第80話
ヴィオラさんとの生活が始まって、一週間が経過した。
最初こそ、俺のことをすごく警戒していたヴィオラさんだが、少しずつ心を開いてくれて、今は同じ食卓で食事ができるようになった。
元々はおじいちゃんの家で食事をしていたが、今ではヴィオラさんと食事をするために、賢者さんの家で過ごすことが多くなった。
こうしてヴィオラさんの両親からの連絡を待ちつつ、日々を過ごす中、俺はようやくあるモノを購入しようと考えていた。
それは……。
「ついに俺も、スマホデビューか……!」
「まあ、今まで持ってなかったことの方が意外だよなぁ」
「う、うん。特に僕たちくらいの年齢だと珍しいかも……」
そう、スマホである。
今までの俺は、電気や水道代で精いっぱいな生活だったから、スマホなどは持っていなかった。
何より連絡する相手もいなかったしね。
でも異世界のドロップアイテムを扉の効果で換金したおかげで、お金がかなり貯まっているのだ。
……正直、謎の力で生み出されたお金を使うのは気が引けるが、この世界の通貨として使えるものなら、世の中にどんどん放出しないとそれはそれで不味いだろう。
というより、この場合の税金関係ってどうなるんだ……?
ダメだ、全く分からないし、誰にも相談できない……!
やっぱり使わずにアイテムボックスで死蔵させておく方が無難なんだろうか?
今更ながら色々考えていると、今回買い物に付き合ってくれることになった楓が、不思議そうに俺の顔を覗き込む。
「ん? 優夜君、どうしたの?」
「あ! い、いや、何でもないよ」
「そう? それにしても、こうしてたくさんの友達と買い物に出かけるのって久しぶりだなぁ」
楓の言う通り、今回のスマホ購入には亮と慎吾君、そして凛と雪音といった、かなりの大人数が付き合ってくれているのだ。
「皆、わざわざ放課後にこうして付き合ってくれてありがとう」
「気にすんなって! せっかくなら買ったその場で登録したいしよ」
「そ、そうだよ! それに、僕も多少ならアドバイスできると思うし……」
確かに慎吾君は機械系に強そうなイメージがあるので、非常に心強かった。
そんなこんなで目的の携帯ショップにたどり着くと、早速スマホを見て回った。
「うわぁ……いろんな種類があるんだね……」
「本当に反応がいちいち若者っぽくなくて笑えるねぇ」
「……ん。これくらいは普通」
「こ、これが普通なのか……」
こんなにたくさんの機種が存在すると、どれを選べばいいのかまったく分からなくなりそうだが……凛たちの様子を見ると、そうでもないらしい。すごい。
とはいえ、俺からすれば何を選べばいいのか分からないので、素直に慎吾君に訊いてみた。
「その、何かおすすめのスマホってあるの?」
「う、うーん……加入するプランによって金額も変わるんだけど……ただ、機能だけで見るなら、優夜君がどんな用途で使用する機会が多いかで選ぶのが一番じゃないかな?」
「え、使用する用途って……電話以外にあるの?」
「え? そ、それはそうなんだけど、例えば……スマホでゲームをよくするとか」
「元々ゲームをあまりしないからなぁ……」
「そ、それじゃあ写真をよく撮るとか……」
「うーん……別に写真を撮る趣味はないかなぁ」
「え、えっと……ネットをよく使うとか……?」
「特別ネットが無くて困ったことはないしなぁ……」
「アンタ、ガラケーでいいんじゃないかい?」
「ここにきて!?」
まさかの凛の言葉に驚いた。
いや、スマホを買いに来たのに何でガラケーという選択肢が!?
「だって、今の感じだと、電話する以外にスマホを使わないんだろう?」
「う、うん。というより、スマホって電話でしょ?」
「いや、まあそうなんだけどね? そうじゃないっていうか……」
「……これはなかなか致命的」
「そこまで!?」
雪音さん。俺、そんなにヤバいんですかね?
だ、だって、今までテレビすらない環境で過ごしてきたから、ネットとかなくても困らないというか……いや、本当は必要なのかもしれないけどさ。
本気で困っていると、楓が助け舟を出してくれた。
「ま、まあでも、後々ネットとかゲームとかしたくなったときのために、ある程度のスペックが備わった機種を買えばいいんじゃないかな?」
「そ、そうだね。値段は高くなるかもしれないけど、それなりの機能があれば、優夜君がスマホに慣れたころに色々と便利かもしれないしね」
慎吾君の後押しもあり、そのあとは店員さんに話を聞いて、ひとまずだいたいのことを十分にこなせるスマホを購入することができたのだった。
目的の物を購入できたので、あとは周辺を少し散策し、帰宅するだけとなったのだが……。
「ただいまご契約いただいたお客様に、くじ引きが引けるキャンペーンを行っておりますので、ぜひそちらにチャレンジしてみてください」
どうやら運よくキャンペーン期間に契約できたようで、せっかくなのでくじ引きを引かせてもらうことにした。
すると、くじ引きの会場にはガラポンと景品の詳細が書かれたパネルが設置してある。
「一等は海外旅行だってよ」
「へぇー! でもこういうので当たったことないんだよねー」
「そりゃあポンポン当たられても店側が困るからだろう?」
「で、でも、二等以下も豪華だよ!」
「……うん。テレビに最新のゲームもあるね」
皆の言う通り、景品は非常に豪華で、他にもマッサージチェアやら自転車やら、色々な景品が用意されている。
ただ、楓の言う通り、こういうくじ引きで当たることはまずない。
それに、仮にマッサージチェアが当たってもね……家のどこに置けばいいのか困りそうだ。
「うーん……俺は五等のトイレットペーパーとか洗剤だと嬉しいなぁ」
「……優夜、アンタねぇ……」
俺の発言に、何故か凛が残念そうな視線を向けてきた。あれ? おかしいかな?
「あ、残念賞のティッシュひと箱も嬉しいよね」
「……優夜は思考回路が主婦とか上の世代と同じだね」
「ま、まあそこが優夜君のいいところだから!」
雪音の言葉に対し、フォローするように楓がそういうが……そんなに年寄りっぽいかなぁ。
ひとまず俺の感性は置いておいて、早速くじを引かせてもらう。
すると……。
「おめでとーございます! 二等の液晶テレビです!」
『え!?』
なんと、俺は二等を引き当ててしまった。
俺を含め、皆呆然としている中、大きな箱に入ったテレビが運ばれてくる。
それを受け取り、店を出たところで、俺はようやく正気に返った。
「……トイレットペーパー欲しかったな……」
『そっち!?』
一斉にツッコまれた。
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