出発した。
出発してからは、グレイドたちは俺が見てても分かるくらい気を張ってて、そんなに緊張してて大丈夫か? と心配してしまうほどだった。
まあ、グレイドたちが心配するような魔物からの襲撃もなく、俺にとっては最近倒し慣れてきた魔物たちをちょいちょい相手にして、ドロップアイテムを回収しながら進んでいると、こうして森の出口にまで辿り着いたのだ。
「ほら、グレイドたちが警戒するような魔物は出てこなかっただろ?」
「……俺の記憶違いじゃなければ、A級の魔物が何回も襲撃してきたと思うんだが……いや、ゴブリン・ジェネラルよりは弱いのかもしれねぇけどよ……」
「え?」
「あー……いや、何でもねぇ……とにかく! 優夜には世話になったな」
グレイドがそういうと、他のメンバーたちも俺の方を向き直り、頭を下げた。
「本当に感謝してるんだ。ありがとう!」
「いや、そんな畏まらなくても……! ……うん。その感謝を受け取るよ」
「おう」
グレイドたちの感謝を受け入れたことで、ようやく彼らは頭を上げた。
「さて、それじゃあ俺たちはもう行くぜ。森の中のことは報告するが、優夜のことは黙ってるからよ」
「……うん、ありがとう」
「気にしないでちょうだい。これくらいはしないと、私たちの気が済まないくらいよ」
「そうだね。命の恩人を売るような真似はしないさ」
フィアンナとダンも、そう言ってくれるので、安心している。
まあ、彼らなら約束は守ってくれるだろう。
「次は優夜さんが街の方へいらしてください。私たちはあの道を真っ直ぐ進んだ先にある、グランダートという街を拠点に活動しているので」
「……そうだな。優夜が街に来てくれたら、私たちは歓迎しよう」
ルルナとシルディの言葉に、俺は笑顔で頷いた。
そっか……ルルナが指示してくれた道を進むと、グランダートって街があるんだな……。
どれくらいの距離があるのかは分からないが、また連休なんかを利用して行ってみよう。
「よし、んじゃあ俺たちはもう行くぜ。本当にありがとうな!」
「また街に来たらゆっくり話しましょう」
「僕たちは君を歓迎するよ」
「優夜さん、お元気で」
「いつになるかは分からないが、また会おう」
そんな言葉と共に、グレイドたちは帰って行った。
しばらくの間、グレイドが俺に向かって手を振り続けており、やがて見えなくなると俺も帰ることにした。
「……なんだか急に寂しくなったな」
人とまともに会話するのも久しぶりだった俺は、あの賑やかな雰囲気を思い出し、少し寂しく感じた。
ただ、それ以上の問題が俺には迫りつつある。
「……もう学校が始まるのか……」
急激な体型の変化に合わせて、制服や体操服なんかは買いなおしたけど、俺が気にしてるのはそんなことじゃない。
あの暴力の嵐にまた向かうのかと思うと、気が滅入って仕方がなかった。
「………………帰ろう」
せっかく明るい雰囲気で別れたというのに、俺はどんよりした気持ちで家に向かったのだった。
***
今日はついに、高校の入学式である。
結局この休みは、ひたすらあの異世界でドロップアイテムを集めることをしていたので、バイトの面接などは受けていない。
それどころか、あの異世界の家で自給自足できてしまうため、家からもほぼ出ていないのだ。
まあ、幸いドロップアイテムを換金し続けたおかげで、お金に関しては恐ろしいほど手持ちにあるわけだが……本当に怖くて、アイテムボックスから迂闊に出せない。
そんな俺のステータスだが、現在はこんな感じである。
【天上優夜】
職業:なし
レベル:233
魔力:5880
攻撃力:7880
防御力:7880
俊敏力:7880
知力:5380
運:8380
BP:0
スキル:≪鑑定≫≪忍耐≫≪アイテムボックス≫≪言語理解≫≪真武術:6≫≪気配察知≫≪速読≫≪料理:5≫≪地図≫≪見切り≫≪弱点看破≫≪同化≫
称号:≪扉の主≫≪家の主≫≪異世界人≫≪初めて異世界を訪れた者≫
スキル含めてレベルが上がり、≪真武術≫に至っては、なんかもう漫画みたいな動きが軽々とできるので笑うしかない。
この≪真武術≫のために買った本も、全部読みきってしまったしな。
今さらながら、近接戦闘は上達したけど、この間シルディたちが来ていたときに、フィアンナから魔法のことを少しだけでいいから教えてもらえばよかったと後になって思ったのだ。惜しいことをした。
まあ、それだけ俺も緊張してたってことで、残念には思うけど、そこまで悲嘆に暮れていない。
いや、学校に行くという事実は、悲嘆に暮れたいくらいだけどさ。
「はぁ……憂鬱だなぁ……」
とはいえ、俺としては学校を休むという選択肢はない。しかも入学式だし。
授業中どれだけ妨害されようが、お金を払って通ってるわけだし、何より俺は勉強を頑張らなきゃ未来が見えないわけだからな。
「……うん、行こうか」
どれだけ自分を奮い立たせようとしても、結局憂鬱な気分は変わることなく、俺は沈んだ気分のまま新しく買いなおした制服を着て、家を出るのだった。
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