第50話

「ふぅ……」


 一通り本を読み終えると、俺は一度体を伸ばした。

 レナさんに教えてもらった本は、どれも分かりやすく、とても助かった。

 特に法律関係なんかは大助かりだ。地球で六法全書とか読んだこともない俺が、正直法律関係なんて分かるのかとも思ったが、レナさんの持ってきてくれた本が分かりやすかったのと、何より法律がそもそも複雑じゃないこともあって、何とか理解できた。

 なんていうか、俺が警戒するような法律は特にないのだ。

 地球の倫理観に則っていれば、法を犯す心配もない。

 ただ、盗賊とか、そういった悪事を働く者たちに襲われた時、その相手を殺しても罪に問われないとかは、異世界ならではといった法律だ。

 他にも、お酒もこの世界では15歳から飲めるらしいし……飲んでみたい気持ちももちろんあるが、地球じゃダメだからなぁ……悩むところだ。

 でも地球のお酒を異世界で売るのはいいかもなぁとは思った。そもそも年齢的にお酒は買えないけどさ。

 まあ法律関連はそんな感じである程度理解して、魔法関連に進んだのだが……こっちのほうが大問題だった。

 まず、賢者さんの理論がない。

 どれも属性がどうとか、詠唱がどうとか、そんなことばかりだったのだ。

 ……どうしようか。知識として知ることができたのはいいけど、俺のためにはならなかった。賢者さん方式が本当は一番正しいんだろうし。

 それでも知識として知ることができたから、他の人たちの前で魔法を使うとき、失敗しないで済むだろう。……いや、咄嗟に使っちゃったりしてすぐにボロが出そうだけどさ。

 とはいえ、魔法関係で何の収穫もないのかと言えば、そんなことはない。


「【魔法具】かぁ……」


 持ってきてもらった本の中に、【魔法具】と呼ばれる道具に関する本があったのだ。

 魔法具とは、その名の通り魔力や魔法が宿った道具のことである。

 例えば、まだこの街の夜を体験してないから分からないけど、どうやら街中にある街灯とかは魔法具らしい。

 魔力を流せば誰でも魔法や効果を発動できるのだ。

 この魔法具を作るときに、初めて今まで使い道が分からなかった魔石が使用される。

 なんでも魔石のランクが高ければ高いほど、魔力の貯蔵量が多かったり、長持ちしたりするそうだ。

 そして魔法具に一番の興味を持った理由は……。


「これ、俺でも作れそうなんだよねぇ……」


 そう、商人ギルドに売る道具として、俺が作った魔法具を売ってみるのもアリだなぁと思ったのだ。

 本を見た限り、魔法具を作るうえで必要なのは魔石と、【魔法文字】を刻み込んだ道具だけらしい。

 【魔法文字】とは、この世界の言語を魔力を流しながら道具に彫り込んだもののことを言い、その魔法文字が刻み込まれた道具と魔石が組み合わさって魔法具となるようだ。その魔法文字の内容も、もちろん魔法具として働かせたい効果の意味を持つ言葉じゃなきゃいけない。

 ただし、この魔法文字にはいろいろな制約があるらしく、素材によっては刻み込める文字数が決まってるんだとか。なんだそれ。

 例えば冷蔵庫のような魔法具を木で作ろうとすると、木は三文字しか刻み込めないため、この世界の言語である魔法文字じゃ不可能なのだ。

 日本語の漢字を混ぜた言葉なら『冷やす』でいけるんだけどね。

 そう、本を読んだ感じ、恐らく漢字とかを魔法文字にしてもいけるような気がするのだ。

 魔法文字を刻み込んだ者が、その言葉の意味を正確に把握できてないといけないらしいけど、それなら漢字は分かるし、いけるだろう。

 ……それに、漢字も不確定要素ではあるが、もっと文字数を少なくできる方法もあるんじゃないかと思っている。

 例えば、俺が使う俺だけの言葉を創っちゃってもいいのではないかと。

 『・』っていう点を『燃やす』って意味でとかそんな感じで暗号を創るみたいに、造語してしまえばもっと減らせるような気がするんだよな。

 それに近い別の方法でいえば、火をデフォルメした絵にしてみるとか。凍らせるなら雪の結晶とかさ。

 とにかく一度調べてみないことには何も言えないけど、魔法具を作って売るのもアリな気がする。何より賢者さんの家の周辺の魔物から手に入る魔石はAランクとかばっかりだしね。

 環境的にはかなり魔法具づくりに適してると思うし、何気にそういう工作をまともにするのは初めてだ。……今までそんなお金もなかったし、何より小学生の頃の図工とか邪魔されてまともにできなかったし。


「ごめんね、ナイト、アカツキ。とりあえず調べたい物は調べ終わったから、そろそろ行こうか」

「わふ」

「ふご」


 新たにやってみたいことができた俺は、本をレナさんのところへ持って行った。


「レナさん、ありがとうございました。本はどこに返せばいいでしょう?」

「いいえ、どういたしまして。本はそちらの箱に入れていただければ大丈夫ですよ」


 受付の机の上に、木でできた箱が置いてあり、中には同じように返却されたであろう本が何冊か入っていた。

 そこに本を入れていると、レナさんが訊いた。


「ユウヤさん。何か発見はありましたか?」

「そうですね……個人的に【魔法具】が気になったので、今度試してみようかなと」

「魔法具ですか。珍しいモノに目を付けましたね」

「珍しいですか?」


 俺が少し意外に思いながらそう訊くと、レナさんは教えてくれた。


「ええ。魔法具はまず魔力文字を刻み込むのが大変だそうですし、何より文字数を増やすための素材が高価なので、どうしても割高になってしまうんですよ」

「なるほど……じゃあ魔法具ができたとしても需要はあまりないんですか?」

「そういう訳ではないですよ。もし仮に木が素材で作られた食材を冷蔵保存できる魔法具なんかできたのなら、魔法具の世界に革命が起きますし、飛ぶように売れるでしょうね。現在の冷蔵保存ができる魔法具は、どれもミスリル製品がほとんどですから」


 ミスリル……地球じゃ存在しない物質だな。

 でもやっぱり、レナさんの話を聞いてると上手くいけば魔法具でお金を稼げそうだ。

 最後にとても貴重な意見を聞け、俺は改めてお礼を言うと図書館を後にするのだった。

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