第3話
あれから、外に散らかした武器を片付けようとして、【アイテムボックス】というスキルを手に入れていたことを思い出し、それを使ってみることに。
だが、いざ使ってみようとしたのだが、どうすればスキルを発動できるのか分からず、取りあえず心の中で【アイテムボックス】を唱えると、俺の目の前に真っ黒い空間が出現した。
突如現れた黒い空間に腰を抜かしたが、俺の意思ひとつで出現させたり、消滅させたりできることに気付くと、そのまま俺の家にあったボールペンを黒い空間に放り込んでみた。
そして、一度空間を消滅させ、再び出現させた後、その空間に恐る恐る手を突っ込むと、脳内に何が入っているかという情報が流れてきた。
それからの行動は早く、早速散らかした武器を次々とアイテムボックスに放り込んで片付けた。
もちろん、出し入れが自由であることは確認済みだ。地球でも出せたのは驚いたけどな。
そんな確認を一通り終えたあと、精神的に疲れた俺は、よろよろとした足取りで不思議な扉をくぐり、元の訳の分からないモノで溢れた物置に戻った。
夢じゃ……ないんだなぁ……。
思わず遠い目をしていると、不意にお腹が鳴った。
時計を確認すると、ちょうどお昼時だった。
そう言えば……あの扉の向こうも、こっちと同じ時間の流れっぽい。俺としてはありがたいけど。
空腹を満たすために家の冷蔵庫を開けるも、中は空っぽだった。
「うわ……買い出しに行こうと思いながらも行ってなかったからなぁ……」
非常に面倒くさいが、このままだと空腹で倒れてしまうため、俺は財布を手に取ると、そのまま何か食べるものを買うために、近くのコンビニに行くことにした。
外に出ると、まだ春先だというのに強い日差しに晒され、すぐに汗が出てくる。
うん……デブの辛いところだなぁ……。
もうすでにバテながらも、何とか近くのコンビニまで辿り着くが、そこで俺は嫌な場面に遭遇した。
「なぁなぁ、いいじゃんよ。俺たちとお茶しようぜ?」
「ですから、何度もお断りしているじゃないですか! 帰してください!」
「そう言わずにさぁ~」
派手な格好をした男たちが、俺と同い年くらいの少女に絡んでいるのだ。
俺の来たコンビニは、人通りの多い場所とはいえ、所詮住宅街だ。そんな場所で、しかもコンビニ前でナンパをするなんて……。
少女は嫌がっており、何とか男たちから離れようとするが、男たちは執拗に迫る。
周囲を見てみると、人はいるものの、誰もが見て見ぬふりをしていた。
すると、男の一人がついに少女の腕をつかんだ。
「ほらほら、行こうぜ」
「大丈夫、悪いようにはしねぇからさ」
「イヤッ! 放してください!」
「あ、あの!」
「……あ?」
一斉に、男たちの視線が俺に向けられる。
その視線は、非常に鋭く、それでいて俺のことを見下しているのがハッキリと分かった。
…………正直な話、すごく怖いし、俺も無視していたい。
でも、おじいちゃんがいたら、迷わず助けに行ってただろう。
おじいちゃんは、人が困ってたら迷わず助けるような人だったからな。
例え周りから偽善者扱いや変人扱いされようとも、自分の信念を変えないおじいちゃんが、俺は誇らしかったし大好きだった。
そう思ったら、俺の口は自然と動いていた。
「んだよ、デブ。俺らに用でもあんのか? あぁ!?」
「ひっ! い、いえ……あの……その……い、嫌がってると思うんですけど……」
「はぁ?」
俺の言葉が気に障ったらしく、男たちは少女を放すと、俺を囲うように立ちふさがった。
「なめてんのか? テメェ」
「いや、そういうわけじゃ……」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよっ!」
「ぎゃっ!?」
男の一人が、容赦なく俺の顔を殴りつけてきた。
あまりの痛さに転がると、男たちはそれだけで終わらず、俺の体中を蹴りつけてきた。
「俺らのやることに口出しすんじゃねぇよ……このクソがっ!」
「きめぇんだよっ!」
「死ねやオラァ!」
顔、胸、腹。
男たちの鋭い蹴りが突き刺さるたびに、俺の意識は飛びそうになった。
すると、散々俺をボコボコにしてきた男たちは、突然暴行をやめ、焦り出した。
「おい、サツが来たぞ!」
「はぁ!? フザケンジャねぇ!」
「誰かがチクったんだろ? いいから逃げるぞ!」
どうやら、誰かが警察に通報してくれたらしく、男たちはその場から走り去っていった。
体中が激しく痛むが、我慢できないほどじゃない。骨も折れてないっぽいしな。
……ああ、こんなところで日ごろの耐性を発揮しなくてもなぁ。
とも思ったが、ちょっとおかしい。
今までの俺なら、こんなのすぐに意識を持っていかれてたはずなのに、今はギリギリとはいえ、意識をつなぎ留められている。
……もしかしなくても、スキルの【耐性】が発動しているんだろうか?
