第22話
「優夜さん――――『王星学園』に来ませんか?」
俺は何を言われたのかすぐには理解できなかった。
あまりにも突然な言葉で、ただただ呆然としていると、女の子は続ける。
「申し遅れましたが、私は
綺麗なお辞儀をしてみせる女の子――――宝城さんを見て、俺は未だに呆けている。
そして、やっと正気に返った俺は、声を絞り出すように訊いた。
「あ、あの……俺が『王星学園』にって……どういうことでしょうか……?」
俺の質問に、なぜか宝城さんではなく、執事服に身を包んだ女性が答えてくれた。
「優夜様。佳織様のお父様は、『王星学園』の理事長をしておられ、以前優夜様が佳織様を悪漢から守っていただいた話を聞き、ぜひ我が学園にとおっしゃられました」
「そんな……俺はただ……」
守ったなんて、とてもじゃないが言えない。
ただ、一方的にボコボコにされただけなんだからな。
しかし、そんな俺の心情を察したのか、宝城さんは優し気な表情で言った。
「優夜さん。他の方が見て見ぬふりをする中、貴方だけは動いてくれました。それは、誰でもできることではありません。貴方は確かに私を守ってくれました」
「あ……」
純粋な感謝の気持ちをぶつけられ、俺は温かい気持ちになると同時に、少しだけ気恥しくなった。
そんな俺に、再び宝城さんは訊く。
「それで、どうですか?」
「……それは大変有り難いのですが、私自身、特に秀でたことはありません。『王星学園』に編入できるような学力も……」
「ああ、それは――――」
「あの!」
宝城さんが何かを言おうとした瞬間、その声を遮って、今まで黙っていた陽太が声をかけた。
言葉を遮られたにも関わらず、宝城さんは優しい表情のまま、対応した。
「どうかしましたか?」
「それ、俺たちを入学させませんか?」
「え?」
陽太は、自信満々の表情でそう告げた。
「そこにいるヤツなんかより、俺たちの方が圧倒的に優れていますし、絶対俺たちを入学させた方がいいですよ!」
「そうです! 私たちなら、今の学校でも常に成績も上位をキープしていますし、運動面でも大活躍は間違いなしです! 学校の様々な部活で助っ人としてたくさん参加しているんですから!」
陽太の言葉に、空も便乗する形でそう言った。
「ですから、来年はぜひ俺たちを――――」
「お断りします」
「…………は?」
自信たっぷりに言葉を続けようとした陽太の言葉を、今度は宝城さんが遮る形でキッパリと断った。
「え、いや、その……今、何て……?」
「ですから、お断りしますと申しました」
陽太たちは、まさか断られるとは思っていなかったのか、呆然としている。
俺も、そんなにハッキリと断るとは思っていなかった。
事実、陽太たちの方が優秀だ。
俺なんて、毎日予習復習をしていても、成績がすごくいいわけでもないし、運動なんてもっての外だったわけだ。
納得できない陽太たちは、宝城さんに訊く。
「ど、どうしてですか!? そんなヤツなんかより俺たちの方が――――」
「お話になりませんね」
「え……」
さっきまで、優し気でにこやかだった宝城さんが、毅然とした態度で陽太たちにハッキリと言った。
「私は優夜さんを恩人だと思っています。その優夜さんを侮蔑するような方を、入学させたいと思いますか?」
「そ、それは……」
「それに、あなた方の日ごろの行いは調査済みです」
「え!?」
宝城さんの言葉に、陽太たちは驚きの声を上げた。
そして、宝城さんが隣の執事姿の女性に目配せをすると、執事の女性は淡々と告げる。
「優夜様を『王星学園』に招待するにあたり、その周辺調査を行いました。もちろん、人間関係も……その結果、陽太様と空様は優夜様だけでなく、他の生徒にも過激な虐めを行っていたことが判明しております。もちろん、陽太様と空様だけでなく、他にも多くの生徒や……さらに、教師までが虐めを行っていることが発覚いたしました」
「な……」
陽太たちは、執事の女性の言葉に、絶句している。もちろん、俺もだ。
しかし、空はすぐに反論した。
「そ、そんなの証拠はあるんですか!?」
「証拠の有無がどう関係するのでしょうか?」
「そんなの、私たちの無実を証明するために――――」
「そうですか。なら、ハッキリ言いましょう。証拠はあります。証拠はありますが、私たちからするとそんなものはどうでもいいのです」
「どうでもいいって……!?」
「どうでもいいでしょう? 我々は優夜様を『王星学園』へとお招きしたいだけなのです。そして、我々が手に入れた情報から、あなた方を入学させたくないという結論を出したまでなのですから。ああ、ご安心を。これらの情報を記者などにリークする気はございませんので」
執事の女性の言葉に、空たちは何も言い返せなかった。
宝城さんが執事の女性に再び目配せすると、執事の女性は洗練されたお辞儀で背後に控えた。
「先ほど言いかけていたことになるのですが、我が学園の入学や編入はそれほど難しいものではないのですよ」
「え!?」
「『王星学園』は、品行方正とまでいかなくとも、普段から善い行いをしていれば簡単に入学も編入もできます。学力など勉強次第でどうとでもできますし。それよりも、人間性を重視しているのです。ですから、あなた方二人が入学することは不可能ですね」
そう言い切られた陽太たちは、絶望していた。
俺の学校は、中高一貫とはいえ、別の高校に進学する人ももちろんいる。
そういう人たちは大概今の学校より高いレベルの学校を選ぶのだ。
そして、陽太たちの反応を見るに、陽太たちも別の学校の進学を考えていたようで、恐らく陽太たちが目指していた高校が、『王星学園』だったのだろう。
確かに、そんなトップレベルの高校がこの近辺にあるのだから、そこを陽太たちが目指すのは必然だろう。陽太たちの学力なら問題はないはずだったわけだし。
だが、その目指していた学園の生徒……それも、理事長の娘から、ハッキリと入学は不可能と言われたのなら、この反応も仕方ないだろう。
陽太たちと話していたときとは変わり、再び優し気な表情で宝城さんは俺に向き直ると、話し始めた。
「すみません、話が逸れてしまいましたね……ですが、先ほど言った理由から、優夜さんが『王星学園』に編入するのには問題はないのです」
「な、なるほど……」
なんていうか、『王星学園』の方針って変わってるな……。
普通、学力や運動能力が大きく関わって来るって言うのに、ここまでハッキリとそれが関係ないって言うなんて……。
思わず顔を引きつらせていると、宝城さんは笑顔で言った。
「ひとまず、このまま私たちの学園に来ていただけませんか? そこで父……理事長と話をしていただいて、それから決めていただいても全然かまいませんので」
そういうと、宝城さんは俺をリムジンへと促す。
執事の女性も、宝城さんの言うことが分かっていたのか、すでにドアを開けて待機している。
「あ、優夜さん。先ほどそこのお二人の情報は公表しないと申しましたが、教師につきましてはすでに懲戒免職をされていますので、ご安心を」
「ええ!?」
安心ってなに!? 俺はその情報収集力と行動の速さに恐ろしさしか感じないんだが!?
いや、確かに教師にも虐められてたけどさ! 体罰は当たり前で、虐めを増長させることもクラス全体で言われたしさ!
まさかの言葉に、再び俺が驚いていると、宝城さんは笑顔で呆然とする陽太たちにお辞儀をした。
「それでは、ごきげんよう」
そして、そのまま俺は『王星学園』へと向かうのだった。
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