【鑑定】が家で使えた時点で分かってたことだけど、地球でもスキルって働くんだなぁなんて思っていると、さっきまでナンパされていた少女が駆け寄ってきて、俺のことを助け起こしてくれた。
「大丈夫ですか!? すぐに救急車を……!」
「だ、大丈夫です……大丈夫ですから……き、救急車はいいです……」
「で、ですが……」
「いえ、本当に……大丈夫なんで……」
こんな醜い俺を、心配してくれる少女に感動しながら、俺は痛みをこらえて立ち上がった。
「災難でしたね……これからは気を付けてください」
「え!?」
俺は、すぐに少女から離れようとすると、少女は驚いたような声を出した。
……本心は分からないが、心配してくれているのに、距離をとるのは良心が痛む。
でも、女の子からしたら男の人に絡まれるのは恐怖だろうし、そんな状況に遭遇した今、同じ男である俺がそばにいるのも怖いんじゃないか? と思っての配慮のつもりだ。
まあ、男としてどころか、人間としてさえ認めてもらっていないなら、関係ないかもしれないけど。
そんな自虐的に考えていると、駆け付けたという警察がやって来た。
警察官は、女性二人と男性一人で、これなら少女も安心だろう。
「さっき、通報があって来たのですが……」
「あ、私が男の人たちに絡まれていて、困っていたところをこの人に助けてもらったんです! それで……」
少女が詳しく警察官の人たちに説明すると、被害者は俺だけだったこともあり、大事にはならなかったようだ。……被害者は俺だけだからってのも変な話だけどな。
ちょっとした取り調べを受けた後、警察官は少女を家まで送っていくことになったようだ。
そして、俺の方に向き直る。
「君も送ろう。家はどっちだい?」
「い、いえ、大丈夫です……自分は、ここで買い物するために来たので……」
「そうか……では、気を付けてね」
警察官たちが、少女を連れて行こうとすると、不意に少女は俺の方を向いて、頭を下げた。
「この度は、助けていただきありがとうございました!」
「え? あ、いや、気にしないでください……結局、俺は何もできませんでしたし」
「そんなことありません! 事実、私はとても嬉しかったです! ……あの、もしよろしければお名前を教えていただけませんか?」
「へ? あ、て、天上優夜です……」
「優夜さん……ですね。優夜さん、本当にありがとうございました。このお礼は、必ずいたしますので」
「き、気にしないでください。……じゃ、じゃあ、これで……」
普段人と話すことのない俺は、言葉に詰まりながらも何とかそう切り上げ、少女たちと別れた。
……少女の顔を、俺はまったく見れなかった。
そもそも、俺は女性と話すことなんてまずないし、話したとしても、それは一方的に浴びせられる罵声の数々だ。
そんな経験をずっと続けたせいで、俺の女性に対する免疫はゼロ。
だが、少女は形だけかもしれないが、俺のことを心配してくれたのだ。
いい子そうだったが……ああいう子には、幸せになってもらいたいものだ。
そう思いながらも、俺はコンビニで目的の物を買う前に、もう少し足をのばしてスーパーで食材などを買って、その帰りに再びコンビニにより、俺はやっと家に帰るのだった。
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